【ニュースがわかる2024年7月号】巻頭特集は「沸騰」する地球の未来

スクールエコノミスト2024 WEB【芝浦工業大学附属中学校】

スクール・エコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は芝浦工業大学附属中学校を紹介します。

理工系の力で社会の難問に立ち向かう。実現できる方法を考え抜いて道を開く

<注目ポイント>

①高校や大学進学後の研究の土台となる探究型授業を展開

②ICTスキルの獲得、人や社会の多様性を理解する「IT」「GC」

③学びへの主体性を引き出す「SD」で、生徒の学習姿勢に変化

実社会を視野に入れて学ぶ「IT」

 2021年4月、STEAM教育を実践する学びとして、独自の探究型授業「SHIBAURA探究」をスタートさせた芝浦工業大学附属中学校。中高大一貫教育で未来のエンジニアを育成してきた同校伝統の教育の強みを生かし、PBL(問題解決型学習)を取り入れたカリキュラムを展開している。

 「SHIBAURA探究」は「IT(Information Technology)」「GC(Global Communication)」「総合探究」から成る。「理工系の知識で社会課題を解決」を共通テーマに、中1・2で「I T」「GC」に、中3では集大成となる「総合探究」に取り組む。

 「IT」は、まずは中1で多様なICTスキル全般に触れることからスタート。プログラミングやドローン制御、3DCAD、アプリ開発など、アイデアをカタチにする手法をゲーム感覚で体験する。

 中2では、データ解析やデータサイエンスを学ぶほか、東京メトロとの産学連携によるPBLを実施。子ども向けではなく、東京メトロが現場で実際に解決したいと思っている課題を出してもらい、生徒は解決に挑む。あるときのテーマは、電気料金を抑えながら電力を補う方法の考案。電気をこまめに消すといった省エネ目線からではなく、お客様の安心安全を第一にした運行を維持しながら何ができるかを考え、プレゼンテーションを行った。探究科主任の岩田亮教諭は「東京メトロの方には生データを提供してもらうほか、『電気料金が上がっても、どうして運賃を値上げしないのか』など、どれだけ企業努力をしているかも説明してもらっています。知識やスキルは十分でなくとも、生徒は解決に向けて自走するようになり、足りない部分を自ら学び取ろうとする」と語る。普段から東京メトロを通学で使っているとあって親近感がさらに増すとともに、企業の課題を目の当たりにしたことで、実社会を体感。やがて経済や企業の動向にも関心を広げ、時事問題にもアンテナを張り巡らせるようになる。

 中3では工学現場のものづくりのプロセスに則りながら、アイデアを実際に図面に起こし、3DCADでカタチにしていく。「ただものをつくるだけでなく、それによって人や社会にどのような良い効果をもたらすかという仮説も立てます。中2のPBLもそうですが、常に社会との接点を持つことを意識しています」と岩田教諭は語る。

豊洲から世界へと視野を広げる「GC」

 「GC」では、フィールドを広げながらPBLを繰り返し、コミュニケーション力や発想力、課題解決力を身につけることを目指す。導入となる中1の1学期は、学校のある豊洲地区のフィールドワーク「TOYOASOBI」からスタート。「現代と昔の豊洲の地図を併記した「探Qマップ」を持って学校周辺を巡りながら地域の今昔を知るほか、水陸両用バス「スカイダック」に乗船して湾岸エリアを一望し、様々な観点から物事を捉えることの醍醐味を体感する。さらには重工業や水産業をはじめ、豊洲地区に深く関わってきた企業を訪問する機会もある。様々な活動を通して得た発見を基にしながら、問いの立て方や課題の見つけ方を学習し、探究に対する姿勢を醸成。フィールドワークを通じて気づいたこと、考えたことを伝える「TOYOSU解剖図鑑」をつくる。「GC」を統括する山川翔馬教諭は「『いつから豊洲は発展したのか』『どうして豊洲は緑が多いのか』など、身近なところにも問いがあることを体感し、徐々に視野を広げていくイメージ」と語る。

中1・GC「TOYOASOBI」フィールドワーク

 中2ではフィールドを地方へと移し、長野県の地域振興をテーマとしたPBLを実施。現地に暮らす人へのオンラインインタビューや長野農村合宿を通じてリサーチし、課題解決のアイデアをまとめ上げる。

 さらに地理的な多様性だけでなく、人の多様性にも触れていく。中2の3学期には、パラリンピックの正式種目でもあるスポーツ「ボッチャ」を体験するほか、パラアスリートを目指すゲストスピーカーによる講話も。「障がいにも様々あり、バリアフリーとしてデザインされたものであっても、すべての人に使いやすいとは限らない」というエピソードは生徒に響き、共に同じ時代を生きる一員として誰もが幸せに暮らせる社会のあり方について考察した。