今月15日から26日まで、東京都内と福島県、静岡県の3都県で、聴覚障害のある人たちの国際スポーツ大会「デフリンピック」が日本で初めて開催されます。デフリンピックについて、どんな大会なのかを知りたいんジャーと調べてみました。
「デフ(Deaf)」は英語で「耳が聞こえない」という意味で、聞こえない人(ろう者)や、聞こえにくい人のための国際スポーツ大会です。スイスのローザンヌに事務局がある国際ろう者スポーツ委員会が主催します。
オリンピックなどと同じように、夏季と冬季の大会が、それぞれ4年ごとに開かれます。今回、日本で開かれる大会の正式名称は「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025」です。
第1回大会は1924年8月、フランスのパリで開かれました。その時は「国際サイレント大会」として、9か国の148人の選手が出場しました。女性の選手は1人でした。日本の選手団が初めて参加したのは、1965年のアメリカ・ワシントンでの夏季大会でした。
デフリンピックの名称は、2001年に国際オリンピック委員会が承認してから使われています。ヨーロッパなどで開かれることが多く、アジアでは2009年に台湾で開かれた夏季大会が初めてでした。
競技数は、夏季は陸上や水泳、サッカーなどの21競技、冬季は6競技です。
夏季には、デフリンピックならではの「オリエンテーリング」という競技もあります。オリエンテーリングは、地図とコンパス(方位磁石)を活用して、野山などに複数設置された「コントロール」と呼ばれるチェックポイントを順番に通過し、ゴールに着くまでの「速さ」を競います。
各競技のルールは、耳の聞こえる人の競技とほとんど一緒です。デフ選手は、審判が使う笛の音や指示、陸上競技のスタートを知らせるピストルの音などが聞こえないため、光ってスタートを合図する装置をはじめ、旗を使うなどして、音の代わりに、目で見てわかるように情報を伝えています。
選手は競技会場での試合や練習の時は、補聴器などを外すことが決められています。選手間の公平性を保つためだそうです。
障害のある選手の国際スポーツ大会といえば、パラリンピックを思い浮かべる人もいるかもしれません。パラリンピックは、1960年にイタリアのローマで開かれた大会が最初とされています。デフリンピックのほうが古い歴史があります。
デフリンピックを提唱したのは、自身も自転車競技のデフ選手だったフランスのウジェーヌ・ルーベンス・アルケさんです。アルケさんは、聞こえない人の社会的地位が低く、手話が言語として認められていなかった時代に、聞こえない人たち自身が運営する国際大会を開いて、社会を変えようとしたそうです。
一方、1896年に始まった近代オリンピックは平和な社会づくりのため、パラリンピックは戦争で負傷した人のリハビリテーションに生かそうという目的がありました。そういった経緯もあり、パラリンピックとデフリンピックは、それぞれの大会が独自性を保ちながら開催されています。
日本財団パラスポーツサポートセンターによる調査では、「デフリンピックを知っている、見たり聞いたりしたことがある」と答えた人は、2021年は16.3%でした。
今大会に向けた課題の一つが、認知度を高めることでした。そこで、各地でイベントや体験学習などが開かれました。2025年の調査では、38.4%まで上がりました。大会を運営する全日本ろうあ連盟は、北と南から2台のキャラバンカーで全国を巡回。開幕前日までPRします。
また、大会ビジョンには「多様な視点を大切にした大会運営をめざす」ことも盛り込まれました。大会のエンブレムは、視覚、聴覚障害のある人のための大学・筑波技術大学(茨城県)の学生がデザインした最終候補3案の中から、東京都内の中高生の投票で決まりました。メダルのデザインも全国の小中高校生の投票で決めるなど、子どもたちの意見も生かされています。

デフリンピック東京大会のエンブレムを作成した多田伊吹さん。ろう文化のシンボルである手と、桜の花を題材に、競技を通じて聞こえる人とろう者が交わる輪が広がり、その先に花が咲く――という願いを一筆書きで表現しました=東京都内で2023年9月

デフリンピックをPRするキャラバンカーの到着を歓迎した人たち=神奈川県鎌倉市で10月28日
10月には東京の日本記者クラブで、選手らが記者会見しました。サッカー男子の松元卓巳選手は「責任と覚悟を持ち、結果につながるように頑張る」、空手女子の小倉涼選手は、ランプや旗を使った競技の進め方などに触れ「聞こえる人が観戦して、何か発見があるとうれしい」と、それぞれ手話を交えて話しました。二人は日本選手団を代表して旗手を務めます。
東京大会には、70~80か国・地域の約3000人の選手が参加する見込みです。日本選手団は約400人で、すべての競技に選手を出すのは初めてです。昨年のパリ・オリンピック、パラリンピックと同じ色合いのユニホームを着ます。
開会式と閉会式、射撃競技をのぞいて、事前申し込みなしで一般の人も観戦できます。混雑状況は大会ホームページなどで確認できるそうです。
出かけた人は、耳の聞こえない選手を手ぶりで励ます新しい応援方法「サインエール」を使ってみてください。一体感が増すようですよ。
(2025年11月12日毎日小学生新聞より)

記者会見でデフリンピックを手話で示してポーズを取る、(左から)日本選手団の太田陽介団長、松元卓巳選手、小倉涼選手、全日本ろうあ連盟の石橋大吾理事長=東京都千代田区の日本記者クラブで10月16日

耳の聞こえない選手を手ぶりで励ます新しい応援の方法「サインエール」の一つ。写真は「行け」を意味するものです
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