スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は法政大学中学校を紹介します。

中学3年間における国語の到達目標は、『君たちはどう生きるか』の哲学的作文
<注目ポイント>
①国語を通して自己と他者への理解を深め、未来を切り拓く力を修得する。
②自分の考えや主張を表現する方法を学び、表現力を身につける。
③哲学的・抽象的な問いに自分のことばで答えられるようになる。
段階的な目標設定で国語力を育む
法政大学中学高等学校は「自主・自律」の精神を掲げ、自ら考え判断する「自律した人間」の育成を目標とし、主体性のある若者を育む教育を行っている。大学付属校らしい学びの場とは将来を見すえた「確かな学力」を身につけることと考え、様々な試みをカリキュラムで導入している。
同校の中学・国語教育は、「読解」3時間、「表現」2時間の週5時間設置されている。国語は、「ことば」の学習を通して自己と他者に対する理解を深め、日々変化する社会や現実に対応しながら人生を切り拓いていく力を身につける科目であると捉え、論理的・客観的に物事を見つめる力、そこに自身の主観を投影できる力を養成することを目指している。「読む」「書く」「話す」「聞く」などの活動を軸に、他者と協働的に学び合いながら、総合的な「ことば」の力をつけていく。
基本となる「読解」ではインプットをメインに文章の読み方を学び、多様な文章の読解を通して、自分や社会に対する考え方を深める。さらには、日本文学や外国文学、新書など幅広いジャンルの本を読み、豊かな教養を身につけていく。授業の始めに読書をし、学期ごとに国内外の文学作品や新書など課題図書を設定し、中高6年間で読書習慣を確立する。
まず1年次では、教科書を中心に多読を重視。教科書に掲載されているドイツの児童文学者による、第二次世界大戦中のユダヤ人差別をテーマにした短編『ベンチ』を読む。読後、生徒たちは後味の悪さを感じ、どんよりとした気持ちを抱えるものの、その気持ちを上手くことばにすることができない。「生徒たちが抱えるこの“どんよりとした気持ち”を自分のことばで表現できるようにするのが国語の最終的な目標です。自らの気持ちをできる限り正確にことばに表せるよう、中1から文章の読み方をステップアップさせていくイメージで授業を進めています」と国語科の武井博志教諭は語る。
2年次になると、SDGs等より社会的なテーマに取り組み、3年次にはさらに抽象的で哲学的な文章に挑戦する。吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」を課題図書とし、全生徒が読破。哲学的なテーマに生徒一人ひとりが自分なりの答えとして感想文を執筆する。

「表現」の授業の集大成は、学年別の文集
一方、「表現」の授業では、様々な参考文献を参照しながら、哲学的・抽象的な問いに対し、自分の考えを、筋道を立てて相手に説明できるようになることが目標だ。
アウトプットを目的とする「表現」では、中1で400字、中2で600~800字、中3で1000~2000字の文章を書くトレーニングを積み重ねていく。書き上げた文章は、生徒同士で添削し合ったあと、教員が添削する。
そして国語科として積極的に指導に携わっているのが中学の各学年で学年の締めくくりに制作される学年文集だ。中3では、集大成として『君たちはどう生きるか』の感想文が文集にまとめられる。「夢や希望を語る生徒もいますし、生きるとはどういうことなのだろうと哲学的に迫っていく生徒もいます。そこが中学では最も重要であり、“もやもや”する部分をどれだけ言葉として表現できるかということを重要視しています」と武井教諭は語る。文集に掲載された作文を読み、中学3年間における我が子の成長に驚く保護者も多いという。「難しいことばを使ってみたり、大人ぶって書いてみたりすることは、非常に重要なことだと考えています。表現に挑戦してみることに大きな価値があるのです」。
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