2016年にプロの将棋棋士になってから、数々の記録を更新してきた藤井聡太名人が、21歳という若さで史上初の8冠全冠制覇を達成しました。「藤井1強時代」とも称される、そのすごさと歩みを、知りたいんジャーと振り返ってみましょう。【長尾真希子、田村彰子】
◇全てのタイトルを制覇した人は?
これまで3人の棋士が、当時あったタイトルを制覇しています。
1人目は、升田幸三実力制第四代名人で、1957年に当時の名人、王将、九段(その後)十段、現竜王)の3冠を達成しました。2人目は、大山康晴十五世名人です。それぞれ当時の3冠、4冠、5冠(名人・王将・十段・王位・棋聖)を制覇しています。
3人目は羽生善治九段で、96年2月に当時叡王以外の七つあったタイトルを全て獲得し、7冠を達成しました。しかし羽生さんは、同じ年の棋聖戦で三浦弘行九段(49)=当時22歳、五段=に敗れ、完全制覇は5か月あまりで崩れています。その後も同世代や下の世代が力を付け、羽生さんが7冠に返り咲くことはありませんでした。圧倒的に強くても、タイトルを守り続けるのはそれだけ難しいといえます。
◇タイトルはいくつあるの?
現在、将棋のタイトル戦は八つあります。そのうち格が高いのは名人と、賞金の額が一番高い竜王です。ほかは王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖と、賞金の多い順に格付けされています。一番新しいのは2015年にできた叡王です。
タイトルを、ある回数獲得すると、原則として引退後に永世タイトルを名乗ることができます。それぞれに必要な回数は▽名人と棋聖、叡王が通算5期▽王将が通算10期▽竜王が連続5期か通算7期▽王位と王座が連続5期か通算10期▽棋王が連続5期――です。2017年に羽生さんが史上初の永世7冠になりました。
◇将棋ファンも増えた?
11日に京都市であった第71期王座戦五番勝負の第4局の大盤解説会には、歴史的瞬間を一目見ようと、全国から約180人が参加しました。集まった人たちは、スマートフォンで中継を見ながら、熱戦を見守りました。また、藤井さんらが書いた色紙の抽選会のほか、対局後には両対局者のあいさつもあり、参加者は大喜びでした。
大盤解説会は、大きい将棋盤と駒を使ってプロ棋士が戦況を解説したり、次の指し手を予測したりして、見どころを楽しく紹介してくれるイベントです。タイトル戦などで開催され、事前に申し込み、当選すれば有料で参加できます。藤井さんが対局している時の大盤解説会は大人気で、女性ファンも増えました。
◇これまでの藤井さんの歩みって
愛知県瀬戸市出身の藤井さんは、5歳の時に将棋を始めました。16年10月、史上最年少の14歳2か月で四段になり、史上5人目の中学生プロ棋士になりました。
プロデビューしてからも勝ち続け、17年6月に29連勝を達成。30年ぶりに連勝記録を塗り替えて話題となりました。20年7月に初タイトルの棋聖を獲得。同じ年に王位も奪い取ります。その後も勢いは止まらず、21年に叡王と竜王になり4冠、22年には王将を奪って5冠になりました。
今年は棋王と名人を獲得して史上最年少名人になり、初登場以来18回のタイトル戦を全て制しています。羽生さんが「最初からずっとタイトルを一度も失わないのは、とんでもないこと」と舌を巻くほどです。
◇どうしてこんなに強いの?
幼いころから詰め将棋に没頭し、デビュー前から人工知能(AI)を搭載した将棋ソフトも使って勉強している藤井さん。デビュー当初から「AIの評価値(その場の優劣を数値化したもの)に自分の感覚を合わせていきたい」と言ってきました。藤井さんの将棋を読む力は、「速い、深い、正確」です。時には「AI超え」と言われる一手も指し、周囲をあっといわせてきました。
加えて、大の負けず嫌いとしても知られています。「(プロ入り前の)奨励会時代やプロデビューの直後は、対局中でもミスをすると、ひざをたたいて悔しがっていました」と関係者は話します。今でも劣勢になると、がっくりうなだれる姿がみられます。谷川浩司十七世名人(61)は「現時点では藤井名人にタイトル戦で勝てる候補は見当たらない」と言います。しかし、AIの活用をはじめ強くなる環境が整ってきており、今後も将棋界から目が離せません。(2023年10月25日毎日小学生新聞より)