社会科なんでもランキング【月刊Newsがわかる10月号】

ノーベル賞の坂口志文さん、北川進さん 何を発見?どんな研究?【ニュース知りたいんジャー】

今年《ことし》のノーベル賞《しょう》は、日本人《にっぽんじん》研究者《けんきゅうしゃ》2人《ふたり》の受賞《じゅしょう》が決《き》まりました。生理学《せいりがく》・医学《いがく》賞《しょう》の坂口志文《さかぐちしもん》・大阪大学《おおさかだいがく》特任教授《とくにんきょうじゅ》と、化学賞《かがくしょう》の北川進《きたがわすすむ》・京都大学《きょうとだいがく》特別《とくべつ》教授《きょうじゅ》です。世界的《せかいてき》に素晴《すば》らしいと評価《ひょうか》されたそれぞれの研究《けんきゅう》を、くわしく紹介《しょうかい》しましょう。

 
生理学《せいりがく》・医学賞《いがくしょう》、坂口《さかぐち》さんの研究《けんきゅう》は?

 生物《せいぶつ》に備《そな》わっていて体《からだ》を守《まも》る「免疫《めんえき》」という機能《きのう》に関《かん》するものです。この機能《きのう》にかかわる免疫《めんえき》細胞《さいぼう》は、体《からだ》の外《そと》から侵入《しんにゅう》する細菌《さいきん》やウイルスを攻撃《こうげき》してやっつけます。ただ、自分《じぶん》の正常《せいじょう》な細胞《さいぼう》を誤《あやま》って攻撃《こうげき》して、病気《びょうき》を起《お》こしてしまうこともあります。こうした病気《びょうき》を医学《いがく》で「自己免疫疾患《じこめんえきしっかん》」といいます。

 1970年《ねん》代《だい》、マウスから「胸腺《きょうせん》」という部分《ぶぶん》を取《と》り除《のぞ》くと、免疫《めんえき》細胞《さいぼう》が自身《じしん》を攻撃《こうげき》する自己免疫疾患《じこめんえきしっかん》のようになるという研究結果《けんきゅうけっか》を、愛知県《あいちけん》がんセンターの西塚《にしづか》泰章《やすあき》さんたちが論文《ろんぶん》にしていました。
 京都大学きょうとだいがくの大学院生《だいがくいんせい》だった坂口《さかぐち》さんはこの論文《ろんぶん》を読《よ》み、何《なに》か重要《じゅうよう》な仕組《しく》みがあるはずだと強《つよ》い興味《きょうみ》を持《も》ちます。そして大学院《だいがくいん》を中退《ちゅうたい》し、仕組《しく》みを追究《ついきゅう》しようと、西塚《にしづか》さんのもとへ移《うつ》って研究《けんきゅう》を始《はじ》めます。
 坂口《さかぐち》さんは、胸腺《きょうせん》で作《つく》られ、さまざまな種類《しゅるい》のある「T細胞《さいぼう》」の中《なか》に、自己《じこ》組織《そしき》への攻撃《こうげき》を抑《おさ》える役割《やくわり》をもつタイプがあるのだろうと推測《すいそく》しました。
 何《なん》年《ねん》もかけて、研究《けんきゅう》場所《ばしょ》も移《うつ》りながら、マウスで実験《じっけん》を重《かさ》ねます。そして、「CD25」というたんぱく質《しつ》を表面《ひょうめん》にもつタイプのT細胞《さいぼう》が、攻撃《こうげき》を抑《おさ》えていることを発見《はっけん》しました。1995年《ねん》に論文《ろんぶん》を発表《はっぴょう》。後《のち》に、この細胞《さいぼう》を「制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》」と名付《なづ》けました。

ノーベル賞受賞の決まった坂口志文さん(左)と北川進さん。受賞決定を機に、2人が卒業した京都大学で対談があり、握手を交わしました=京都市左京区

 「免疫《めんえき》」って何《なに》?

