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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

藤井聡太七冠もフル活用! 将棋界に押し寄せるAIの波

将棋の雑誌や書籍を発行しているマイナビ出版から、将棋にまつわるお話を伺うこのコーナー。今回は将棋とAI(人工知能)の関係について。ChatGPTをはじめ、進化著しいAIの技術は棋士たちにどう生かされているのでしょうか?(提供・マイナビ出版)

 藤井聡太七冠の活躍で近年大きな盛り上がりを見せている将棋。将棋は400年以上の歴史を持つ日本の伝統文化の一つで、使用する道具も木でできた駒と将棋盤のみです。しかしそんな将棋の研究に最新のAIが使われていることをご存じでしょうか?

研究の主流は「人間同士」から「AI」へ

 将棋は81マスの将棋盤の上で40枚の駒をお互いが自由に動かす、とても複雑なゲームですが、ジャンルとしては「二人ふたり零和ゼロわ有限確定ゆうげんかくてい完全情報かんぜんじょうほうゲーム」に分類されます。これは理論上は、すべてのパターンを計算し尽くすことができ、先手必勝、後手必勝、引き分けのどれかになるゲームです。

 将棋の場合、その変化の数は10の220乗と言われており、人間の脳ではとても計算し尽くせるものではありません。しかし、これがAIの力を使うとどうでしょうか?

 まだ完全解明には至っていませんが、AIは1秒間で何億通りものパターンを計算できるため、現在人間のトップ棋士よりAIの方がはるかに強いという状況になっています。20年前はAIは棋士の足元にも及ばない実力でしたが、コンピュータのハード・ソフトの進化に伴って、一気に人間を抜き去ったのです。

 こうした変化に伴って、将棋のプロ棋士の研究の方法も劇的に変わりました。これまでは自分一人で戦法の変化を考えたり、人が指した将棋を並べたり、VSと言われる人間同士の対局によって実力を養うことが主流でした。しかし、今ではAIを使った研究がかなりの割合を占めるようになりました。

 難しい局面での指し方や、序盤のいろいろな形の評価(どちらがどれくらい有利か)をAIで調べるようになりました。特に藤井聡太七冠をはじめとするトップ棋士たちは毎日何時間も高性能のAIを使って研究していると言われています。

将棋ソフト「やねうら王」の検討画面。ある局面における候補手とそれぞれの評価値が表示される(写真提供・マイナビ出版)

藤井七冠の実力を支える「翻訳の力」

 では、将棋で勝つにはAIの推奨する手をひたすら暗記すればいいのかと思うかもしれませんが、そうでもないのが面白いところです。

 先ほども述べたように将棋の変化量は膨大であるため、人間がそのすべてを覚えることは不可能です。よって、1局将棋を指すと必ず未知の局面が盤上に現れることになります。その未知の局面からAIに頼らずに勝ち切る力がなければいけないのです。

 もちろん、AIの推奨する手をたくさん覚えれば、有利な局面に持っていきやすくなります。しかし、せっかく優勢になってもそこから逆転されてしまっては努力が水の泡になってしまいます。

 そこで必要になってくるのが「AIの評価を人間の言葉に翻訳する力」です。AIの評価が高い局面があったとして、「なぜAIはその局面を高く評価しているか」を考えます。それを人間の言葉で説明することができれば、そこから先にどうやって指していくかを選ぶための指針ができるのです。

 例えば、ある局面において「飛車(将棋で一番強い駒)の動けるマスが多いから評価が高いのだろう」と考えることができれば、その後も飛車の可動域を重視しながら指していけばいい、という具合です。

 AIは評価の数値を示すだけで、なぜそのような数値になるのかという理由を説明してくれないので大変な作業ですが、有利な局面から自分の力で勝つためにはこれが必要なのです。AIから人間にバトンタッチするようなイメージでしょうか。

 藤井七冠はデビュー当時から、この「AIの評価を人間の言葉に翻訳する力」の重要性を説いており、おそらく棋士の中でも誰よりも早く課題として取り組んできました。AIの推奨する手を数多く覚えながら、同時にそれを人間の言葉にする作業も続けてきたのです。そのことが藤井七冠の強さを支えています。

 現在、さまざまな分野においてAIが進出していますが、将棋界の現状は「AIを鵜呑みにしてはいけない」という教訓を示しているようにも感じます。最後は人間の頭で考えなければ、着地できないのです。藤井七冠の活躍の裏に、人間がAIとどのように付き合っていけばいいか、そのヒントが隠されているのかもしれません。

(提供・マイナビ出版)

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駒の動かし方からはじまり、「まずは大駒を働かせよう」「攻める前に玉を囲う」など、藤井先生のアドバイスを交えながら、将棋の指し方をやさしくわかりやすいように解説しています。また、「僕のいちばん好きな駒」や「いちばんの上達法」など、随所に藤井先生のコラムを掲載しました。小学校の高学年で習う漢字にはルビをふってありますので、子どもでも十分読めるようになっています。親子で将棋を指してみるのも、いいかもしれませんね。
これを機に、あなたも将棋を始めてみませんか?

著者プロフィール

藤井聡太(ふじい・そうた)

2002年7月19日生まれ、愛知県出身。将棋のプロ棋士。
2016年に史上最年少でプロ入りすると、デビューから負けなしで最多連勝記録を更新する29連勝を達成。2020年に初タイトルの棋聖を奪取すると、その後も次々にタイトルを獲得。2023年6月には名人を獲得して羽生善治九段以来の七冠を達成した。全タイトル制覇となる八冠にあと1つと迫っており、大きな注目が集まっている。

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