小泉八雲と怪談ニッポン【月刊ニュースがわかる10月号】

8年近く続いた「黒潮大蛇行」 異例の長期、ようやく終わり?【ニュース知りたいんジャー】

日本列島にほんれっとう南岸なんがんながれる世界最大級せかいさいだいきゅう海流かいりゅう黒潮くろしお」。2017年以降ねんいこうおおきく蛇行だこうするうごきをせていましたが、気象庁きしょうちょうは5がつ、このうごきに終息しゅうそくわること)のきざしがあると発表はっぴょうしました。大蛇行だいだこう過去かこにもたびたびきていますが、今回こんかいは8年弱ねんじゃくと、かつてないほどながつづきました。なぜこれほど長期ちょうきおよんだのでしょうか。またこのかんわたしたちの生活せいかつにどのような影響えいきょうおよぼしていたのでしょうか。

 そもそも「黒潮大蛇行くろしおだいだこう」ってなに

 日本列島にほんれっとう南岸なんがん沿って西にしからひがしながれる黒潮くろしおが、本来ほんらいとおみちからおおきくはずれる現象げんしょうです。

 黒潮くろしお本来ほんらいひがしシナかいから九州きゅうしゅう紀伊半島きいはんとう房総半島沖ぼうそうはんとうおきと、ひがしけていきます。このながれが、紀伊半島きいはんとうから東海地方とうかいちほう南方沖なんぽうおきで、ヘビのようにぐにゃっとおおきくがることがあります。これが黒潮大蛇行くろしおだいだこうです。

 こる原因げんいんは、本州ほんしゅう黒潮くろしおあいだつめたいうず停滞ていたいすることです。つめたいうず反時計回はんとけいまわりで西向にしむきにすす性質せいしつがあります。このため、ひがしながれる黒潮くろしおつよさとうと1かしょにとどまるのです。

 大蛇行だいだこうきるとき九州南東沖きゅうしゅうなんとうおきでこのちいさなうず発生はっせいし、黒潮くろしおながされながら徐々じょじょ拡大かくだいすることがられています。地形的ちけいてき特徴とくちょう関係かんけいしていて、世界せかい海流かいりゅうでこうした現象げんしょうきるのは黒潮くろしおだけだそうです。

黒潮が流れる四国沿岸の太平洋=高知県土佐清水市の足摺岬で2023年12月
黒潮が流れる四国沿岸の太平洋=高知県土佐清水市の足摺岬で2023年12月
よくこるの?

 気象庁きしょうちょう観測かんそくはじめた1965年以降ねんいこう回発生かいはっせいしていて、そうめずらしいことではありません。江戸時代末期えどじだいまっきにやってきたアメリカの黒船くろふね有名ゆうめいなペリーの観測記録かんそくきろくから、1854ねんにも大蛇行だいだこうきていたとするせつもあります。

 今回こんかい発生はっせいは12ねんぶりで、7ねん9かげつ(4月時点がつじてんつづきました。記録きろくのこ大蛇行だいだこうはいずれも1年以上ねんいじょうつづいていますが、これまで最長さいちょうだった4ねん8かげつ(1975ねんがつ~80ねんがつ発生はっせい)を更新こうしんし、最長さいちょうとなりました。

 ながつづくのは、黒潮くろしおながれがよわいことが原因げんいんです。黒潮くろしおには、東京とうきょうドーム40杯分ぱいぶん相当そうとうする最大約さいだいやく5000万立方まんりっぽうメートルもの海水かいすいを1秒間びょうかんやく2メートルはこぶ、とてつもないちからがあります。ただ、ながれがつよければ停滞ていたいするうずひがしながすことができますが、90年代ねんだいから黒潮くろしお流量りゅうりょうりつつあります。今回こんかい大蛇行発生後だいだこうはっせいごの2021年冬ねんふゆには毎秒まいびょう2040万立方まんりっぽうメートル(東経とうけい137度地点どちてん)までりました。過去かこ大蛇行だいだこう期間きかんらしわせると、流量りゅうりょうおおとき短期間たんきかん終息しゅうそくする傾向けいこうがあります。

わたしたちのらしにはどんな影響えいきょうているの?

