【ニュースがわかる2024年6月号】巻頭特集は地震大国ニッポン 被害を減らすために

スクールエコノミスト2023 WEB【巣鴨中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は巣鴨中学校を紹介します。

日本文化に裏づけされた“真の国際人”教育 医学部からオックスブリッジに広がる進路

<3つのポイント>

①“おもてなしの心”と和の尊重、平和の精神を培う茶道教育

②書道を通じて歴史への敬意とともに豊かな想像力、自己を見つめる姿勢を育む

③“人”が主役の国際教育プログラムを通じ育む自ら一歩踏み出す情熱

男子校では珍しい茶道教育で、“おもてなしの心”と和の精神を学ぶ

 全国有数の医学部進学実績を誇る巣鴨中学校は、柔軟な思考と硬く強い心を養う教育が伝統だ。学問のみならず芸術、体育、行事を通じ、生徒一人ひとりの個性と可能性を開花させ、目標に向けて力を尽くす胆力を培っていく。また、国際教育においても定評があり、近年はその改革のフロントランナーとしても大きな注目を集める。巣鴨の国際教育は単に英語力の向上や外国文化への理解にとどまらず、自国文化の知識を深めること、これこそが相手の文化への敬意を払い、尊重する精神を培う第一歩である、との確固たる信念がある。

 都内の中高一貫男子校では珍しく、専用茶室を持ち、裏千家の先生を招いての本格的な茶道を授業に取り入れているのもその一環だ。茶道は高1の家庭科の実習において1年間で4時間学ぶ。内容は、お茶会など茶道の基礎の座学から始まり、茶道班による茶室でのデモンストレーション見学や実際にお茶やお菓子をいただく体験。また、和敬清寂、利休七則など茶道で大切にされている言葉とその意味を学んだ後、生徒がペアになり、茶室でお茶を出し合う実践まで行う。茶道班の顧問も務める尾形光祐教諭は、「茶会では招待状から茶室のしつらえ、茶器や掛け軸の選定など様々な準備を経て一椀のお茶をお出しする。そんな相手のために心を尽くす“おもてなしの心”の崇高さを少しでも感じてほしい」と語る。

 戦国武将に愛された歴史を持つ茶道。生死をかけた日々を送る戦国時代に静寂に包まれた茶室で茶を喫することは、武将たちの平常心を取り戻す手段でもあったという。尾形教諭も「勉強や部活に忙しい日々とは、まったく別の時間が流れる茶室で心を落ち着かせる、そんな気持ちを切り替える体験にもなっている」と語る。限られた茶室という空間では身分、年齢の差なく、どんな相手であっても心を込めて亭主が客をもてなすのが茶の心得だ。“おもてなしの心”を芸術の域にまで押し上げた茶道からは、古来、日本人が大切にしてきた和の尊重や平和の精神をも培っていく。

男子校では珍しく茶道室がある

相手への敬意や思いやりを伝える書道は、日本文化を理解し学ぶ入り口

 もう一つ巣鴨で日本文化への造詣を深める授業として挙げられるのが書道だ。美しい文字を書くことが書道ととらえがちだが、書道科の熊坂尚史教諭は、なぜ綺麗な文字がいいのかを考えることが大切だという。文字はコミュニケーションツールであるが故に丁寧に書き、相手に読みやすくする。つまりは相手を思いやる気持ちが根底にあるということだ。

 また、中国で4000年、日本でも2000年前から脈々と続く漢字の歴史を知ること、この点に熊坂教諭は注力しているという。「1000年続いたものは、この先1000年は続く力がある。漢字の歴史を知ることで、歴史の力に対する謙虚な姿勢を育むことができる」と語る。またその歴史の中でも漢字そのものには時代とともに変遷もある。「漢字が象形文字から変化を遂げる過程を知ることで想像力を培い、自分の未来に何を変えていけばいいのかを考える端緒としてほしい」と熊坂教諭。さらに日本人は、約1000年をかけて、独自の仮名書道を作り上げた。このことから中国の漢字に敬意を払いながらも独自の新しい文化を創造した古の日本人に思いを馳せ、生徒は日本人としての誇りを感じていくという。

 巣鴨の書道は中1、2で週1時間の必修科目、高1からは選択科目となっている。中1で書写分野の全般を学び、平安時代の古筆を写し取る体験をする。中2の1学期には「中国書道史」として中国で書き残された漢字の五書体をほぼ原寸で模写し、歴史の流れを身をもって学ぶ。2学期は「日本書道史」として漢委奴國王印から万葉仮名、能書家の空海、最澄の書を模写し、最後に仮名書道独自の芸術的表現法「ちらし書き」まで体験。“字を書きながら景色を作る”ちらし書きは、中国の漢字作品にはなく、日本人独自の美の感覚で平安時代の京の雅の頂点とも称される。3学期には、これまでの学びの集大成として、言葉、書体、文字の配置、構成法など全てをセルフプロデュースする修了記念色紙制作を行う。

 「墨と紙、そして筆というシンプルな道具だが、その表現の可能性は無限であり、一本の線を再現するのさえ難しい。模写することで、筆者と自分の違いを常に突きつけられる」と熊坂教諭。そこから筆者の思いを常に想像し、自己と向き合う姿勢も自然と生まれる。書道が自分と他者、日本と他国との違いに思いを馳せる豊かな想像力へと昇華され、敬意を持ってそれらを受け入れる「“真の国際人”を育む礎となってほしい」とその思いを語る。