デジタル教科書が2030年度から正式に導入されることになりました。中央教育審議会(文部科学大臣に意見を述べる専門家の集まり)の中で、担当の作業部会が導入を了承しました。デジタル教科書って、どういうものなのでしょうか。
いま学校では1人1台のタブレット端末が配布されています。学校によっては、この端末を使って教科を勉強しているところもあります。これも「デジタル教科書」と呼ばれていますが、紙の教科書とまったく同じ内容で、正式な教科書ではなく、紙の代わりに使う教材という位置づけになっています。
これに対し、2030年度からはデジタル独自の教科書も正式な教科書と認められます。動画や音声、QRコードなど、デジタルの特長を生かした内容となります。
たとえば、実験の手順を動画で説明したり、図形をマウスや指で動かしたり、教科書に何度も書き込んだり消したりできるようになります。画面に書き込んだ内容を、他の端末と共有することもできます。
字が見えにくい、集中しにくい、指で紙をめくりにくい、日本語が難しい――。こうしたさまざまな特性を持つ子どもたちにとっても、デジタル教科書はとても便利です。文字を拡大したり、背景の色を変えたり、アニメーションを使ったり、ふりがなをつけたりするなど、それぞれが必要とする機能を使えるので、先生もきめ細かな支援ができます。
教科書の内容にとどまらず、さまざまな教材やソフトと組み合わせ、学習を発展させることもできます。前の学年で使った教科書に載っていた内容を改めて調べるなど、自分の中で知識をつなげていくこともできます。

デジタル教科書を使用して国語の授業を受ける児童ら。教室には大きな液晶画面が二つ設置されています=東京都小金井市の東京学芸大学付属小金井小学校で9月18日
もちろんデメリットもあります。インターネットにつながりにくかったり、画面がフリーズする(固まる)など、通信やパソコン本体のトラブルに対処するのは大変です。家に持って帰るのは重たいし、自宅の通信環境によっては宿題ができないこともあり得ます。機能の使い方が分からなければ、勉強以前の問題です。低学年ならキーボード入力は難しいので、絵や音などで操作できるよう工夫する必要があります。
また、大きな図表や長い文章などは、紙の教科書のほうが全体像を把握しやすいこともあります。視力や姿勢など、健康に悪い影響が出ないか心配する声もあります。
教科書を作る側にとっても、デジタルは紙とは違う苦労があります。掲載できる分量に制限がなく、さまざまな機能も付けられるので、いくらでも内容を盛り込めますが、その分だけ手間もお金もかかります。
また、できあがった教科書の内容が正しいかどうかを確かめる「検定」にも膨大な作業が必要となり、時間がかかります。QRコードは便利ですけれども、検定ではリンク先の内容まで確かめる必要があります。
先生もパソコンに詳しい人ばかりではないので、授業の前に先生が研修を受ける必要があります。学校としても、先生や児童生徒で1人ずつ違うアカウント(個人認証情報)を設定・管理するのが大きな負担になっています。
デジタル教科書を導入するときには、(1)紙だけ、(2)完全にデジタル、(3)紙とデジタルを組み合わせる「ハイブリッド」――の3通りのやり方を想定し、自治体の教育委員会が選ぶことになっています。市町村や学校によってやり方は異なるということです。
学校教育でのデジタル活用に詳しい山梨大学准教授、三井一希さんは「教育にデジタルが入ることで、より学びやすくなる可能性があります」とデジタル教科書の導入に期待しています。その上で「紙をすべてデジタルに置き換えるわけではありません。
しかし、社会のデジタル化は進んでいます。子どもたちには、紙とデジタルのどちらからも正しく情報を読み取れる力を付けてほしいのです。その中で、自分の特性に気づき、自分に合った学び方を見つけることが大切です」と話しています。
(2025年10月15日毎日小学生新聞より)
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