最近、毎年のように豪雨や台風などで災害が起きています。今年の夏は、東京都心で猛暑日(最高気温35度以上)が過去最多となるなど、各地で記録的な暑さになりました。
そうした状況の中、私たちの生活に欠かせない天気予報は、どのように「進化」してきたのでしょうか。国の役所である気象庁天気相談所の清水直幸調査官に聞きました。【田村彰子】
◇最初の天気予報は?
天気予報のことを、気象予報とも言います。1800年代半ばには、日本に先んじて、ヨーロッパやアメリカで天気予報が始まりました。日本で最初に天気予報が発表されたのは、138年前の1884(明治17)年6月1日です。東京気象台(気象庁の前身)が全国22か所の天気や風速、気圧などの記録を電報で集めて天気図を描き、8時間先までの天気予報をしたのです。1日3回、全国の天気予報を発表しました。
最初の天気予報は「全国一般 風ノ向キハ定リナシ 天気ハ変リ易シ 但シ雨天勝チ」という、全国の予報をたった一つの文で表すものでした。今の言い方なら「全国的に、風向きは特に決まらずさまざまで、天気は変わりやすく、雨が降りやすいでしょう」といった、大まかなものでした。
24時間先まで予報できるようになり、新聞に天気予報が載るようになったのは、1888(明治21)年。1925年にラジオ放送が始まり、天気予報が広く伝わるようになりました。
◇今はどんな天気予報なの?
第二次世界大戦後、天気予報はめざましく進歩しました。今は、明日・あさってまでの天気予報と、週間天気予報、2週間気温予報、早期天候情報、より長い期間を予測する季節予報などがあります。
さらに、災害から身を守るための「防災気象情報」として、大雨や強風などの注意報・警報・特別警報、自分のいる場所の危険度がすぐわかる「キキクル」、今後の雨の「降水短時間予報」、雨の強さや雷、竜巻の可能性を予測する「ナウキャスト」、台風情報、土砂災害警戒情報、熱中症警戒アラートなどなど、たくさんの気象予報を気象庁が発表しています。
計算による予測精度は進歩していますが、最後に決断を下すのは長年経験を積んだ「予報官」と呼ばれる人たちです。予報官に「気象予報士」の資格は必要ありません。気象庁で必要な研修を受け、長年天気予報に関わる仕事をしてきた職員が予報官になります。
◇一番新しい予報は?
気象庁は今年6月から、「線状降水帯」の予測情報の発表を始めました。発達した雨雲(積乱雲)が次々とできて長さ50~300㌔㍍ほど帯のように連なり、同じ場所で数時間にわたって長く大雨を降らせるのが線状降水帯で、各地で深刻な被害が出ています。今年は、線状降水帯発生の可能性が高まった場合には、全国を11地方(北海道、東北、関東甲信、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州北部、九州南部・奄美、沖縄)に分け、発生の半日ほど前に、発生する時間帯を「午前中」「夜」などと幅のある形で発表しています。
今はまだ、線状降水帯が生まれる仕組みは未解明な点が多く、普通の天気予報ほど高い精度では予測が難しいのです。気象庁は2019~21年に発生した線状降水帯などのデータをもとに予測情報の精度を調べてみました。その結果、的中は4回に1回程度なのですが、予測情報が出された地方では、たとえ線状降水帯が発生しなくても、災害級の大雨が約6割の確率で起こることが分かりました。危険を事前に知ることは大変重要です。気象庁は、24年には県単位、29年には市町村単位での発表を目指しています。
◇予報はどれぐらい進歩したのかな?
最初の天気予報は非常に大まかでしたが、観測や通信、計算技術などが進歩し、予報を細かくできるようになってきました。観測所などの観測点が増え、海外や船のデータも使うようになり、さらに気球を使った上空の気象観測(高層測)や、雨雲をとらえる気象レーダーなども力を発揮しています。
特に気象衛星は、日本の周りは海で観測点がほとんどないので、海上の雲や台風の様子などをとらえるのに大きく役立っています。日本では1978年から気象衛星「ひまわり」の観測が始まりました。また、コンピューターを活用した数値予報で、人の経験や過去のデータをもとにした予報から、大きく進歩しました。コンピューターの性能が高まり、計算のしくみも高度になって進化し続けている分野です。
現在、翌日に1㍉㍍以上の雨が降るか降らないかの天気予報は、季節や場所によって多少違いますが、だいたい80%から90%当たるといいます。
◇天気予報を生活に生かそう
空模様などで天気の変化が分かる場合もありますが、限られた場所の少し先までのことです。大気の状態は刻々と変わります。そのため天気予報は時間が先になるほど、精度は落ちます。常に最新の予報や気象情報を利用し、日々の生活や行動の計画の参考にしてください。
また、大雨が予想されるような場合は、危険度が高まるのに応じて発表される防災気象情報や「キキクル」などを活用して、自ら早めに避難行動をとるようにしてください。そして、警戒レベル5の情報や特別警報の発表を待つことなく、自治体の避難情報に従って行動しましょう。
普段から、自分の今いる場所が、がけや斜面の近くか、川のそばや低い場所か、そして大雨の時にはどんな危険があるか、避難する場合はどこを通ればよいか、などをハザードマップなどを使って確認しておくことが大事です。
(2022年09月14日掲載毎日小学生新聞より)