読書家の父娘が語る「本」の話④~読めるものからどんどん読む~【ニュースがわかるの本棚】

前回もご好評いただいた「読書家の父娘が語る「本」の話」。4回めとなる今回のテーマは「読むスピード」についてお話しをお伺いしました。

本記事は、読書家の父娘ふたりが、「読書のよろこび」を語りつくした対話集『ぜんぶ本の話』から一部を抜粋し、全5回にわたってご紹介します。

大事なのはスピード

父・池澤夏樹 わからなくても先に読み進むのが大事。それは、ぼくが現代語訳した『古事記』も同じ。なかにはふつうは知らないような言葉が出てくるんだ。たとえば革の腕輪のような「鞆(とも)」という道具とか。弓を射たときにツルが手首に当たると痛いでしょう。それを防ぐための道具が鞆。いままでの現代語訳では、その意味を本文中で説明していたの。

娘・池澤春菜 「弓を射る時手首に付ける道具で……」って。 


夏樹 でもそれだと読むスピードが落ちちゃう。だから、ぼくの訳ではそこを脚注に入れることにした。意味が知りたければページの下を見ればいい。で、気にしない人はどんどん先へ進む。
『源氏物語』だって、本当は一帖一晩くらいで読まなければだめなんだよ。小説なんだから。そのスピード感を最初につかんでしまう。そうすると引っかからずに先へ読み進める。

池澤夏樹 池澤春菜 ぜんぶ本の話 毎日新聞出版
写真・毎日新聞出版

春菜 読んでいるうちに意味はわかるようになるし、読解力も上がってくる。

夏樹 そういうこと。その点でも脚注って便利。ぼくはこのスタイルが好きでね。『ハワイイ紀行』の時も、あとでわかった情報を脚注で入れた。英語の本は横書きだけど、日本語の本は縦書きでしょ。だから脚注は読む眼の動きに真下にあるわけ。

春菜 『バーティミアス』という小説でも、ページの下に注が付いてるの。妖霊、悪魔みたいな存在なんだけど、そのバーティミアスのモノローグがページの下に書いてあるというスタイル。ほら、こんな感じ(『バーティミアス』を広げる)。脚注で延々とグチをこぼしている(笑)。副音声みたいなの。オーディオコメンタリーがページの下で繰り広げられる。これは新しい書き方だと思ったな。人間がしゃべる箇所ではそれはなくて、バーティミアスのところでだけ、このスタイル。
というのも、バーティミアスははるか昔、プトレマイオス王朝の時代から存在しているから、その頃のことって下で説明してあげないとわからない。現代ロンドンのことならわかっても、「プトレマイオスって誰?」「翼のある蛇って何?」となるかもしれないわけで、そのへんを上手に処理している。しかも物語の流れをうまく盛り込みながら。

夏樹 英語の本は脚注になるとちょっと読みにくいんだよね。『不思議の国のアリス』だったかな、「脚注って足で書くの?」とたずねる場面があったけど。

春菜 (笑)。英語ではなんていうの?

夏樹 footnote。

春菜 そのままなんだ!とにかく、読むスピードは自然に上がっていくから、とりあえず読めるものからどんどん読んでいくのが大事。

続きは11月6日に配信予定です。

  

紹介した本はコチラ

タイトル:
ぜんぶ本の話
著者:池澤夏樹、池澤春菜
出版社:毎日新聞出版
定価:1,760円

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著者プロフィール

父・池澤夏樹(いけざわ・なつき)

1945年生まれ。作家、詩人。小説、詩やエッセイのほか、翻訳、紀行文、書評など、多彩で旺盛な執筆活動を続けている。また2007年から2020年にかけて、『個人編集 世界文学全集』、『個人編集 日本文学全集』(各全三十巻)を手がける。著書に『スティル・ライフ』、『マシアス・ギリの失脚』、『池澤夏樹の世界文学リミックス』、『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』など多数。

娘・池澤春菜(いけざわ・はるな)

1975年生まれ。声優・歌手・エッセイスト。幼少期より年間300冊以上の読書を続ける読書狂。とりわけSFとファンタジーに造詣が深い。お茶やガンプラ、きのこ等々、幅広い守備範囲を生かして多彩な活動を展開中。著書に『乙女の読書道』、『SFのSは、ステキのS』、『最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内』、『はじめましての中国茶』、『おかえり台湾』(高山羽根子との共著)などがある。