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大阪桐蔭・前田悠伍投手インタビュー
「魔物」も経験 世代最強の3年間

大阪桐蔭の前田悠伍投手(18)は、2023年のプロ野球・ドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスから1位指名された。2年時のセンバツで優勝し、昨年はU18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)で侍ジャパンU18代表(高校日本代表)のエースとして、日本初の世界一に貢献した。「世代最強」と呼ばれた左腕に、高校時代を語ってもらった。(センバツ2024 第96回選抜高校野球大会公式ガイドブックより)

 一番緊張したのは甲子園で初めて投げた時

――全国から精鋭が集う大阪桐蔭に入学しました。

 大阪桐蔭を意識したのは、自分が7歳の時です。エースの藤浪晋太郎さんを擁して、甲子園で優勝したのを見て「かっこいいな」と思ったのが最初でした。憧れを持っていた中で、中学のチームの「湖北ボーイズ」(滋賀)の先輩である横川凱さん(巨人)が大阪桐蔭に進学され、「自分も追いたいというか、もう桐蔭しかないな」と思いましたね。

前田悠伍(まえだ・ゆうご)
2005年8月4日生まれ。滋賀県長浜市出身。小学2年で野球を始め、6年時にオリックス・バッファローズジュニアに選出。中学は「湖北ボーイズ」でプレー。大阪桐蔭では甲子園大会に3季連続出場し、2年春に優勝、2年夏は8強、3年春は4強。最速148キロを誇り、チェンジアップやツーシームも持ち味。ドラフト1位でソフトバンクに入団。身長180センチ、体重80キロ。左投げ左打ち

――入学してからの印象はどうでしたか。

 同級生は先輩たちを見て「すごい」とか言っていたけれど、自分はそうは思いませんでした。中学生の体と高校3年生の体では差があったので、その違いは素直にすごいと思ったんですが、技術的なことに関しては、「追いつけないレベルではない」と感じました。フィジカルの差が埋まれば「絶対にいける」と自信がありましたね。

 紅白戦では3年生だった池田陵真さん(オリックス)にいつも打たれたんですが、自分に腹が立つというか、打たれるからどうやって抑えようとか、逆に楽しくなっちゃうというか――。「次は抑えたる」とかポジティブな気持ちが強かったですね。

――秋に公式戦デビュー。チームを明治神宮大会優勝に導き、背番号「」ではないものの、事実上のエースとなりました。

 入学してから夏までの気持ちを全部発散するというか、ぶつけていました。ベンチスタートなら「はよ投げさせてくれ」みたいな感じです。正直に言うと、当時はチームのことは考えていなかったですね。自分の存在を早く知らしめたい、名前を売りたい、自分が抑えたいという気持ちが強かった。結果的にチームを勝たせることができたのでよかったですが、あの時は青かったですね。

――勢いそのままに、翌春に甲子園大会デビューし、センバツ大会を制しました。

 今まで一番緊張したと言えば、甲子園大会で初めて投げた準々決勝の市和歌山戦(先発して六回無失点)ですね。甲子園のマウンドからはどんな景色が広がっているのかを知らなかったですし、いろいろ想像していたので。でも、本番は投げやすくてあっという間に終わりましたね。自然と力が出た感じでした。

 ずっと夢見ていた日本一を達成できて本当にうれしかったですが、次の日から春夏連覇に向けて、気持ちは切り替わっていました。日本一になって、ドラフト1位という目標もありました。浮かれることはありませんでしたね。

 泣き崩れた2年の夏…精神的に成長

――2年夏は甲子園の「魔物」を体験しました。準々決勝の下関国際(山口)戦に救援登板したものの、リードを守り切れずに逆転負けしました。

 元々は投げない予定でした。でも、準備はしていたし、自分が行ってやるという気持ちはありました。(五回途中から登板し)普通にバットに当てられたので、嫌な感じがするなと思っていましたね。

 相手の応援も段々と大きくなる中、1点リードの九回のマウンドへ向かう直前だったと思います。先輩から「相手の応援を自分のものやと思って楽しんでこい」と励まされました。それに、自分は「当たり前やろ」と言い返したはずです。あの時は「オラオラ」していたので、「打ってみろや」という感じでしたから。

 ただ、先頭打者に安打を打たれると、めっちゃスタンドが盛り上がって……。連打されて、バントでピンチが拡大すると、本当にやばいと思いました。いつもと球場の空気が違って「なんかおかしい」という感じになり、ちょっと今の状況に訳が分からなくなって……。その後、逆転タイムリーを打たれたのですが、スコアボートを見て「あれ? 負けてる」と気づきました。頭が真っ白になりました。言葉で表現するのが難しいのですが、今までにない感覚を味わいました。

――試合後は自力で立てないほど、泣き崩れていました。

 試合後のインタビューは本当に記憶にないですね。グラウンドから引き揚げる時の記憶もあんまりないんです。グラウンドに礼をした後、自力で立てないので先輩に肩を組んでもらっていたと思うのですが、歩いている感覚がなかったというか。人生で一番泣きました。ちょっとやばかったですね。

