お年寄りなどの人が、「認知症になった」と聞いたことがありますか? 認知症の人は、日本全国で約500万人いるといわれています。これは、65歳以上の高齢者の7人に1人の割合です。みなさんの周りにも、認知症の人がいるかもしれません。9月は、認知症への理解を深める「認知症月間」です。基本的なことを学んでみましょう。【西田佐保子】
◇認知症ってなに?
まず、そもそもですが、「認知症」という名前の病気はありません。誤解されることも多いのですが、認知症とは、脳の病気や障害などによって日常生活に問題が出ている状態のことを、まとめた呼び方です。原因となる病気や障害によって、その症状や進み方は異なります。認知症の最大のリスクは加齢で、年を重ねるとなりやすくなります。ただ、若くしてなる人もいます。
認知症の原因となる病気で最も多いのは、脳の細胞がゆっくりと死んでいくアルツハイマー病です。症状は大きく二つに分かれます。
一つは、「もの忘れが増える」「料理や家事ができなくなる」「時間や場所、人が分からなくなる」など、脳そのものの変化によって起きる「中核症状」です。
また、「無気力になる」「暴言や暴力をふるう」「外出時に迷子になる」「妄想や幻覚が現れる」などの症状は「周辺症状」と呼ばれます。脳の変化と、その人の性格や環境などが関連して起きると考えられています。

◇もの忘れに特徴はあるの?
「私も時々、忘れちゃうことあるよ」という人はいませんか? ただ、一般的なもの忘れと、認知症の人のもの忘れは異なります。
たとえば皆さんも、朝ご飯に何を食べたか忘れてしまうことはあるでしょう。でも、「自分が食べたということ」は覚えていますよね。これに対して認知症の人の場合、「食べたことそのもの」を忘れてしまうのです。
ただ、認知症になったからといって、何も分からなくなるわけではありません。認知症のある人たちは、表に感情を出さなくても、自分がこれまでと違うことに不安を感じ、「情けない」「迷惑をかけたくない」「家族を忘れるのが怖い」など、さまざまな感情を抱えています。たとえ言葉を発することができないようになっても、その人らしさは最後まで変わりません。「うれしい」「悲しい」といった感情も生き続けています。
◇どのように接すればいいの?
認知症の人は、不安を抱えて生活しています。「さっき言ったでしょ」「何でできないの」などと怒られると、ショックを受けたり、いらだったりしてしまいます。大切なのは、認知症の人の気持ちになって、発する言葉の背景にあるものを想像することです。
新しいことを覚えられなくなったり、分からないことが増えたり、これまでと同じように話したり行動できなくなったりしたらどうでしょうか。傷ついて、心配になりますよね。まず、そうした気持ちを理解するのが第一歩です。
たとえば、朝食を済ませたのに「朝ご飯を食べてない」と言われたとします。認知症の人は、新しいことから忘れていく傾向があるため、食事したこと自体を本当に忘れてしまっているのです。また、脳の働きが低下しているため、満腹だと感じられにくくなっています。
ですから、「さっき食べたでしょ」と否定するよりも、「今、作っているからね」と声をかけることをおすすめします。不安を取り除き、安心できるような接し方を心掛けましょう。
◇治療はできるの?
認知症の原因となる病気によって異なります。原因となっている病気を治療することで、治る可能性がある認知症もあります。
一方、アルツハイマー病が原因の認知症には、病気が重くなる進行のスピードを緩やかにする治療薬はあります。ただ、完全に治すことはできません。
薬を使った治療には限界がありますが、認知症という困難を抱える人を支えるために、私たちができることはあります。特に「周辺症状」は、周りにいる人たちの接し方によって改善できる可能性があります。治らない病気だからこそ、周りのサポートが何よりも大切なのです。
◇くわしく知るためにはどうすればいい?
日本では今後、高齢者の割合が増加し、認知症の人も増えていくと予測されています。行方不明になった認知症の高齢者も数多くいます。
電車で、スーパーで、道ばたで、困っている認知症の人に出会った場合、自分に何か手助けできることはないだろうか――。そう考えている人には、「認知症サポーター養成講座」がおすすめです。認知症について、より深く学ぶことができます。また、授業で養成講座を受けられる小学校もあります。興味のある人は、市町村の高齢福祉を担当している部署に問いあわせてみましょう。

認知症の人が安心して生活していくために必要なのは、私たち一人一人の正しい知識と想像力です。身近な人が認知症になるのは珍しいことではありません。誰もが認知症になってからも暮らしやすい社会を、一緒に作っていきましょう。(2024年9月4日毎日小学生新聞より)