東京、名古屋(愛知県)、大阪の3大都市圏を結ぶ東海道新幹線が2024年10月1日、開業から60周年を迎えました。昭和、平成、令和の3時代を走り続け、経済や暮らし、レジャーなど私たちの生活に、なくてはならない存在となりました。どのように生まれ、変わってきたのでしょうか。【野田武】
◇どうやってできた?
話は、第二次世界大戦後の復興期までさかのぼります。今のJRの前身、日本国有鉄道(国鉄)の旅客と貨物の輸送量が、経済発展によって急速に増え始めます。特に、東京―名古屋―大阪を結ぶ東海道線は、輸送力の強化が必要でした。そこで、東海道新幹線が計画されたのです。工事は1959年4月に始まり、5年後の64年10月に開かれる東京オリンピックに間に合うよう、今では考えられないような急ピッチで進められました。

64年7月には東京―新大阪間515・4キロメートルの軌道が完成。そして、オリンピック開幕9日前となる10月1日午前6時、「ひかり1号」が東京駅を、「ひかり2号」が新大阪駅を発車しました。当時としては世界最高の時速210キロメートルを実現し、在来線で約7時間かかっていた東京―大阪間を4時間に短縮しました。列車は、名古屋と京都だけに止まる「ひかり」が14往復。各駅に止まる「こだま」が16往復(区間運転を含む)。1時間におおむね各1本ずつの運行でした。
なお、新大阪より西側の山陽新幹線は67年に建設工事が始まり、72年に岡山まで、75年に博多(福岡市)まで開業しました。
◇白と青の車両が格好いいよね
東海道新幹線の車両で印象的なのは、白と青を組み合わせた、さわやかな配色です。最初の車両の0系から、最新型のN700Sまで、白の割合が多くなったものの、この2色の組み合わせは受け継つがれてきました。

なぜ白と青なのか。国鉄で副技師長として0系車両の開発にあたった星晃さんが、2011年の取材に、こう話しています。「スピードが速いことから、飛行機のイメージがありました。そうすると大空に白い雲、青と白が一番いいと。新しい列車だから、それまでにない色になりました」
今では当たり前のように感じますが、それまで鉄道車両としては、白は使われることのない色でした。それは、ブレーキをかける時に金属を車輪に押つけるので、鉄粉が生じて車両が汚れやすかったためです。
しかし、新幹線は仕組みの違う電気ブレーキを採用し、鉄粉による汚れが出にくくなるため、白が採用されることになったそうです。

◇どう進歩してきた?
現在主流となっている「のぞみ」の運転が始まったのは、平成の時代に入った1992年です。さらなる高速運転を可能とするため、新しい車両の300系が開発されました。材料を鋼からアルミ合金に替えて大きく軽量化すると同時に、空気抵抗を減らすため車両の形状も見直されました。これにより時速270キロメートルが実現し、東京―新大阪間は2時間半で結ばれるようになりました。
その後、2007年にN700系が登場します。15年のダイヤ改正で最高時速は285キロメートルに引き上げられ、運行が始まりました。令和の時代に入ると、東京―新大阪間の最速所要時間は2時間21分になりました。
開業からの60年間で運んだ乗客は、延べ70億人にも上ります。
◇今はない設備もあったの?
例えば、レストランのような「食堂車」がありました。博多まで開業した1975年に、本格的に設置されました。
向かい合わせに2人ずつ座れる4人がけのテーブルが並び、車窓の外の景色を眺めながら食事を楽しむことができました。メニューは車両の編成によって異なりましたが、ハンバーグやカレーライス、ステーキなどが提供されていました。筆者も約40年前に小学生だった頃、旅行のために乗った時に、利用した楽しい思い出があります。
ただ、新幹線がスピードアップして、お客が目的地につくまでの乗車時間が短くなったことや、駅や周辺で買える弁当、飲食店の種類が増えてきたことから、食堂車を使う人は少なくなりました。このため2000年3月に終了しました。
この他に、軽い食事をとることができるビュッフェ車両や、2階建て車両などがある時期もありましたが、いずれも現在はありません。

◇運び続けてきたのは?
東海道新幹線の開業60周年を記念したロゴマークを、駅などで見た人もいるのではないでしょうか。ポスターが各地に張られています。これをデザインしたのは、元JR東海社員で絵本作家の鈴木のりたけさんで、こう話しています。
「車両は無機質なものではあるけれど、そこには喜びや悲しみ、ドキドキ感を運んだ人の歴史がある。人と人とが触れ合う乗り物でありつづけ、新幹線がハートウオーミングな場所であってほしい」
また、0系車両を開発した星さんも、こう話していました。「みんなが楽しく乗れるということが大事なんです。楽しく旅行できる電車をつくりたいと、いつもそう思っていました」。車両が新しくなっても、より速く便利になっても、新幹線に乗る楽しさや喜びは、これからも変わらないことでしょう。(2024年10月30日毎日小学生新聞より)