大雨や台風、土砂災害など、日本の各地でいろいろな自然災害が起きています。皆さんが住んでいる地域には、それぞれの災害で、どのような被害が起きるリスク(危険性)があるのでしょうか? そのために役立つのが「ハザードマップ」です。被害の想定を知り、備えるためにできることを、知りたいんジャーと一緒に調べてみました。
梅雨の時期から秋にかけて、日本列島では集中豪雨や台風が続きます。大雨で河川の水の量が急激に増え、堤防を越えてあふれ出る「洪水」や、台風や強い低気圧の接近で海面が上昇し、海水が堤防などを越えて浸水する「高潮」の被害が起きます。雨が続き、山やがけの地盤が緩んで、がけ崩れや土砂災害が発生することもあります。
こうした自然災害は、雨が降り続くなどの気象条件に加えて、その土地の成り立ちによる性質や地形など、さまざまな要素が重なって起きます。そこで住民に、予測される被害を知って被害を軽くしたり防災に役立てたりしてもらうために作られたものが「ハザードマップ」です。被害予測図とも呼ばれます。
ハザードマップは洪水や土砂災害、地震など災害ごとに作られています。災害時に危険な場所をはじめ、避難する道順や避難場所を地図上で示しています。市区町村が作成しており、冊子やホームページで見ることができます。

台風18号の影響による大雨で鬼怒川(写真の上から下へ向かって流れる川)の堤防が決壊して水があふれ、冠水した茨城県常総市=2015年9月10日、毎日新聞社ヘリから
水害対策に力を入れる東京都江戸川区の例を記者が取材しました。江戸川区は、海の満潮時の水面よりも地面の方が低い「海抜ゼロメートル地帯」が区域の7割を占めます。荒川と江戸川が流れ、上流で降った雨が多く集まります。
区の水害ハザードマップは、洪水と高潮による浸水被害を合わせて示しています。深さが0.5メートル未満の「床下浸水」は卵の黄身の色、▽3メートル未満で建物の「1階浸水」は薄いオレンジ色、▽5メートル未満の「2階浸水」はピンク、▽10メートル未満の「3~4階浸水」は濃いピンク――と色分けしています。
区役所のある場所はどうなるのでしょうか? マップを見ると、5メートル未満を示すピンクです。防災危機管理課の功刀彰史さんは「最大被害の場合2階まで浸水し、2週間以上、水がひきません。区内のほとんどが水没します」と厳しい表情で言いました。近隣の5区で人口の9割以上にあたる250万人が被災する可能性があるそうです。

東京都江戸川区の水害ハザードマップについて説明する区防災危機管理課の職員=江戸川区役所で6月23日
各地の被害想定を知るには、市区町村が作るハザードマップのほか、国土交通省の「重ねるハザードマップ」も活用できます。これは、さまざまな種類の災害の被害想定を、各地の地図上で重ねて見ることができるものです。
家や学校の被害想定が分かった後は、避難所を確認します。どの道を通って避難するのか、できれば二つ以上のルートを確保しましょう。水害では、周辺よりも低くなっている「アンダーパス」の道路を通ることは避けましょう。
非常持ち出し袋も準備しましょう。避難するタイミングも、事前に決めておくといいです。高齢者など行動に時間がかかる人がいる家庭は、早めに避難するのが望ましいです。
大雨や台風の予報が出たら、気象情報を入手しましょう。気象庁や自治体のサイトをはじめ、ニュースやラジオで確認できます。防災行政無線にも注意しましょう。
「浸水しない場所へ、大雨になる前に避難する」。それが水害対応の大原則です。もし、急な大雨などで避難所への移動が難しい場合には、より高いところへ行く「垂直避難」をして、できるだけ身の安全を確保します。
地域で暮らす誰にでも、必要な情報が届くように、努力している自治体もあります。
日本で暮らす外国にルーツのある人も増え、総人口の約3%にあたります。外国人が多い自治体では、英語や中国語など複数の言語でハザードマップを作成するところもあります。
東京都大田区は、難しいことばを言い換えたり漢字にふりがなをつけたりした「やさしい日本語」によるマップも作っています。
ハザードマップは、説明は文章で書かれ、被害想定は色で分けて示され、図も多いです。このため視覚障害者が読んだり、見たりするのは難しいです。そこで、以下のような試みがなされています。
▽避難場所などを点字に訳す、▽アプリで二次元コードを読み取ると、文字で書かれた内容を読み上げてくれる「音声コード」を各ページにつける、▽触って分かる立体的な地図を作る。手話の動画サイトにアクセスできるQRコードをつけたところもあります。これらは、まだごく一部の自治体での取り組みですが、ぜひ広がってほしいです。
過去に起きた災害を知るヒントが地域にある場合があります。「自然災害伝承碑」と呼ばれる石碑などもその一つです。
例えば、東京都江東区木場には、都の有形文化財にも指定されている「波除碑」があります。資料などによると、江戸時代後期にあった大雨と高潮による水害で、あたり一帯の家が流され、多くの死者が出たそうです。
また、各地の地名には、地形の特徴を捉えて受け継がれてきたものもあります。例えば、倉や暗という字が含まれる地名は、崖や崩壊地を示している場合もあり、読み方が同じ別の漢字が使われていることもあるそうです。
地域の防災にくわしい国立研究開発法人・防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の元客員研究員、花崎哲司さんは、こう話します。「『蛇』や『竜』といった漢字が入った地名には、過去に水害や土砂崩れがあった場合があります。市町村合併などで変わっても、駅名などで残っているところもあります。地域の特徴が分かるかもしれませんよ」
(2025年7月9日 毎日小学生新聞より)

江戸時代後期の水害を伝える「波除碑」=東京都江東区木場で6月17日
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