世界を変えるリーダーシップ【月刊Newsがわかる2月号】

なぜ人は恋をするの?   <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

原因や理由はいろいろあるけれど……ツチヤさん

 人間が「恋」をする原因や理由については、いろんな人がいろんなことを言っている。人間には子どもを残す本能があるから恋をするんだと言う人もいれば、ドラマや漫画などの影響で「恋って素晴らしい!」と多くの人が信じ込まされているだけなんだと言う人もいる。自分の中に欠けているものを相手の中に見つけたときに恋をするのだと言う人もいる。……いろんな意見があるけど、どの説明を聞いても完全に納得できない感じがするのはなぜだろう?

 もっと重要な問題。仮にあなたが、この問いに対して十分な説得力のある説明に出会ったとする。でもそれは、あなたが元々知りたかった答えなのかな? 昨日までなんとも思っていなかったあの人のことを、あるときあなたは急に「好き」になっちゃった。こんなふうに「恋に落ちる」わけをたぶん知りたいんだよね。このときにあなたが求めている答えと、さっき言ったような説明って、何かがズレているような気がしないかな。だとしたら、あなたが本当に知りたい疑問は、あなたが作ったこの問いの形ではうまく表現できていないってことになるんじゃないかな。

恋には段階がある……ムラセさん

「恋をする」を二つの時期に分けて考えてみよう。恋が始まる時期と恋心を育てる時期だ。

 恋の始まりは、ツチヤさんが言うように、思いがけずに「落ちてしまう」のだと僕も思う。そこには理由はなくて、カミナリがいきなり落ちるみたいに落ちる。自分でコントロールすることはできない。だから、たまたま恋に落ちない人だって、きっといる。

 恋の始まりを「恋」のすべてのように言う人もいるけど、僕はそうは思わない。むしろ、次の、恋心を育てる時期がとても大切だって思うんだ。

 実は恋心は自分の意思で育てることができる。恋に落ちたときの「恋」は小さなつぼみみたいなものだ。それを、一緒にどこかに行って遊んだり、笑い合ったり、相手のことをふと考えたり、……そんなふうにして育てていくんだ。ときには、恋心があるからこそつらかったり苦しかったり、怒ったり泣いたりするかもしれない。それが、その恋を終わらせる理由になるときもあるだろう。でも、恋心を育てようと思えるだけの理由がまだ残っていれば、その恋は続けていける。たとえばそれは、長い目で見れば楽しいことが多いとか、相手の人と一緒にいて幸せになりたいとかいう理由だ。恋に落ちるときとは違って、こっちにはちゃんと理由がある。

 つまり、恋に落ちるのには理由がないけど、恋心を育てる、恋を続けていくのには、ちゃんとした理由がある。

 この問いへの答えは恋のどの段階かによって変わってくるってことだね。

段階ではなく種類があるのかも……ゴードさん

 ムラセさんは、恋の始まりの段階は理由もなく勝手に始まってしまうけど、次の恋を育てる段階は、自分の意思で進めていくと言っている。でも、いつも必ずそうかな。当てはまらない場合はないかな。

 恋を始めるときにも、何か理由や目的があって、自分の意志で恋を始めようとする人がいると思う。たとえば、恋愛をしている友達がうらやましくて、自分もその気持ちを味わってみたくて、恋をしようとする人。幸せな結婚をするために恋愛相手を探す人。こういう努力は、恋を「育てる」努力と同じように、案外うまくいくこともあるよ。それに、私たちのひいおじいさん、ひいおばあさんの若い頃には、親が結婚相手を決めていて、本人同士は結婚式の日にはじめて出会うということもあった。でも、その頃にも、とても仲の良い夫婦はたくさんいたんだ。そういう人たちは、せっかく夫婦として出会ったから、相手を好きになろうとしたのだと思う。

 逆に、でも、思いがけず恋が始まった後に、自分の意思とは関係なく、その恋心が勝手にどんどんふくらんでしまうこともある。時間が経っても、相手との付き合いが長くなっても、理由もなくふくらんでいく恋心に自分のほうが振り回されてしまうかもしれない。そんなときは、恋を育てるというよりも、恋をしすぎない努力が必要かもね。恋にはいろんな状態があってなかなか複雑だ。

「なぜ私は恋をしてしまったのだろう」とか「なぜ私は恋をしていないんだろう」と思ったときには、理由や原因を探るより、自分はその恋心をどうしたいのかなって、考えてみるのがいいかもしれない。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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