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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

日本の教育改革をめざすフロントランナー 男子の挑戦心を引き出しオックスブリッジへの道を拓く│巣鴨中学校

すべての始まりはイートン・サマースクール

 巣鴨の生徒は高1,2の夏休みの3週間、名門イートン校の寮で生活しながら、英語やイギリス文化に触れるサマースクールに参加する(希望者数約40名)。イートン校は、これまでに20名の歴代首相を輩出するなど質の高いリーダーシップ教育で知られ、巣鴨はこのサマースクールに首都圏の男子校で唯一参加が認められている。しかし、コロナ禍でここ2年は渡英できずにいる。

 そこで2021年は、英語科の岡田英雅教諭の発案で、他校からの参加も可能な国際教育プログラム「Double Helix」をオンラインで開催。岡田教諭はイートン校で培った人脈を駆使し、講師陣の人選やプログラムのテーマ選定、構築までを担当。英語で知識と思考を深めるため、講義はオールイングリッシュで行われる。

 「Double Helix」は、二重らせんを意味する。「大量の知識なしに高次の思考は実現しない」と考え、知識と高次の思考、この2つをらせんのように向上させていく狙いが込められている。

 さらに岡田教諭には、日本のアクティブ・ラーニングに一石を投じたいという思いもある。知識の前提がないまま稚拙な議論をすることは避け、知識をしっかり蓄えてから高次の議論をさせる。これが「Double Helix」のめざす方向なのだ。

知識を高次の思考に昇華させるリフレクションセッション

 2回目となる2022年春は、3都県8校の生徒(30名)が参加。テーマは「歴史」「免疫」「医療」。その道のスペシャリストであるイギリス人講師たちが専門性の高い講義を行う。参加する生徒は、オンライン上で各テーマの基礎知識の理解を促す宿題をこなし、他校の生徒とオンラインで協力しながら課題を仕上げていく。

オンライン国際教育「Double Helix(ダブル・ヒーリックス)」

 次に行う「リフレクションセッション」は、知識を高次の思考につなげる、岡田教諭がプログラムの肝と位置づけるセッションだ。リフレクトは反省、振り返りの意味。文字通り参加者が学んだことを振り返る機会となる。

 今回、イギリス人講師によるパンデミック時における感染症、ワクチン開発の歴史の講義で、「病原体やワクチンの発見は実験による成果だけでなく、偶然がもたらす恩恵も大きかった」ということを学んだ。生徒にはこの知識をどう高次の思考に結びつけるかを経験させる。

 このリフレクションセッションを担当したのは2人の教員。一人は漢文のスペシャリストであるK校の教諭、もう一人は世界史を専門とするO校の教諭である。先生方はそれぞれの知識や知見に裏打ちされた独自の考えを披露。すると生徒たちは自分の知識の枠を超えた世界に触れ、「専門分野の学びを究めることによって、こんなにおもしろい世界があるんだ、とその奥深さに感動するのです」と岡田教諭は解説する。

 「リフレクションセッション」で大人の見識に触れ、自身の知識の至らなさを思い知った生徒たちは、一生懸命本を読み始めるという。興味深いのは、プログラム終了後も参加者が自主的に学んでいることだ。

 月1回、生徒たちは「命より尊いものは何か」をオンラインで話し合う。あるときは、祖国を守るために戦う兵士がなぜ戦うのかを議論する。世界に目を向け、話し合うことで自らの視野、考えの幅を広げていく。いったん学びのエンジンに火がつくと、学ぶことがどんどん楽しくなっていくのだ。

 こうした波及効果を目の当たりにした教員は、自分の学校の生徒だけでなく、学外の生徒にも貢献できたことに感動し、「こういうことがやりたかったんだ」と再認識する。学校の枠を超えた他流試合が、子どもたちの成長のみならず、教員たちの達成感にもつながっているのだ。