 私《わたし》たちヒトを含《ふく》む生物《せいぶつ》に備《そな》わる、体《からだ》を守《まも》る仕組《しく》みです。そのためにはたらく細胞《さいぼう》を「免疫《めんえき》細胞《さいぼう》」といいます。
 免疫《めんえき》細胞《さいぼう》は主《おも》に、骨《ほね》の中《なか》の骨髄《こつずい》という部分《ぶぶん》で作《つく》られ、血管《けっかん》などを通《とお》って全身《ぜんしん》へ運《はこ》ばれます。細菌《さいきん》やウイルス、がん細胞《さいぼう》などを見《み》つけると攻撃《こうげき》します。免疫《めんえき》のおかげで、病気《びょうき》を防《ふせ》いだり、病気《びょうき》になっても重《おも》くならずにすんだりできます。
 今《いま》の季節《きせつ》、みなさんの中《なか》にはインフルエンザワクチンの接種《せっしゅ》を受《う》けた人《ひと》もいると思《おも》います。これは、インフルエンザの流行《りゅうこう》に備《そな》えて、体《からだ》の免疫《めんえき》の機能《きのう》を高《たか》めるためのものです。

 ヒトの血液《けつえき》には、赤血球《せっけっきゅう》、白血球《はっけっきゅう》、血小板《けっしょうばん》などの成分《せいぶん》があります。このうち白血球《はっけっきゅう》が免疫《めんえき》細胞《さいぼう》です。
 白血球《はっけっきゅう》は細《こま》かく分類《ぶんるい》され、その一《ひと》つに「リンパ球《きゅう》」があり、さらにその一部《いちぶ》に「T細胞《さいぼう》」があります。坂口《さかぐち》さんが研究《けんきゅう》する「制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》」もその仲間《なかま》です。

 病気《びょうき》の治療《ちりょう》にも役立《やくだ》つの?

 体《からだ》の中《なか》にある制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》を増《ふ》やしたり、逆《ぎゃく》に減《へ》らしたりすることで、自己免疫疾患《じこめんえきしっかん》を治《なお》す研究《けんきゅう》が活発《かっぱつ》になっています。坂口《さかぐち》さん自身《じしん》も、がんの治療法《ちりょうほう》開発《かいはつ》を進《すす》めています。

 制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》を減《へ》らすことでがん治療《ちりょう》に役立《やくだ》ちそうな薬《くすり》の一《ひと》つが、慢性骨髄性白血病《まんせいこつずいせいはっけつびょう》の治療《ちりょう》薬《やく》「イマチニブ」です。
 白血病《はっけつびょう》は、血液《けつえき》ががんになる病気《びょうき》です。坂口《さかぐち》さんらは2019年《ねん》、イマチニブが白血病《はっけつびょう》の原因《げんいん》細胞《さいぼう》だけでなく、がん細胞《さいぼう》を守《まも》る制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》も攻撃《こうげき》することを明《あき》らかにしました。制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》を減《へ》らせば、免疫《めんえき》細胞《さいぼう》が白血病《はっけつびょう》以外《いがい》のがん細胞《さいぼう》を攻撃《こうげき》しやすくなり、がんの治療《ちりょう》になると考《かんが》えられます。

 一方《いっぽう》、増《ふ》やすことで治療《ちりょう》できる病気《びょうき》の一《ひと》つが1型《がた》糖尿病《とうにょうびょう》です。膵臓《すいぞう》の細胞《さいぼう》が免疫《めんえき》細胞《さいぼう》による攻撃《こうげき》で破壊《はかい》されて起《お》き、幼《おさな》い頃《ころ》に発症《はっしょう》する人《ひと》が多《おお》いです。制御《せいぎょ》性《せい》T細胞《さいぼう》を増《ふ》やして免疫《めんえき》細胞《さいぼう》による攻撃《こうげき》を抑《おさ》えることで、治療《ちりょう》への道《みち》が開《ひら》けると期待《きたい》されています。

 化学賞《かがくしょう》、北川《きたがわ》さんの研究《けんきゅう》は?

