誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。
奇跡のような偶然が重なった……ツチヤさん
地球は、太陽ができたときに残ったガスやチリが衝突を繰り返すうちに、たまたまだんだん大きくなってできたと言われている。だとしたら、地球があるのは単なる偶然だ。地球と同じ「惑星」(太陽のような燃えている星の周りを回っている星)は宇宙には数えきれないくらいたくさんあるらしい。地球もそのうちの一つにすぎないって思うと、たいして珍しくもない気がしてくるね。
でも、地球を「生き物のいる星」と考えてみるとどうだろう。たとえば、地球には、生き物が生活する上で欠かせない「液体の水」があるけれど、それが可能なのは、太陽からぴったりちょうどいい距離のところに地球があるからだ。地球が太陽からほんのちょっとでも遠かったら、地球上の水は全部氷になっていただろう。逆に、ほんのちょっとでも近かったら、全部蒸発していただろう。それ以外にも、奇跡のような偶然がいくつも重なった結果として、現在の地球には生き物が存在している。こう考えると、さっきとは逆に、地球があるのは単なる偶然じゃなくて、神様が人間のすみかとしてわざわざ作ってくれたんじゃないかって気がしてくる。
どうやら僕たちは、めったにない珍しいことが起こっていると、「そこには何か意味や理由がある」って思ってしまうらしい。なんでそう思っちゃうんだろうね。
どうして不思議な気持ちに? …ゴードさん
そもそも、「なぜ地球はあるの?」と問わずにはいられない気持ちになるのは、どうしてなんだろう。たしかに私もそういう疑問を持つことがあるのだけれど、自分が何を不思議に思っていて、何を知ろうとしているのか、実はよくわからない。
ツチヤさんは、地球がめったにない珍しい星だから、奇跡のようなことが起きた意味や理由を知りたくなるのではないかと言う。でも、私はそれだけではないと思う。だって、他の星には生き物がいないと知らなくても、あるいはもし、地球に似た星がたくさんあったとしても、やっぱり、なぜこの地球が存在するのかと、問わずにはいられないから。
人間は、どんなにありふれたものでも、別になくてもよかったものが「ある」のだと気づくと、それが生まれた原因や存在する理由を考えたくなるのではないかな。そして、私たちの身近にあるものは、自分自身も含めて、地球がなければ存在しなかったものばかりだよね。だから、いろんなものの存在の前提になっている地球が、なぜ存在するのかと知りたくなるのではないかな。
ずいぶん違う原因と目的……コーノさん
私は、何かの疑問について考えるときには、その疑問自体の意味をよく考えてから、答えを見つけるようにした方がいいと思うんだ。言葉をはっきりさせてから考えないと、よくわからなくなってしまう。「なぜ地球はあるの?」という質問だけど、私たちは「なぜ」という言葉をいろいろな意味で使っている。一つは、最初にツチヤさんが答えたように、どのようにできたのか、その原因を聞いている場合だね。もう一つは、ゴードさんが言うように、「なぜ」と言うときには、その理由や目的を聞いていることがある。
たとえば、「なぜ道路に信号があるか」と言えば、みんなで信号を守って交通事故を起こさない「ため」だね。「……のため」というのは目的を意味している。事故を防ぐという目的のために信号は作られた。だけど、信号ができた原因は、「人間が材料を集めて作ったから」だね。だから、信号の原因(「材料を集めて人間が組み立てた」)と信号の目的(「事故を防ぐため」)は、ぜんぜん違うことだよね。
このように、あるものが生じた原因と、そのものの目的とはまったく違う。地球ができた原因は、ガスやチリがたくさん集まったからだよ。宇宙物理学者がこういう宇宙のでき方を研究している。じゃ、地球ができた目的は何かな。地球が、交通信号のように誰かがわざわざ作ったものなら、目的はあるかもね。でもそうではなくて、宇宙は誰が作ったのでもなくて、自然に、たまたま偶然にできたものなら、そもそも宇宙に目的などはないかもね。私は宇宙ができた目的なんてないと思うな。
★「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中
<5人の哲学者をご紹介>
河野哲也(こうの・てつや)
立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。
土屋陽介(つちや・ようすけ)
開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。
村瀬智之(むらせ・ともゆき)
東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。
神戸和佳子(ごうど・わかこ)
東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。
松川絵里(まつかわ・えり)
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。
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