2024年も日本で、世界で、さまざまなニュースがありました。ジャーナリストの池上彰さんのお話を聞きながら、今年あった出来事を振り返ってみましょう。(聞き手:森忠彦・毎日小学生新聞元編集長、インタビュー撮影:幾島健太郎)
◆広島と長崎の原爆被爆者たちは、「ノーモア・ヒバクシャ」を国内外で訴え続けてきました。
核軍縮を巡っては、核兵器廃絶を目指す科学者の国際会議「パグウォッシュ会議」や国際NGO(非政府組織)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)などが、既にノーベル平和賞を受賞しています。本来なら自ら核兵器の悲惨さを訴え続けてきた被爆者にこそもっと早くに与えられるべきだったはずで、今回の受賞はむしろ「遅すぎた」くらいです。
授賞理由では「核のタブー」という表現が用いられました。日本被団協の訴えで「核兵器が二度と使われてはならない」という「核のタブー」が世界で共有されるようになった。そのことが、高く評価されたのです。
ウクライナに侵攻するロシアのプーチン大統領は核使用をちらつかせ、パレスチナ自治区ガザ地区を攻撃するイスラエルの閣僚は「核兵器の使用も選択肢の一つ」と発言しました。北朝鮮も核兵器の開発を進めていると言われています。核兵器使用の危機意識が高まっている今だからこその、ノーベル賞委員会の強いメッセージでもあるのです。
涙ぐむ広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長
◆「核なき世界」に向けて日本政府が果たすべき役割は何ですか。
日本政府は、核兵器の使用や保有などを禁止する核兵器禁止条約に加盟していません。オブザーバー参加もしていません。それで、「唯一の戦争被爆国」の責務を果たせるのか。被爆者も高齢化し、活動をどう継承していくのかも大きな課題です。
◆ガザ地区では4万人以上が亡くなっています。
イスラエルは、ガザ地区のイスラム組織ハマスや、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対する攻撃をやめることはないでしょう。第二次世界大戦中、600万人ものユダヤ人がナチス・ドイツに殺されたとき、どの国も助けませんでした。
ユダヤ人は自分たちのことは自分たちで守るしかないと思っています。イスラエル国内でも戦争を続けることへの反対運動はほとんど起きていません。
ヒズボラを支援するイランはイスラエルを攻撃しましたが、全面戦争にはならないでしょう。イランにはイスラエルと戦える戦力はないからです。
記者会見するイスラエルのネタニヤフ首相
◆アメリカ大統領選は、共和党のドナルド・トランプさんが民主党のカマラ・ハリスさんに勝ちました。
トランプさんが勝つことができたのは、バイデン政権が物価高に効果的な政策を打ち出せず、不満を持つ人が多かったことと、トランプさんが不法移民への恐怖心をあおったためです。バイデンさんやハリスさんがイスラエルを支持する姿勢に若い人たちが反発したことも影響したかもしれません。
今後世界情勢がどう変わるか、全く予測できません。
集会で聴衆をたたえるアメリカ共和党のドナルド・トランプ大統領
◆石破茂首相就任から26日後の投開票は戦後最短でした。
石破さんが岸田文雄さんに代わり自民党総裁に選ばれたのは、政治資金パーティーをめぐる派閥の裏金問題で自民党が批判を浴びる中、「党が変わった」ことを示すためでした。しかし、総選挙で自民党と公明党の与党の議席数が過半数(233議席)に至らず惨敗しました。自公の過半数割れは旧民主党政権が誕生した2009年以来15年ぶりです。
一方、最大野党の立憲民主党は、大幅に議席を伸ばしたものの「比較第1党」には及びませんでした。”裏金議員”が自民党の非公認ででている選挙区だけでも野党統一候補を立てるような、そんな力のある政治家が野党にはいなかった。健全な民主主義には選択肢が必要ですが、日本の野党は選択肢になりえていません。
2025年夏には参院選があります。与野党各党がどのように体制を整えていくのか、注視していきましょう。
インタビューに臨む石破茂首相
◆能登半島地震や線状降水帯による水害などの自然災害対応が課題でした。
取材で能登を訪れた際、東京都の水道局が水道の復旧に貢献していました。防災対策の管轄は市町村ですが、小規模な町や村だけではとても対応できません。広域的な支援が必要です。
石破首相は「防災庁」設置に意欲を示しています。防災は総務省、国土交通省、防衛省など幾つかの省庁にまたがり、横断的な組織をつくることは簡単ではないかもしれません。災害対策の経験を積んだ人が司令塔の役割を果たす柔軟な組織を期待します。
下水道の復旧作業に当たる東京都からの応援職員
◆南海トラフ地震臨時情報が2024年8月、初めて出されました。
フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込んでいる場所が「南海トラフ」で、過去に東側で東海地震、西側で南海地震、中間で東南海地震が起きました。臨時情報とともに示された図にあった各地の震度は、それぞれに近いところで地震が起きた場合の最大震度です。三つの地震が同時に起きるとは限りません。図は冷静に読み取りましょう。
津波避難タワーや備蓄倉庫を兼ねた展望台など、各自治体の対策も進んできました。家庭でも、水や食料を少し多めに買っておき、使った分を新しく買い足す「ローリングストック」などを普段から心がけたいですね。
◆2025年に注目すべきことは何でしょうか。
2024年は、駅やホテルをはじめさまざまな場所で、人の応対がAI(人工知能)にがらりと置き換えられた年でした。学生も生成AIのチャットGPTを使うケースがでてきたので、私の大学ではリポートはその場で書いてもらっています。
AIを使った偽動画も出回るようになっています。今後、これらの技術とどう付き合うかが大きな課題ですね。国際的な条約の検討も始まっています。
また、2025年は日韓国交正常化60周年の年。韓国の尹錫悦(ユン・ソン・ニョル)大統領は「根拠のない反日はやめよう」と話します。しばらくは関係改善をさらに進めることができるでしょう。
Newsがわかる総集編 2025年版
2024年はどんな年だったでしょう?
パリでのオリンピック・パラリンピックやG7サミット、パレスチナ・ハマスとイスラエルの関係など、世界では大きなニュースがたくさんありました。
一方、国内に目を向けても、新紙幣の発行や能登半島の地震など、注目すべき話題がたくさん出てきています。
その他にも環境・SDGsや科学・技術のニュースも網羅し、巻頭には池上彰さんのインタビュー、学習塾の入試対策担当者による「時事問題の勉強法」も掲載しています。