スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は巣鴨中学校を紹介します。
再興したクラブで化学実験を楽しむ。医学部やオックスブリッジに続く進路
<注目ポイント>
①自由に伸びのびと大好きな実験に情熱を注ぐ化学部。
②実験ノート作成でレポート・論述の基礎、論理的思考を育む。
③「ライフスキル・ラーニングスキル」に特化した「Craft Your Life」開講。
化学部の再興と自由な実験に挑戦
“少年は可能性のかたまり”という考えのもと、勉学はもちろん、生徒たちの自由奔放な好きなことへのチャレンジを応援する巣鴨中学校・高等学校。自らの可能性を信じ開花させる行事や、自由な校風のもと興味関心を昇華させるクラブ活動にも注力している。
コロナ禍においては、十分なクラブ活動ができなかったという話は多い。実験自粛の影響もあった同校の化学部もその一つだった。一時期は部員が激減した化学部だったが、新入生向けのオリエンテーションで積極的に実験を披露するなど、現在高2のK.S.さんとM.S.さんの懸命な仲間集めで見事再興させた。部員たちは皆、とにかく実験が大好き。地域医療に興味を持ち、医学部を目指す部長のK.S.さんは「中1までは先輩と一緒のグループで実験に慣れてもらい、中2からは自分たちで好きな実験をしてもらいます」と語る。工学部機械系の進路を目指すM.S.さんは「実験を通じて、教科書に載っていることが絶対ではないことがわかります」と笑顔だ。
化学部には、歴代部員に読み継がれてきた化学実験のバイブルがある。それが『実験による化学への招待』。全米で行われた数々の演示実験で、特に安全で楽しく、化学の重要な概念の修得に適したものをまとめたものだ。表紙文字ははげ、背表紙もガムテープで補修されながらも使い込まれたその姿に化学部の実験への情熱が垣間見える。また、海外から配信されるYouTube動画で面白そうな実験を探し、部内で共有することもあるという。そのほか先輩が作った『実験レシピ』なるものも存在。ここには、“やってはいけない実験”なども記載されており、部員たちは自然と「科学と社会的責任」について学んでいく。
他校とのクラブ交流会も活動の一つとしており、各自の研究発表や質疑応答などの機会もある。自分たちがうまくいかなかった実験を他校が平然と成功させる姿を目の当たりにした部員たちは大いに刺激を受け、競争心と共に、成功のポイントを直接他校生徒に質問する。それを手がかりに実験が成功したときには達成感や充実感が得られるという。また、大学生が主催となり小学生向け実験を通して科学の魅力を広く伝える活動を行う『サイエンスリンク』にも参加するほか、化学オリンピックや外部コンクールへチャレンジする生徒たちもいるという。
現在、化学部の実験の成果はSNSで発信中。文化祭での実験は同部のビッグイベントという位置付けで部員たちも「直接、来校してくれた小学生たちに実験の魅力を教えられるので楽しい」と口を揃える。高1のTNさんは「小5のときに化学部の実験を文化祭で見て巣鴨受験を決めた」と笑顔を見せる。同じく高1のSEさんは「入部後、ますます化学への興味が広がった」と語ってくれた。
レポート作成スキルを鍛える授業の実験
同校の理科のカリキュラムは、中1は化学と生物、中2は地学と物理、中3は生物と地学、高1は物理と化学、高2からは文理別のクラスとなる。実物に触れ、見て、実際にやってみることを重視し、化学の授業においては年間15〜20回、高3の2学期まで実験を行うのも大きな特徴だろう。
化学実験では、実験ノートの作成作法も育成している。例えば、水溶液とイオンの実験では、1.目的、2.実験器具、3.操作、4.結果(電流を通す個体や水溶液、イオンの移動)、5.考察(実験からわかること)6.参考文献、7.気付いたこと・反省・感想という7項目をB5×3pの実験ノートとして作成する。まずは数項目の内容を記載、あるいは穴埋め形式にしたものを配布し、徐々に生徒が書き込む項目を増やし、実験ノートの手順、書き方を自然に学ばせるという。一連の実験授業を通じて、最終的には全ての項目を自ら書き上げるレポート力が身についていく。中には、3pを8pにした大作を提出する生徒もいるという。特に重要なのが実験目的の設定だ。「何を調べるために、この実験をしているのか」を、それまでの授業で得た知識やその関連などから、論述も含め論理的に考える訓練でもあるのだ。
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