国技と言われ、日本の伝統文化でもある相撲。1500年以上前から続く相撲の魅力や素朴な疑問を、「大相撲中継」の編集長である北出幸一さんが答えてくれる「教えて編集長!」。今回は、力士が引退後に進む道を教えてもらいましょう。
十両以上の関取経験者なら、一定の資格があれば「年寄名跡」を襲名して、親方になれるんだよ。親方になれる資格は、横綱、大関、三役は1場所以上、幕内は通算20場所以上、幕内と十両を合わせて通算30場所以上と日本相撲協会の規定で決まっているんだよ。
「年寄名跡」の襲名は書類の審査を受けて、理事会で承認されなければいけないんだ。親方になったら最初は平年寄から始まり、主任、委員、役員、待遇委員、副理事、理事と階級があって、サラリーマンと同じだよ。副理事と理事は選挙で選ばれるんだ。
横綱と大関は、現役時代からほかの三役以下の関取とは別格の扱いだけど、親方になるときも特別扱いされちるんだ。「年寄名跡」がなくても、横綱は5年間、大関は3年間、現役時代の四股名のままで年寄になれるんだ。しかもこの期間は平年寄ではなく、委員と同じ待遇だよ。
まず相撲記者クラブで記者会見をするよ。師匠と2人で現役引退と「年寄名跡」の襲名を理事会で認められたと発表するんだ。記者会見では現役時代の思い出に残る一番や、これからどんな力士を育てていきたいかなどが質問されることが多いよ。
年寄になっても親方の頭には半年以上、髷(まげ)が残っていて、本場所の会場警備などで髷をつけている親方の姿がテレビの中継で見られるよ。
国技館で引退相撲と断髪式が行われて、後援会の関係者や一門の親方、関取衆にはさみを入れてもらい、最後に師匠が髷を切り離すんだ。その後、髪を整えた姿でファンにあいさつするんだよ。
親方になれなくても、引退した十両、幕下力士でふさわしいと認められれば、若者頭、世話人という日本相撲協会の仕事につくことができるんだ。
若者頭は本場所の表彰式の進行や幕下以下の若い力士の監督などが仕事だ。世話人は相撲の用具の運搬や管理などを行うんだ。若者頭は8名以内、世話人は13名以内という定員があるので、空きがないとなれない。相撲部屋のマネージャーやコーチという肩書で相撲界に残る人もいるよ。幕下以下の力士は新たな仕事で第二の人生をスタートする人のほうが多いんだ。
秋場所直後の9月28日に元幕内里山の、29日に元横綱稀勢の里の断髪式と引退相撲が相次いで行われた。国技館の土俵を使って十両と幕内の取組もある引退相撲を行えるのは現役時代に実績を残した限られた力士だけで、ファンに見てもらう最後の晴れ舞台となる。
元幕内里山の佐野山親方の引退相撲では、同じ奄美大島出身の十両大奄美が髪結い実演に登場し、里山が最後の土俵入りをした。長男瑛汰君との最後の取組が見せ場を作り、十両の取組に続いて断髪式が行われた。
元横綱稀勢の里の荒磯親方の引退相撲では全国相撲甚句協会のお祝い甚句から始まり、十両の取組のあとに、横綱稀勢の里最後の土俵入りが行われた。弟弟子の大関高安が太刀持ちを務め、兄弟子の襲名披露を祝い、断髪式へと続いた。弓取り式には稀勢の里の付け人を務めた淡路海が初めて登場した。
それぞれ工夫を凝らした引退相撲だったが、国技館地下の大広間で断髪式だけを行う関取経験者も多い。幕下以下の力士の断髪式は本場所千秋楽の部屋のパーティー会場で行うこともある。力士にとって第二の人生のスタートとある断髪式もさまざまである。