 正気に戻ったのは帰りのバスです。先輩から「悲しむなや。来年あるんや」みたいなことを言われて、ちょっとずつ、切り替えて頑張ろうか、という気持ちにはなりましたね。先輩たちが好きだったんで、もっと一緒にやりたかったなっていう気持ちと、自分が先輩の夏を終わらせてしまったという二つの後悔がありましたね。

――秋の明治神宮大会を2連覇しました。ただ、自らの投球内容に不満を感じていたようでした。

 夏に負けた悔しさもあって、調子を崩して、フォームも分からなくなった時期がありました。しかし、国体で先輩の松尾汐恩さん(DeNA)とバッテリーを組むのも最後のチャンスだし、取り戻すしかないと決意しました。すると、気持ちも投球フォームも復活しました。

 でも、「ここから」という時だった秋の大阪大会の決勝の履正社戦で脇腹を痛めてしまいました。あの時は(調子が)一度上がったのに、また、下がってしんどかったですね。

 明治神宮大会も優勝でき、チームの結果としてはうれしかったですが、個人としては本調子にほど遠くて、満足いく投球ができなくて「イライラ」していました。ツーシームでごまかしたり……。

 でも、今は悪い中でどれだけ抑えられるかというのがエースかなと思っています。「悪いなりのベスト」という言葉を大事にしているんです。80%の力がずっと出せるわけじゃない。50%の力しか出せないなら、50%の力をしっかり出せるように頑張るというか。そう切り替えられれば、調子が悪いと思わなくなるので、そういった感じでやっていましたね。

神宮球場で=2011年11月25日

――翌春のセンバツ大会でも「魔物」がいました。準決勝の報徳学園(兵庫)戦の終盤に救援し、逆転を許しました。チームとして2回目の「春連覇」の夢が絶たれました。

 最大5点のリードがあったのに、ミスも出て自分たちの隙が出て負けました。悔しさはなかったですね。チームとしても個人としても未熟で、実力不足を感じました。技術的には力んで球が走らないし、変化球も落ち幅が少なくなっていたので、まだ納得いく投球ができなかったです。

 一方で、メンタル的には成長していたのかもしれません。2年夏を経験していたので、パニックになることもなかったです。相手の応援も特に気にならなかったので。

――最後の夏は大阪大会決勝で履正社に0-3で敗れ、甲子園大会出場はなりませんでした。

 実は試合前から変だと感じていました。準決勝の箕面学園戦で苦戦しながらもサヨナラ勝ちし、やり切ったというか、安心してしまった空気感がチーム内にありました。みんなの気持ちが途切れてしまっていて、決勝の前も緊張感がなかったんです。

 最後は甲子園でセンバツの借りを返したいという気持ちと、個人としてはアピールするチャンスだと思っていました。それがかなわなくなり、悔しい気持ちもありましたが、冷静に次に向けてという思いの両方の感情があったので複雑でした。

――ドラフト会議ではいわゆる「外れ1位」で3球団競合の末、ソフトバンクが交渉権を獲得しました。最初は名前を呼ばれても笑顔がありませんでしたね。

 ドキドキしていて、単独1位か外れ1位であればいいなと思っていました。3球団に指名いただいて素直にうれしかったです。

 笑顔については、笑ってしまうと「この球団には行きたくなかったのか」とか、見ている人に思われるのではと考えました。あんまり感情を出さない方がいい印象かなと思ったのです。外れ1位という評価ではあるので、まだまだだなと思って、これからプロでどれだけやれるかということも考えていました。

――プロでの目標は。

 まずは1軍定着を目標としています。将来的にはもう一度、トップチームの侍ジャパンに入るような選手になりたい。同じ左腕の和田毅投手(ソフトバンク)のように、球にキレがあって三振も奪える、長年活躍できる息の長いピッチャーになるのも目標です。

 長年活躍することができれば、(次の目標として)200勝投手を掲げて頑張りたいです。今のところはメジャーリーグ挑戦は考えていませんが、日本でしっかり活躍できるようになってからですね。

――「世代最強左腕」などと呼ばれ、勝って「当たり前」と周囲に受け止められるような名門のエースとして重圧を背負ってきました。改めて高校時代の経験は今後にどうつながっていくでしょうか。

 対戦相手はヒット1本でも、ちょっとしたことでも、盛り上がったりする。ちょっとやりづらい面もあったんですが、そんな中で勝っていかないと上の舞台では通用しないと考えてきました。周囲から注目されるのはうれしい半面、その分「負けたらダメ」という強い気持ちもありました。

 高校時代はいい思いもたくさんしてきましたが、それ以上に悔しい思いをした経験の方が多かったかもしれません。調子が悪くて、うまくいかない時も多かったです。でも、今思えば本当にいい高校生活だったなと思うんです。やっぱりこの経験というのは、簡単にできることじゃない。周囲よりも(多くの)大舞台を経験することができました。次のステージに向けて、本当にプラスになると思うので、これを生かしていきたいです。

(取材/構成・長宗拓弥)

「200勝投手」の目標と自身のサインを書いた色紙を手にする大阪桐蔭の前田悠伍投手=大阪府大東市で2023年12月13日

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