新しい価値や魅力を持つ一台を生み出すカーデザイナー。玉谷聡さんが手がけるのは、大地を走る動物のように生命感あふれる「魂動デザイン」が特徴のマツダの車です。(「Newsがわかる2023年5月号」より、文章中の所属、肩書などは掲載当時のものです)
車のデザインは複数のデザイナーがチームで行います。最初はミラーやランプなどパーツのデザインから始め、鉄板や樹脂、ガラスなどの素材や構造について理解を深めることで、全体のデザインが見られるようになります。
私は40歳を過ぎてから、全体のデザインをまとめるチーフデザイナーを務めています。風景の中で存在感を示すしっかりとした骨格と、日本人の繊細な感覚による美しい細部を併せ持つ、ワクワクしてもらえる車をつくりたいと思っています。
もともと空を飛ぶ姿が美しいトンボやアホウドリなどの造形が好きで、乗り物も好きだったので、将来はパイロットになりたかったのです。ところが小学生の頃に目が悪くなり、パイロットを諦めざるを得なくなって、乗り物をつくる側になろうと考えたのが車のデザイナーになったきっかけです。
玉谷さんがチーフデザイナーを務めたCX-60。後ろのタイヤに重心が乗ったフォルムは、前に跳躍する直前の動物の姿からインスピレーションを得たもの(マツダ提供)
デザインした車をねん土で実物大につくったモデルにドローイングテープを貼る玉谷さん(マツダ提供)
CX-60のデザインチームのデザイン会議。大画面に車を映し出し、熱い議論が交わされる(マツダ提供)
車のデザインでは、その車の走り方の特徴を形に表すことが大切です。そのため、デザインを決める前には実際に試作車に乗って特性を体感し、車の開発や設計担当者と話し合いを重ねて、思いを一つにしていきます。
近年ではコンピューターで3Dのモデルが実際のモデルより短時間でつくれるようになり、より大胆な試行錯誤ができるようになりました。今後も技術の進歩に伴って車のデザインの仕方が変わっていくと考えられますが、マツダでは最後は実物大のクレー(ねん土)モデルで、映り込む光の微妙な動き方までこだわった形をつくり上げることを大事にしています。
電気自動車の登場により、車はその歴史が始まって以来、構造が大きく変わっています。これに伴い、デザイナーは車の美しさを改めて考え直すという課題にも直面しています。
パソコンでデザイン作業を進める玉谷さん。マツダらしさを表現することもデザイナーの重要な役割だ(マツダ提供)
取材・文:中島理恵 写真:マツダ提供