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国産ウイスキー100年【ニュース知りたいんジャー】

日本で本格的なウイスキーの製造が始まってから、来年で100年を迎えます。今や世界5大ウイスキーの一つとなっているジャパニーズウイスキー。今年、日本初の麦芽だけを原料としたモルトウイスキー蒸留所として100周年を迎えた、サントリーの山崎蒸留所(大阪府島本町)の藤井敬久工場長に、ウイスキーの歴史などについて聞いてみたんジャー。【長尾真希子】


 ◇ウイスキーって?


 ウイスキーとは、たるの中で長い年月をかけて熟成した、こはく色の蒸留酒のことです。発祥は、イギリス北部のアイルランドともスコットランドともいわれており、よくわかっていません。
 ウイスキーの一般的なつくり方は、まず、大麦麦芽やトウモロコシなどの中にあるでんぷんを糖類に変えます。それらを発酵させた後、蒸留をします。蒸留とは、液体を熱してできた蒸気を、冷やして再び液体にすることで、余分な成分を取り除く作業です。こうしてできた液体を、木製のたるにつめて貯蔵・熟成させます。蒸留されたばかりの原酒は無色透明ですが、たるの中で熟成されるうちに、こはく色へ変化し、香りもつくられます。
 「熟成年数は、最短で3年。20~30年と寝かせるものや、最長で50~60年ものもあります」と藤井さん。ウイスキーが完成するまでの「長い道のり」を教えてくれました。


 ◇国産の歴史が知りたい

 現在のサントリーの創業者である鳥井信治郎が、1923年に「日本人の味覚に合った国産ウイスキーをつくりたい」と山崎蒸留所の建設に着手しました。イギリス北部のスコットランドで蒸留技術を学んだ、NHKの朝ドラマ「マッサン」のモデルにもなった竹鶴政孝(のちのニッカウヰスキー創業者)を初代工場長に迎え、24年にウイスキーづくりを開始。29年に本格的な国産第1号となる「白札」を発売しました。しかし、「『煙臭い』と評価され、散々な結果に終わりました」と藤井さんは話します。


 失敗を教訓に、不屈の「やってみなはれ」精神を持って信治郎が37年に世へ送り出し、大ヒットしたのが「角瓶」です。その後、高品質・低価格な商品なども発売され、戦後の経済成長期の波に乗って、消費量は右肩上がりに伸びました。しかし、83年をピークに、長い「冬の時代」に入ります。「焼酎ブーム」がやって来たのです。
 その後、赤ワインや日本酒もブームが到来し、ウイスキーは長い低迷期に入ります。しかし2008年ごろから、炭酸で割ったハイボール人気を追い風に少しずつ回復。今では、国際的な品評会での受賞を重ねて、海外での人気も高まっています。


 ◇蒸留所の場所を選んだ理由は?


 「ウイスキーづくりには、おいしい水が欠かせません」と藤井さんは強調します。山崎蒸留所は、大阪府で唯一、環境省の「日本の名水100選」に選ばれている「離宮の水」として名高い場所の近くにあります。また、桂川、宇治川、木津川の三つの川が合流して淀川になる地点にあたり、濃い霧が立ち込めやすい湿潤な土地柄がウイスキーの熟成にふさわしい環境だったといいます。
 ウイスキーは、たるの木の目を通して「呼吸」しています。貯蔵庫は温度管理などはしていないため、特に暑い夏には、たるの中の原酒が木材から蒸発して減ってしまう現象があります。藤井さんによると、これは「天使の分け前」と呼ばれています。「昔の職人たちは、天使がこっそり飲んでいたに違いないと思っていたそうです」


 ◇たるで味が変わるの?


 山崎蒸留所が一般見学ツアーで公開している熟成貯蔵庫には、ウイスキーの原酒が入った約2000のたるが保管されています。貯蔵庫には、材質や大きさの違うたるがずらりと並べられています。
 「多様なたるを使い分けて、多彩な原酒のつくり分けをしています。使用するたるによって違った個性を持った原酒ができ上がるので、たるが果たす役割はとても重要です。これらの原酒をブレンドすることで、お店で並んでいるウイスキーができ上がります。また、たるは繰り返し熟成に使われています」と藤井さんは話します。
 たるに使う木材はとても丈夫で貴重なもので、木が育つのに100~200年ほどかかるそうです。そのため、蒸留所で役目を終えたたるを、家具やインテリア用品に再利用しています。「私の家の一部も、リサイクルしたたるの木材を使って建てました」と藤井さんは笑顔を見せました。


 ◇お菓子や料理にも使われているよね?


 確かに、ウイスキーが入ったチョコレート「ウイスキーボンボン」やケーキ、貝や魚の料理の仕上げに使うなど、飲む以外にさまざまな用途で使われています。
 ただ、知っていると思いますが、20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。ウイスキーが使われた食べ物などは法律では禁止されていませんが、毎日小学生新聞編集部としては、食べ物であっても、お酒の味が分かるようなものは未成年にはおすすめしません。
 子どもたちに向けて、藤井さんは、こう提案してくれました。「ウイスキーは人生に似ています。長い年月のかかるウイスキーの熟成は、人間の成長と同じ。小学生のみなさんには、大人になるまで待って、20歳になった時に自分の生まれた年のウイスキーを探すことを楽しみにするなど、ロマンを感じてもらいたいですね」(2023年12月06日毎日小学生新聞より)