スポーツの大会や、外国に関するイベントなどで、国旗を目にすることがあると思います。この国旗は、いつからあるのでしょう? また、どんな目的で作られたのでしょうか? 日本で開催された過去4回のオリンピック(東京、札幌、長野、東京2020)や、NHKの大河ドラマ「いだてん」などで、国旗の責任者や考証をしてきた国旗研究家の吹浦忠正さんに聞きました。【木谷朋子】
◇そもそも国旗って何?
国旗は、世界のどの国にもあるシンボルです。「そこにその国がある」ということを示すためにあります。その元とされる「旗」は昔から世界中にありました。国家や集団、部族の象徴として、また、国内や集団内での権威や所属を示したり、儀式や装飾に使われたりしてきました。
中でも中国は最も早く国旗ができた国です。紀元前11世紀ごろにあった国「周」の初代の王様、武王が白い旗を使っていました。現在の国旗は1949年にできたもので、共産主義の国に共通の赤を地の色にしています。左上の大きな星は「中国共産党」を、四つの星は「労働者」「農民」「知識人」「資本家」を表します。
日本の「日の丸」は、いつ誰が作ったのか分かっていません。すでに平安時代には武将たちが、日の丸の原形(赤地に金の丸)を描いた扇を持っていたとされます。戦国時代にはそれぞれの武将が自分の家の家紋を旗にして戦ったり、日の丸を掲げたりしていました。戦国時代の日の丸は、白地に赤だけでなく、青地に白や、黒地に黄色などもありました。
◇日本に国旗が誕生したのはいつ?
正式にできたのは、鎖国をしていた江戸時代末期のことです。アメリカのペリー提督が1853年に浦賀(現在の神奈川県)へ来航し、開国を迫ったのがきっかけとなりました。
日本は、1639~1854年の215年間、中国、オランダ、朝鮮国、琉球王国(現在の沖縄)以外の国との交流を断っていました。そんな中でやってきたペリーの船には、31の星がついた星条旗が掲げられていました。そこで江戸幕府は、これから外国と貿易をするには日本船と外国船を区別するための標識が必要だと感じたのです。翌年、アメリカと日米和親条約を結ぶ時に、国旗を初めて作りました。
実は、幕府が最初に決めた国旗は、「白・黒・白の3分割旗」(大中黒)でした。これは、徳川家の先祖とされる、新田家の家紋にちなんだ模様でした。当時の「日の丸」は、幕府に納める米を運ぶ旗印だったのです。
ところが、有力者だった薩摩藩主・島津斉彬と水戸藩主・徳川斉昭が「白・黒・白」の旗に猛反対します。そこで老中の阿部正弘が意見を取り入れ、日の丸を惣船印(国旗)にすると決めたのです。赤は太陽、白は清らかな心を表し、1870年に赤丸の大きさや配置が決められました。正式には「日章旗」と呼びます。
◇デザインや色はどうやって決めるの?
それぞれの国が自由に、こだわりをもって作っていますが、基本的なデザインやパターンはあります。よく知られるのは、フランスやイタリアなどの「縦三色旗」、ロシアなどの「横三色旗」です。日本は「円形旗」に分類されます。他にも縦二色旗、横二色旗、四分割旗、十字旗、ジャマイカのようなX十字旗などがあります。
描かれているものは、太陽や星、動植物から、国章や紋章、建物などさまざまで、各国の歴史や国民の思いが表現されています。
色にも意味があります。例えば、フランス革命の時に生まれたフランス国旗「青・白・赤」のトリコロール(三色旗)には、青(自由)、白(平等)、赤(友愛)の意味が込められています。また、チェコ、クロアチア、ブルガリアなど、スラブ民族の国々の伝統色は、ロシア国旗「白・青・赤」の配色が元になっています。アラブ民族が暮らす中東・アフリカ北部では、アラブの色といわれる「赤・緑・白・黒」の配色が多く、「赤・黄・緑」はアフリカの色といわれ、アフリカ諸国が使っています。
◇作るときの決まりは?
世界にはさまざまな国旗がありますが、1945年に国際連合が設立された時は51枚でした。その後、国の独立などによって増加し、今年夏に開催されたパリ・オリンピック(五輪)の時は200枚以上に増えました。
国連やオリンピックなどでは、すべての国旗の縦横の長さを「2対3」に統一する決まりがあります(ネパールとバチカンを除く)。日本の国旗の比率は2対3ですが、この比率の国旗は世界でも半数以下。国旗の比率はさまざまです。例えば、イギリスの正式な国旗は1対2。スイスやバチカンは1対1。中東のカタールの正式な国旗の比率は11対28です。また、ネパールのように四角形ではない国もあります。
日本の日の丸は、98年の長野冬季五輪の際、直径を、縦の長さの5分の3から3分の2に変えました。これは雪の白さの中、日の丸が貧弱に見えるという理由です。
◇似ている国旗もあるよね?
よく見られるのが、イギリスの「ユニオンジャック」です。イングランド、スコットランド、アイルランドの国旗を組み合わせて作り、「連合王国」であることを表しています。これを取り入れているのが、オーストラリア、ニュージーランド、クック諸島、ツバル、フィジー、ニウエなど、かつてのイギリス領やイギリス連邦の一部の国々です。
「三色旗」も人気があり、特にヨーロッパには似た国旗がたくさんあります。世界で初めて三色旗を作ったのはオランダです。昔は赤の部分がオレンジでしたが、目立たないということで、1937年に現在の横三色旗の「赤・白・青」となりました。ロシアは、オランダに憧れたピョートル大帝が、オランダのまねをして「白・青・赤」の三色旗を作ったと伝えられています。
オランダと見間違えそうになるのが縦三色旗の「青・白・赤」のフランスです。また、イタリアは、フランスのナポレオンが来て征服したことから、フランスの「青・白・赤」の青を緑に変えて国旗としたのが始まりです。
なお、国旗についてもっと知りたい人には「国際知識検定国旗(国旗検定)」がおすすめです。小学3年以上が受けられ、親子向けの検定もあります。主要都市で年4回実施されます。(2024年12月04日毎日小学生新聞より)