楽しみながら続ける 防災アクション10【ニュースがわかる9月号】

スクールエコノミスト2025 WEB【巣鴨中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は巣鴨中学校を紹介します。

冒険型の英国社会探究フィールドワークが、危機突破力と本質を見極める思考力を鍛える

<注目ポイント>

①英国名門校の教師が指導する“真の国際人”を育むプログラム。

②冒険・自立・国造りをテーマに探究するフィールドワーク。

③繰り返す学びのサイクルで本質を見極める観察技術を習得。

英国縦断の探究フィールドワーク誕生

 「英語体験や英語に関連する学びだけが国際教育ではない」。そんな強い信念のもと“真の国際人”を育成する国際プログラムを提供し続ける巣鴨中学校。昨年度からは新たに夏休み中2週間の「巣鴨ビヨンド・ボーダーズ(以下SBB)」が加わった。

 2週間をかけてスコットランドからロンドンまで南下し、英国の歴史や文化を体感し思考する内容だ。36名の募集に対し応募者は70名。選考基準は英語の成績プラス「冒険・自立・国造り・チームワーク」の4つを踏まえた志望動機を点数化し、その上位者とした。現地で指導に当たるのは、英国イートン校サマースクールの最高責任者を務めたチャーリー先生をはじめ、現役のイートン校体育科主任で地理も教える教師、イートン校出身でイギリス名門パブリックスクールの一つウェリントン校の現役歴史教師の3名。巣鴨の英国イートン校サマースクールで構築された人脈から錚々たる面々を揃えている。

 生徒はオンラインでチャーリー先生から1か月半をかけ事前セッションを受ける。その上で、宗教、帝国主義、統治などの8つから探究テーマを決めて出発。帰国後は探究テーマについてビデオプレゼンテーションを作成しチャーリー先生からのフィードバックを受け取り、完結する。

 SBB全体で追求するテーマは「冒険・自立・国造り」。

 「冒険」は危機突破力の育成を目指すものだ。まさに冒険の課題かのように出発早々に飛行機が欠航するアクシデントが発生。空港での宿泊を余儀なくされ、翌日も飛行機は飛ばず、鉄道での移動を余儀なくされた。また雨天決行を基本とし、雨にも負けずに全日程を完遂した。しかし、生徒は「これは冒険だ!」とばかりに逞しくハプニングや危機を乗り切っていった。

 「自立」では、プログラムの後半には設定された予算内での食事の買物や準備、洗濯など全て生徒たちでこなして日常生活における自立を経験させた。

 「国造り」では、例えば、英国で移民が最初に辿り着く町とも言われるブリックレーンを訪問し、町や国はどのように形成されるのかを考えるヒントとしたという。訪英後、何日も日本食を食べていない生徒たちは「日本食が食べたい!」と渇望した。これに対し、同行した国際教育部の岡田英雅教諭は「移民の人々も同じで、移民の数だけ母国のレストランができる。つまり自分たちの文化を変えずに広めていくのが自然の成り行きであり、当然そこには摩擦も起こる」と語りかけた。ここには自立した個人の集合体が国であることを実感し、人口に膾炙する“多様性”への疑問や国際人とは何か、自国文化の理解、本質を見極める思考の大切さを引き出す端緒としてほしいとの願いが込められている。

歴史の風格を感じさせる荘厳なオックスフォード大学の学生食堂で朝食

英国の教育に触れ、2000年の歴史を学ぶ

 パブリックスクールでのラグビー、ボート競技といった体育の授業で重視されるのは、チームワークの構築だ。SBBで最初に行われるプログラムも球技スポーツ。何度もチーム戦を行い、その都度、話し合い、自他の強みと弱み、改善すべき点を話し合い分析する。「これは社会に出て新しいチームでのプロジェクトを遂行する際と同じこと」と岡田教諭。スポーツを通してのチームワーク構築のプロセスは実社会での生きる力も育んでいく。

 また2時間で英国2000年の歴史を辿る野外演劇も鑑賞するが、SBBで訪れた場所のほとんどが劇中に登場する。つまり訪問先は英国の歴史を語る上で不可欠な場所であったことを生徒たちは再認識する。また町中の教会などの建築物を見学することで宗教と都市や人々との関係を考察するほか、心の拠り所となっていた当時の教会の役割についても学んでいった。特にバイキングの来襲後、貴重な書物等をダラム大聖堂に移動させ死守した歴史は、人々にとっての文化や思想、精神性の大切さを物語る。これは社会や国の核となるものが何であるかを潜考する端緒となっていく。