 黒潮くろしお赤道付近せきどうふきんから海洋かいようねつ日本近海にほんきんかいはこびます。大蛇行だいだこうきると、黒潮くろしお本州ほんしゅうからはなれるため近海きんかい水温すいおんひくくなるとかんがえられていました。しかし、大蛇行だいだこうはむしろ、東海地方とうかいちほう関東地方かんとうちほう猛暑もうしょ豪雨ごううをもたらす要因よういんとなっていたという指摘してきもあります。東北大学とうほくだいがく宮城県みやぎけん)の研究けんきゅうチームによると、みなみ蛇行だこうしたあと東海とうかいから関東沿岸かんとうえんがんながんだ黒潮くろしおが、その海域かいいき水温すいおん上昇じょうしょうさせ、それによりしょうじた大量たいりょう水蒸気すいじょうきによってなつ雨量うりょうやしたり気温きおん上昇じょうしょうさせたりするそうです。

 黒潮くろしおは、日本にっぽん北方ほっぽうからながれる海流かいりゅう親潮おやしおくらべると栄養分えいようぶんすくないのですが、うみものにも影響えいきょうします。たとえば、あたたかい海域かいいきこのさかなのカンパチやクロマグロは、大蛇行だいだこうによって海水温かいすいおんがった関東かんとう東海沿岸とうかいえんがんでよくれる傾向けいこうになります。

 一方いっぽう海藻かいそうなどはひろ範囲はんいそだちにくくなりました。2018ねんには、紀伊半島西岸きいはんとうせいがんでサンゴの大量死たいりょうし確認かくにんされました。ふゆ海水温かいすいおんがったことが背景はいけいにあり、大蛇行だいだこう原因げんいんひとつとする見方みかたもあります。

マグロの競りの様子。黒潮大蛇行は漁業にも影響してきました=東京都江東区の豊洲市場で1月
マグロの競りの様子。黒潮大蛇行は漁業にも影響してきました=東京都江東区の豊洲市場で1月
 このまま大蛇行だいだこうえてなくなるの?

 6がつ海流図かいりゅうずると、黒潮くろしおながれがよわいまま、うずがちぎれてみなみはなれています。じつは2020ねん10がつにも一度渦いちどうずはなれましたが、そのときはすぐに大蛇行だいだこう復活ふっかつしました。

 今回こんかいは6月末がつまつに、西にしながれたうず九州沖きゅうしゅうおきふたた黒潮くろしおまれましたが、大蛇行だいだこうには発達はったつしていません。東海沖とうかいおき蛇行だこうひがしながされつつあり、終息しゅうそくかっているようです。

 気象庁きしょうちょうは8月下旬がつげじゅんごろに、黒潮大蛇行くろしおだいだこう終息しゅうそくについて最終的さいしゅうてき判断はんだんをする見通みとおしです。

将来的しょうらいてき見通みとおしは

 黒潮くろしおくわしい海洋研究開発機構かいようけんきゅうかいはつきこうJAMSTECジャムステック)の美山透みやまとおる主任研究員しゅにんけんきゅういんは「流量りゅうりょうすくない傾向けいこうつづ場合ばあい大蛇行だいだこうきやすくなったり、長期化ちょうきかしやすくなったりする可能性かのうせいがあります」と指摘してきしています。

 流量りゅうりょう減少傾向げんしょうけいこうにある原因げんいんは、よくかっていません。ただ、黒潮くろしお推進力すいしんりょくとなる偏西風へんせいふう上空じょうくう西にしからひがしつねかぜ)の蛇行だこう目立めだったり、世界的せかいてき海水温かいすいおん上昇じょうしょうしたりしていて、うみをとりまく状況じょうきょう変化へんか影響えいきょうしていることもかんがえられます。

 美山(みやま)さんは「今(いま)までの海流(かいりゅう)の常識(じょうしき)が変(か)わってきている可能性(かのうせい)があります。海(うみ)の資源(しげん)をどう守(まも)っていくのか、長期的(ちょうきてき)に考(かんが)えなければなりません」と話(はな)しています。

(2025ねんがつ6日むいか 毎日小学生新聞まいにちしょうがくせいしんぶんより)

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