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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

福島第1原発 処理水の海洋放出って?【ニュース知りたいんジャー】

東京電力福島第1原子力発電所(福島第1原発)でたまり続ける「処理水」を海に流す「海洋放出」が、8月24日に始まりました。どんな水で、安全性は大丈夫なのでしょうか。【山田大輔】

◇福島の事故って……

 福島第1原発は、太平洋に面した福島県大熊町と双葉町にまたがり、原子炉6基(1~6号機)がある国内で2番目に大きな原発でした。2011年3月11日の東日本大震災の時、1~3号機は運転(発電)中で、4~6号機は検査で止まっていました。
 原発は異常が起きても、原子炉を「止める」「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」の三つが守られるよう設計されています。1~3号機は、揺れで運転が自動的に止まりました。しかし、約50分後に津波に襲われて非常用の電源がだめになり、原子炉を冷やせなくなりました。1、3、4号機は1~4日後、冷やせなくなったために核燃料から出たガスで建物が爆発、2号機も原子炉が壊れて、大量の放射性物質(放射能)をまき散らしました。
 世界の基準で「レベル7」という最も深刻な事故となり、12年たった今も放射能汚染のため、国が7市町村の一部を「帰還困難区域」として立ち入りを禁じています。

◇汚染水とは?

 原発は、核燃料の中の放射性物質が別の物質に変わる時にできる熱で水を沸かし、その蒸気でタービンを回して発電します。火力発電所がボイラーで燃料を燃やして蒸気を作り、タービンを回すのと似ていますが、ボイラーにあたる原子炉は放射線が外に出ないよう、厚い金属容器などで密封されていて、非常に複雑な造りです。
 福島の事故では、電源が切れた1~3号機の原子炉に水を入れて冷やそうとしましたが、なかなか水が入らず、核燃料が熱で溶けて、原子炉が壊れました(炉心溶融=メルトダウンといいます)。そこに地下水や雨水が入り込んで原子炉などの水と混じり、核燃料から出るいろいろな放射性物質を含んだ水になっています。これが汚染水です。地下水をくみ上げたり、周りの土を凍らせて地下に壁(凍土壁)を造ったりして、汚染水を減らそうとしていますが、今も溶けた核燃料(デブリ)を冷やす目的で大量の水を入れていて、汚染水は1日90㌧ずつ生じています。

◇処理水はどう違うの?

 汚染水は危険なので、7種類の装置で放射性物質を取り除いています。水を最後に通す「アルプス(多核種除去設備)」では、特殊なフィルターなどで62種類の放射性物質を吸い取り、国の基準未満まで減らします。これが処理水です。
 しかし、水素の一種「トリチウム(三重水素)」という放射性物質を含む水は、普通の水と似た性質なので取り除くことが難しく、処理水の中に残ったままです。このため、処理水はタンクで保管されてきました。
 タンクは1000基以上あり、約137万㌧(学校のプール4500杯以上)の水が入りますが、すでに98%が使用中で、来年2~6月に満杯になる見通しです。このうち、アルプスで処理を終えた本当の処理水は3割の約40万㌧。残る7割は、処理の途中で、基準の最大2万倍近い濃度の放射性物質を含む「処理途上水」などです。

◇海に流して大丈夫?

 東京電力は、トリチウムの濃度が国の基準の40分の1(1㍑あたり1500ベクレル)未満になるよう、処理水を大量の海水で薄めてから海に流し始めています。世界保健機関(WHO)の飲み水の基準(同1万ベクレル)よりずっと低い濃度です。1年間に流すトリチウムの量は22兆ベクレル未満にします。
 トリチウムは雨水にも含まれるほか、運転中の原発も出しています。環境省によると、事故前に国内の全原発から出たトリチウムは年間約380兆ベクレル。福島のタンクのトリチウムを約2年半ですべて流し切る量です。専門の学会によると、トリチウムを含む水は体に入っても10日程度で尿などとして出てくるといいます。5~6%は体に取り込まれますが、これも40日~1年ほどで半分に減るそうです。
 原発の普通の排水と、溶けた核燃料で汚染された後の処理水は同じではありませんが、国の原子力規制委員会は昨年7月に計画を認め、国際原子力機関(IAEA)も安全だと確認しました。

◇でも影響が心配だよ

 海洋放出は政府が6年以上かけて検討し、2021年に方針を決めました。しかし、実際に放出が始まると、中国は水産物の輸入を禁止し、ほかの日本製品を買わない運動も広がりました。また地元漁業者が反対する中で放出が始まり、漁業者らが放出の差し止めを求める裁判を起こしました。国の対策が不十分だったといえます。汚染水が海に漏れた時に長く発表しなかったなど、東京電力のこれまでの行いも不信感を招いています。
 トリチウムは放っておけば約12年で半分に減るので、タンクを増やして保管すればいいとの意見もあります。またアメリカのスリーマイル島原発事故(1979年)では、飲み水を取る川への放出に住民が反対し、処理水を蒸発させる計画に変えました。しかし、福島では、短期間で安く済むとして海洋放出が選ばれました。放出は30~40年続く見通しですが、一方で、そもそも汚染水の発生をゼロにするめどが立っていません。壊れた原子炉や核燃料、アルプスのフィルターなど、放射性物質を大量に含んだごみをどうするかも未定です。

(2023年09月20日毎日小学生新聞より)