【ニュースがわかる2024年8月号】巻頭特集はテーマから探す! ミラクル自由研究

スクールエコノミスト2023 WEB【海城中学校編】

スクール・エコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は海城中学校を紹介します。

ワクワク授業をつくる熱血教員と世界の大海原へ乗り出す生徒たち

<3つのポイント>

①「数学は楽しい」という原体験が生徒の大きな成長を促す

②国内外の学校との交流で生徒の探究心や好奇心を刺激する

③国際レベルで活躍する数学部とグローバル部

数学の魅力を教えたい~数学の楽しさ、ワクワク感を発見&育むKSプロジェクト

 海城中学高等学校のK(海城)とS(School)を組み合わせた校章の縦の軸は船の「帆」を、そしてS字の曲線はその帆をたわませ船を前へと推し進める「柔らかな海風」を表している。「帆」によって暗示される船はいずれ大海原、すなわち未知なる社会・世界へと旅立つ生徒を、そして柔らかな海風は、生徒に寄り添い柔軟に支援・教育する教員の姿を現す。これを体現するように海城は学習指導要領の枠に収まらない生徒がワクワク感を持って臨める様々な学びの場を提供することに尽力している。  

 1992年にスタートした「社会科総合学習」は社会科の面白さ、興味関心を引き出し探究していく、今や海城の学びの象徴といえるだろう。中学3年間、週2時間、通常の社会科の授業とは別枠で行われる。資料・文献調べから、取材、レポートや論文の記述、プレゼンテーションに至るまでのアカデミックスキルを段階的に身につけ、中3で原稿用紙30枚以上の卒業論文に取り組む。2021年にはScience Center(新理科館)を完成させ、海城の高い能力を秘めた生徒らの多彩な探究心、好奇心をより発揮しやすい環境を整備した。

 さらに注目すべきは、複数の教科の枠を超えた生徒の主体的な学びの場である「KSプロジェクト」。開催時期や時間、回数、対象学年は講座ごとに設定する自由度の高い講座だ。同校の財産ともいえる高い専門性を持つ教員だからこそできるハイレベルな内容と共に学びを楽しむという思いが込められている。

 14年目を迎えるKSプロジェクトの『数学科リレー講座』も数学科教員の「数学の楽しさを伝えたい」という熱意が込められる。この講座開催の端緒となったのは「ピタゴラスとガロアはどちらが昔の人物か」という生徒の質問だった。数学科主任の川崎真澄教諭は驚きとともに「大げさに言えば、日々の授業で数学史を扱わないがゆえに生ずる不具合への危機感があり、真剣に取り組むべきテーマだと感じた」と振り返る。また、数学に対して問題を解く教科と考えることが多いが「どのような必然性があり、その定理や公式が誕生したのかを背景と共に教えることで、その先には面白い世界があることを知ってほしい」と数学科・小澤嘉康教諭は語る。

 昨年の夏休みには『πとeとiの話』と題し、最終的にはオイラーの等式(eπi+1=0)の証明を目標に開講し、前半3日間は215名が参加。後半3日は希望者の中から抽選で選ばれた60名に対して、より深い内容に踏み込んだ。ハイレベルではあるが、中1、中2の参加者も多く、「楽しかった」という感想が散見される。「教員が数学を心から楽しんでいる姿を授業やリレー講座で見せたい」と語るのは数学科・平山裕之教諭。そんな姿に感化された生徒は、より深い数学の世界への扉を自ら開ける。早い段階での「数学は楽しい」という原体験はその後の成長に大きく影響すると3教諭は声を揃える。

国際数学オリンピック銀メダル受賞時の新井秀斗君(オスロにて)

数学の力をさらに伸ばす~国内外の学校との交流と切磋琢磨

 数学科では国内外の学校との交流も盛んで、これは10年ほど前にSSHである大阪府立大手前高等学校のマスフェスタを視察に訪れたことに始まる。その後、同じくSSHの横浜サイエンスフロンティア高等学校との交流がスタートし、各校の研究成果を発表しながら全国の数学好きが議論や交流を深める同校主催の「マスフォーラム(数学生徒研究交流会)」へ発展を遂げた。また武蔵高等学校中学校とも定期的に数学研究で交流している。

 さらに国外提携校の新モンゴル学園との交流もある。モンゴルは幼少期から数学の英才クラスを設ける学校もあるほど、数学教育に注力し、GAFAを中心とした世界有数のIT企業のSEとして活躍する人財も多い。特に国際数学オリンピックなどの競技数学が重視され、強化トレーニングも盛んで、中1、2で大学の整数論専攻レベルの高度な数学まで学んでいるという。「本校にも優秀な生徒がたくさんいますが、機会がないがゆえに才能が開花しないまま大学へ進学してしまうのは非常に惜しい」と川崎教諭。国内外の学校との交流は海城とは異なる教育思想や取り組みなどを知る機会であるとともに、生徒の探究心や好奇心を刺激する意図もあるのだ。

 そのほか数学部の存在も見逃せない。27名の部員が週1回の定例会をベースに活動。競技数学対策、各種コンクールへの参加や雑誌投稿を行う数学研究、ゼミ形式の輪講の3つのグループに分かれ自由に数学の世界を仲間と共に楽しむ。また部員でない生徒にも門戸を広げるオープンさも特徴だ。例えば自主的に数学研究に取り組んだり、授業やリレー講座で光る才能が垣間見えた生徒には教員が個別に声をかけ、数学部での発表を促し、場を提供することで才能開花の機会につなげる。数学部は海城の数学力のレベルアップを促す重要な起点・起爆剤の役割も果たしているのだ。