【ニュースがわかる2025年1月号】楽しくあけよう パッケージ

グローバルの窓“Oh my goodness! “ (あかん!)

神田外語キャリアカレッジ は、神田外語大学や神田外語学院を母体とする神田外語グループの一事業体として、語学を起点にグローバル社会における課題の解決やプロジェクトを推進できる人材の育成に取り組んでいます。
今回はそんな当校の代表、仲栄司のグローバルビジネスでの体験談をお送りいたします。グローバル環境の中で仕事を進める上でのヒントや異文化についての気づきなど体験談を交えながら繰り広げられる世界には、失敗談あり、ハラハラ感あり、納得感あり。ぜひお気軽にお読みください。

 “NEC pages India!”のメッセージを掲げ、5万台を仕込んで、販売を開始しました。(参考:仲代表の「グローバルの窓」第34回 “NEC pages India !” (NECがインドを呼んでいる!) 最初の5 万台は完成品を輸出して間に合わせましたが、実はインドのページャーに対する関税は20%もかかるのです。競合他社のモトローラがどうやらSKD(Semi knock Down)生産をやるとの情報があり、我々も次の出荷からはSKD生産で対応する必要性が生じました。

 SKD生産というのは、モジュール単位で輸出し、現地で組み立てる生産方式をいいます。組み立て場所は、Natelco社の工場の一部を借りて実施することにしました。工場はムンバイから車で4時間ほどかかるナシックという村にありました。Natelco社でSKD生産を行うにあたり、事前に生産(組み立て)トレーニングを実施しました。Natelco社は、モジュールの組み立て、完成品の品質チェック、梱包、工場からの搬送を担います。

 ただ、ナシックへ行くのは結構難儀で、疲れました。道は国道と村道で、デコボコ道だったからです。また、インドのタクシーの質もよくなく、高速道路もないので、時速50キロ程度のスピードしか出せません。さらに、小さな村ですから、それなりのホテルはなく、寝ていて蚊に悩まされるようなホテルしかありませんでした。食事も大したレストランがなく、毎日インド料理だと胃が疲れました。これからナシックが生産拠点になるわけですから、出張のたびにナシックに寄ることも多くなるだろうと思うと、ちょっとしんどいなと思いました。しかし、そんなことは言っていられません。地場に根差したビジネスを実施するためにはどうしても必要な対応だったのです。

 あれはナシックを訪れた帰り道のことだったと思います。ページャーの感度が今一つよくない、というクレームが上がり、感度チェックを行うため、工場での品質管理のチェックとともに、帰りのタクシーの中でフィールドテストを実施しました。私と日本からのエンジニア、Natelco社の営業担当の三人が移動する中、ページャーの受信具合をテストしました。NEC製のみならず、モトローラのページャーもチェックしました。NECのページャーが受信できず、モトローラのページャーが受信したときはみんなで落胆し、逆にモトローラのページャーが受信できず、NECのページャーが受信したときは「やったー!」と喜びました。
 そんな調子でテストに夢中になっていたとき、ふと前を向いた瞬間、車が正面から来るではありませんか。私はおもわず「あかん!」と叫びました。片側一車線もあるかないかの狭い道です。運転手は前を行く車を追い抜こうとして反対車線に入ったのです。しかし、対向車が来ていました。これは正面衝突だと思った瞬間、私は「あかん!」と声を発しました。ここで死ぬのかなと思い、下を向いて頭をかかえて絶望したのを今でも覚えています。しかし、幸か不幸か車のスピードが時速30キロくらいしか出ていなかったのでしょう。また、運転手もハンドルを大きく切ったので、正面衝突は回避できました。しかし、窓ガラスがすべて飛び散り、そのせいでエンジニアの方が傷を負いました。運転手も腕の肉がえぐられる怪我をしましたが、「俺は大丈夫だ。それより彼の傷を何とかしないと。ほんと申し訳ない」と言いました。

 ショックと怪我とでエンジニアの方は震えていました。暗い気分が覆う中、とにかく早く手当をしようということで、ある小さな村に寄り、医者を見つけました。医者は見事なさばきで応急手当をしてくれました。医者にお礼のお金を渡そうとすると、「こんなお金は受け取れない。ここはインドだ。わざわざ日本からインドに来て、このような事故に遭遇したのはほんと残念で申し訳ない。せめて私の対応があなたがたにインドの印象をよくするのなら、それが私の一番望むところです」と言うのです。何度言ってもお金を受け取ろうとせず、とうとう我々は諦めて、住所だけ聞き、あとで丁重にお礼の品を送り届けました。

 このような事故に遭い、とても嫌な気分になりましたが、医者のことばで気分が一気に晴れ、逆になんてインドはすばらしい国なんだ!と思えるようになりました。あの小さな村で多分その村にたった一人しかいない医者だったと思うのですが、事故に遭ってこんなにもすがすがしい気分になるとは思ってもみませんでした。

著者情報:仲 栄司
大学でドイツ語を学び、1982年、NECに入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国にのぼる。NEC退職後、 国立研究開発法人NEDOを経て、2021年4月より神田キャリアカレッジに。「共にいる時間を大切に、お互いを尊重し、みんなで新たな価値を創造していく」、神田外語キャリアカレッジをそんなチームにしたいと思っています。俳句と歴史が好きで、句集、俳句評論の著書あり。