 内部《ないぶ》にたくさんの微小《びしょう》な穴《あな》があり、気体《きたい》の分子《ぶんし》(とても小《ちい》さい粒《つぶ》)を出《だ》し入《い》れできる「金属《きんぞく》有機《ゆうき》構造体《こうぞうたい》(MO《モ》F《フ》=Metal《メタル》―Organic《オーガニック》 Framework《フレームワーク》)」を開発《かいはつ》しました。
 金属《きんぞく》のイオン(プラスの電気《でんき》を帯《お》びた状態《じょうたい》)が、有機物《ゆうきぶつ》(炭素《たんそ》を含《ふく》む物質《ぶっしつ》)の鎖《くさり》である有機《ゆうき》分子《ぶんし》でつながった物質《ぶっしつ》です。ジャングルジムのような格子《こうし》状《じょう》をしています。1989年《ねん》、今回《こんかい》ともに受賞《じゅしょう》するオーストラリアの研究者《けんきゅうしゃ》が発表《はっぴょう》しました。ただ、当時《とうじ》は、格子《こうし》の間《あいだ》が液体《えきたい》で満《み》たされていないと崩《くず》れてしまいました。

 1988年《ねん》に研究《けんきゅう》を始《はじ》めた北川《きたがわ》さんは、金属《きんぞく》のコバルトと有機物《ゆうきぶつ》を組《く》み合《あ》わせ、液体《えきたい》を抜《ぬ》いても壊《こわ》れないタイプを開発《かいはつ》。そこへ気体《きたい》分子《ぶんし》を自由《じゆう》に出《だ》し入《い》れすることにも成功《せいこう》しました。このMO《モ》F《フ》は0.4~2ナノメートル(ナノは10億《おく》分《ぶん》の1)ほどの空間《くうかん》がたくさんあります。圧力《あつりょく》を加《くわ》えたり下《さ》げたりして、自由《じゆう》に気体《きたい》を出《だ》し入《い》れします。1997年《ねん》に研究《けんきゅう》成果《せいか》を発表《はっぴょう》しました。

さまざまな金属有機構造体(MOF)=2024年9月

 MO《モ》F《フ》は、どんなことに使《つか》える?

 たくさんのナノサイズの空間《くうかん》に、酸素《さんそ》やメタンなどさまざまな気体《きたい》をつかまえて閉《と》じ込《こ》められます。
二酸化炭素《にさんかたんそ》(CO2)など温室効果《おんしつこうか》ガスの排出削減《はいしゅつさくげん》が欠《か》かせない21世紀《せいき》を北川《きたがわ》さんは「気体《きたい》の時代《じだい》」と表現《ひょうげん》します。地球《ちきゅう》規模《きぼ》の課題《かだい》の解決《かいけつ》が期待《きたい》されます。
 気体《きたい》分子《ぶんし》を閉《と》じ込《こ》められる材料《ざいりょう》は、消臭剤《しょうしゅうざい》などで活性炭《かっせいたん》が使《つか》われてきました。しかし木材《もくざい》など天然素材《てんねんそざい》でできているので、空間《くうかん》の大《おお》きさを自由《じゆう》に変《か》えるのが難《むずか》しいのです。これに対《たい》してMO《モ》F《フ》は、原料《げんりょう》となる金属《きんぞく》や有機物ゆうきぶつの種類しゅるいによって、内部空間ないぶくうかんの大《おお》きさや吸着《きゅうちゃく》できる物質《ぶっしつ》を変《か》えられます。

 北川《きたがわ》さんを化学賞《かがくしょう》に選《えら》んだスウェーデン王立《おうりつ》科学《かがく》アカデミーは「P《ピー》FAS《ファス》(水道水《すいどうすい》への混入《こんにゅう》が問題《もんだい》になっている有機《ゆうき》フッ素《そ》化合物《かごうぶつ》)や、体内《たいない》への医薬品《いやくひん》の配達《はいたつ》、極《きわ》めて有毒《ゆうどく》なガス処理《しょり》など」に使《つか》えるとして、高《たか》く評価《ひょうか》しました。
 実用化《じつようか》も進《すす》んでおり、ヨーロッパでは野菜《やさい》や果物《くだもの》の腐敗《ふはい》を防《ふせ》ぐ製品《せいひん》ができました。果物《くだもの》などからはエチレンガスが出《で》て腐《くさ》る原因《げんいん》となります。この製品《せいひん》はエチレンガスの働《はたら》きを防《ふせ》ぐ気体《きたい》をためたMO《モ》F《フ》から、気体《きたい》を放出《ほうしゅつ》して鮮度《せんど》を保《たも》ちます。危険《きけん》なガスを大量《たいりょう》に運《はこ》んで保存《ほぞん》できるボンベもアメリカで商品《しょうひん》化《か》されました。

(2025年ねん11月がつ26日にち毎日小学生新聞まいにちしょうがくせいしんぶんより)

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