科学コミュニケーターの本田隆行さんと相棒のボットンが、日常のあちこちに潜む科学を探っていきます。今回は2023年3月に起きた、「H3ロケット初号機の打ち上げ失敗」の理由をナゾ解き!(「Newsがわかる2023年6月号」より)

ロケットが打ち上がる瞬間は見てたんだよね
もちろん! 青空にぐんぐん上がっていったよ

種子島宇宙センターから発射された「H3ロケット初号機」=鹿児島県南種子町で2023年3月7日
ロケットの機体って、ほとんどが燃料なんだ。燃料が空になったタンクを順番に切り離して、どんどん身軽になりながらロケットは宇宙を目指していく
え、ほとんどが燃料なの!?
そう。 H3ロケットだと、横についている固体ロケットブースター、第1段エンジン、第2段エンジンがあって、その先に荷物である人工衛星を載せているんだよ
へー! 最初はキレイに打ち上がったように見えてたけど……

2本の固体ロケットブースターを分離するH3ロケット初号機=同町で2023年3月7日
確かに。ロケットブースターや今回新開発された第1段エンジンは問題なく、動いたみたい。でも、問題はこの後なんだ
ということは、第2段エンジンに何かあったの?
第1段エンジンが役目を終えて切り離されると、次に第2段エンジンが動き出すはずが、どうやら火がつかなかったようなんだ
エンジンが故障してたのかな……
今、原因を調べているけど、エンジンに火をつける「指令」は届いてたのに、動かなかったらしい
「指令」って?
ロケットは、電源やセンサー、制御装置がたくさんついた巨大な精密機器なんだ。さまざまな部品を順番通りに動かすため、機器の間で電気信号を送り合うところで異常があったらしい
※その後の文部科学省の専門家会議で、第2段エンジンの一部の部品に関して、もともと高い成功実績があったこともあり、不具合が起きる可能性について確認が不十分だったと分析している。
そうなんだ。で、ロケットはその後どうなったの?
正常に動作しないと判断された段階で、「指令破壊」が行われたんだ
えー! 空中でどかーん!……って?
いやいや、火薬で火をつけるのではなく、燃料タンクを割るんだ。タンクが割れるとエンジンは動かなくなって海に落ちる。「指令破壊」は成功の見込みがなくなったロケットを安全に破壊するための仕組みだよ
落ちてくる海は大丈夫なの?
ロケットが落下するエリアには、飛行機や船が入らないよう事前に通知しているんだ。打ち上げが成功しても、切り離したロケットが落ちてくるからね
ということは、ロケットを安全に落とすことには「成功」したんだね。初めての打ち上げだし、次に向けて今回の課題を解決してもらえるといいな
ロケットは、1機丸ごと使った動作試験をするのが難しい。今後、できるだけ安く安全に飛ばすことを考えると、「必要な失敗」だったのかもね
今回は試験機だって言ってたし、「失敗は成功のもと」ってことかあ
ただ、ロケットに載せていた地球観測衛星「だいち3号」は災害監視など重要な任務が待っていたんだ

地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」は、地球規模で陸地を継続的に観測。蓄積した平時の画像や災害発生時の画像を防災・災害対策などに活用する=宇宙航空研究開発機構(JAXA)提供
え、そうなの!? ロケットにとっては必要な失敗でも、衛星にとっては大ダメージだなあ
そうだね。ロケットの打ち上げには、機体の開発から、荷物の人工衛星の開発やその衛星を使った観測プロジェクト、さらには将来の宇宙開発計画までいくつもの仕事が絡み合っているんだよ
一見、成功したようでも、別の見方をすれば失敗になってしまうのか、うーん……
ぎゃ、ボットンの頭から煙が!!!
イラスト:こばやし あさみ
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