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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

肩が上がらなくても着られる“ケア衣料”という新発想【起業家から君へ】

話をきいたひと 笈沼清紀(おいぬま きよのり)さん ケアウィルCEO

 週刊エコノミストで連載中の「挑戦者2023」。優れたアイデアや斬新なサービスで世の中を良くしようとする企業の取り組みを紹介しています。本サイトでは、誌面で紹介された「挑戦者」たちがどんな子どもだったのかを聞きました。※エコノミストオンライン「挑戦者2023」はこちら

「体の不自由」ではなく「服の不自由」に注目し、ケア衣料の形状・素材・着心地を追求する。

 障がいやケガによって既存の服に不自由を感じている人に、洋服を着る楽しさを味わってもらうことを目標に、ケア衣料の開発・生産をしています。主力のアームスリングケープは、上肢の片まひのほか、亜脱臼、腱板(けんばん)断裂、四十肩などによって腕の上げ下げの際に痛みを感じる人のための、腕を支えるアームスリングとケープを一体化させた商品です。

 痛みのある方の腕を内袋に通し、もう片方の手で襟ぐりをつかんで頭からかぶるだけで簡単に着ることができます。裏地に滑りの良い素材を利用しているので、「背中に手を回して後ろ身頃を引っ張る」といった厄介な作業も不要です。

 起業のきっかけとなったのは、父の認知症病棟への入院でした。老人ホームにいた頃は、長く洋裁の講師を務める母が着脱しやすいようにアレンジした服でオシャレを楽しんでいた父が、決められた入院着を着るようになって元気をなくしていきました。「本人の尊厳を守りつつ、自立的に生活できる機能を兼ね備えた服を作れないか」と考えるようになりました。

 父が亡くなって半年が過ぎた2019年の春、山手線の車内で偶然、東京都主催のビジネスコンテストの中づり広告を見つけ、背中を押されました。理想の入院着を試作してプレゼンし、入賞。テレビ中継を見た、石灰沈着性腱板炎を患う女性から「片手で着られて、楽に袖に腕を通せる服が欲しい」というメールが届き、母と一緒に女性宅に採寸に出向いてオーダーメードの服を作りました。それがケアウィルの第一歩になりました。

■こどもの頃はどんな性格でしたか?

服飾講師の母の影響があってか、ものを作ることや絵を描くことがとにかく好きでした。母も地元の美術の学校に通わせました。図画工作と美術の成績はいつも5でした。身体を動かすのも好きでしたが、運動神経は良い方でなかったです。

■こどもの頃の夢を教えてください。

小学校の時の夢は漫画家になること、中学生になってからは警察官に代わりました。その理由は、中学で柔道部に入り体力に自信がついたことと当時、ショッキングな事件や天災が立て続けに起こったので国の安全を守りたいと思ったからでした。2つとも今の仕事とは全く関係ないのですが(笑)

■こどもの頃によく読んでいた本があれば教えてください。

ドラえもんや21エモンなど、未来の道具や生活を描いた藤子不二雄の漫画が好きでした。文字の本よりもよりも漫画が多かったです。ただ中学に入ってからは夏目漱石の本をよく読みました。「それから」「門」など、人間の心理を深く洞察していて、でも暗くなくコミカルな小説が特に好きでした。

■仕事をしていてよかったこと、大変だったことを教えてください。

仕事の多くは答えがなく、いつも新たな自分の可能性に気付けることです。僕は31歳になって経営学を学ぶために米国へ留学をしましたし、自分の会社を作る前に16年間大きな会社でサラリーマンとして働きました。でも、仕事はいつもわからないことだらけ。自分の心が動かされる挑戦ほど悲しいかな、それまでに学んだことのほとんどが役に立たない。小説家の遠藤周作さんは、仕事とは「くるたのしい」と言ったそうです。挑戦的な仕事ほど答えはない、うまくいかないことは多いし、苦しい。だからこそちょっとうまく行ったとき、たとえそのとき何歳であっても自分の可能性に気付ける。それが仕事の楽しさだと思います。