【ニュースがわかる2024年10月号】巻頭特集は「発明が世界を変える」

かわる成人年齢 「大人」って何だろう【ニュース知りたいんジャー】

今年4月、民法の改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられます。明治時代から続いてきた「20歳成人」から「18歳成人」になると、どんなことが変わるのでしょうか。成人の問題に詳しい実践女子大学教授の広井多鶴子さんに聞きました。【田村彰子】


 ◇いつから20歳が成人なの?


 大人として扱われる人を、法律では「成年」と言います。一般的には「成人」と呼ばれることが多いです。日本では、民法で「年齢20歳をもって、成年とする」と定めてきました。民法とは、私たちの生活について定めた基本となる法律(ルール)です。
 成人年齢を20歳としたのは、民法ができる前の「1876(明治9)年太政官布告」までさかのぼります。広井さんは「明治維新後に政治家たちが世界の成人年齢などを見て、20歳にしたものと思われます。その当時、ヨーロッパでは21歳を成人年齢とする国が多く、25歳ぐらいまでの国もありました」と説明します。それから140年以上、日本では20歳を「大人」と「子ども」の線引きにしてきました。


 ◇なぜ18歳に引き下げられるの?

 民法上の成年になると、契約や取引、親族関係、財産などの法律に定められた行動を「親の保護」から離れ、自分で決められます。さらに、日本では民法で成年となると「子ども」から「大人」になると考えられてきました。つまり成年を迎えた人は、親から自立した存在とみなされるのです。広井さんは「政府は少子高齢化が進む中で、18歳、19歳の若い人が自分で決める権利を大事にし、もっと積極的に社会に参加してもらおうと年齢の引き下げを考えてきました」と説明します。
 話し合い始めたきっかけは、憲法改正の手続きを定めた「国民投票法」が2007年に成立したことです。18歳以上に国民投票権が認められ、それとともに民法と選挙のことを定めた公職選挙法の年齢も引き下げを考えることになりました。専門家らの意見を聞くために国の役所の法務省が設置している法制審議会が09年にまとめた最終報告書では「成人年齢を18歳に引き下げるのが良い」としています。18歳となったのは、世界で18歳を成人としている国が多いことが影響しているそうです。


 ◇何が変わるの?


 今回の成人年齢の引き下げは、あくまで民法上の年齢を18歳に引き下げるものです。民法の成年とは一人で契約や取引ができる年齢ですから、4月からは18歳になると親の許しがなくても、携帯電話の契約をしたり、クレジットカードで買い物をしたりできるようになります。特に消費者としてできることが増えます。
 法律によってさまざまな決まりがあり、18歳になったからといって何でもできるようにはなりません。例えば「20歳未満の者の飲酒の禁止に関する法律」で、20歳未満は引き続きお酒を飲むことは禁止されます。たばこを吸うのも同じです。
 今回の引き下げにかかわり、もう一つ大きな変化があります。それは結婚ができるようになる年齢についてです。これまで男性は18歳、女性は16歳でしたが、男女とも18歳に変わります。また、今は16~19歳の未成年が結婚する場合は親の同意が必要です。今後は男女ともに18歳になれば、親の同意がなくても結婚できるようになります。


 ◇成人が18歳の国は多いの?

 国際機関の経済協力開発機構(OECD)の2016年の調査で、州によって法律が違うアメリカとカナダ、15歳が成年のインドネシアをのぞいた44か国のうち、19歳と20歳以上なのは日本、ニュージーランド、韓国の3か国のみで他は18歳が成人です。ヨーロッパやアメリカでは、長い間21歳から25歳を成人としてきましたが、1960年代末から法律上の成年年齢や選挙権年齢の引き下げをしてきました。「学生運動やベトナム戦争をきっかけに、若者の権利を認めて政治や社会への参加を進めるようになりました。若者の意見が政治に反映されやすくなったのです」と広井さん。
 日本でも、大学生らが学校の問題や社会、政治が抱える問題について組織的に活動する「学生運動」がありましたが、ヨーロッパなどとは正反対で「若者は未熟だ」との見方が広がりました。かえって若者の政治や社会参加は止められ、当時の国の役所の文部省は69年に「国家・社会としては、未成年者が政治的な活動を行うことを期待していないし、むしろ行わないように要請している」との通知を出しています。日本では、若者を「未熟」とみる文化が外国と比べて長く続きました。


 ◇心配な点はあるの?


 未成年の人が重要な契約をしたり、高い買い物をしたりする場合には、親の同意が必要になります。もし、同意がないままま契約をしても、契約を取り消せる制度があります。そうして、未成年が消費者トラブルや大きな被害をなるべく受けないように守っているのです。
 4月から18歳以上の人が結んだ契約や取引は、親による取り消しができなくなります。ですから、経験が少ない若者が支払えないような高い買い物をしたり、悪い業者にだまされて契約を結んだりするトラブルが増えることが心配されているのです。
 法律が変わったからといって、すぐに18歳で自立した大人になるわけではありません。学校などでも契約や消費者保護について学び、政治や社会に関する知識を得て、問題を解決するための学習をする必要があります。「会社が新入社員の研修や仕事に関する教育をするように、親や家庭だけではなく、もっと社会全体で若者を育てていけるような制度が求められます」と広井さんは話しています。(2022年03月30日掲載毎日小学生新聞より)