【ニュースがわかる2024年6月号】巻頭特集は地震大国ニッポン 被害を減らすために

おばけや幽霊はいますか?【教えてお坊さん】

しばられ地蔵で有名な東京都葛飾区の業平山南蔵院副住職で、臨床心理士でもある日吉円順さんに素朴な疑問をぶつける【教えてお坊さん】。今回は「おばけ・幽霊」について話を聞きました。

 これに関しては、「いる!とも、いない!とも言いきれない」という考えに至るかもしれません。こう答えると、回答から逃げているようでつまらないかもしれませんが、このような事を仏教では「無記(むき)」ともいいます。これは、お釈迦様が問答(もんどう)に対して「はっきりとは言い切れない」と答えたことに端を発します。

 さて、俳優の西田敏行さんが落ち武者の幽霊役を好演した映画「ステキな金縛り」(三谷幸喜作)にもありましたが、通常おばけや幽霊は肉眼に見えませんよね。霊感の強い人によると、何かのきっかけで感じたりするものかもしれませんが、多くの人は何も感じることができません。というより、気づく力を封印しているとでもいいましょうか。もし突然皆におばけが見えたり、感じることができたらそれこそ街はパニックになるでしょうね。大抵の人は、おばけや幽霊は「無いもの」として自らを信じこませて生活しているのです。

 ・・・かといって、肉眼に見えないからといって「全く存在しない」とも言い切れません。実際に世の中には、天文学的に低い確率の信じられないような出来事が起きていますし、時に見えないご縁が結ばれたり、ミエナイチカラが働いているとしか思えないような奇跡的な出来事もあります。そしてそのような出来事に、これまで私たちは幾度となく心を動かされてきました。あり得ない事が起こるのは何故でしょう?

 子どもは2、3歳になると、1を学び、2を学びます。1~10まで数えられるようになると、11~20を学ぼうとするでしょう。0から数を教える親御さんはほぼいません。0の概念を学ぶのは小学校3年生以降でしょうか。因みに0の概念がいつどこで生まれたかご存知ですか?諸説ありますが、偶然にもお釈迦様が産まれたアジアの地、インドで7世紀頃に発見されたといわれます。これは、仏教でいうところの「空」の概念ともいえるでしょう。「そら」ではありません。「くう」です。正しくは「(くう)(がん)」といいます。反対に目に見える実体のことを「(しき)」といいます。つまり、我々は、小さい頃からある種西洋的な、眼に見えて数えられる「色」の世界から物事を教わっているということなのです。

 0と1の間には無限の世界が広がっています。それを「有るor無い」、「1or0」で切り分けるのはあまりに強引な感を受けざるを得ません。理系、研究者の方ならご存知と思いますが、統計に()無仮説(むかせつ)という概念があります。とある実験をして、「世の中にはおばけはいません!」という仮説を証明する為には、「世の中にはおばけはいます!」という否定説(帰無仮説)を完全に打ち消さないと新しい発見とはいえないのです。実際現場では、否定説が起きる可能性が3%くらいだったらダメだね、0.1%なら大体OKだね、とこんな形で研究は進んでいくものです。ただ、それが絶対、普遍的なものかというとそうではなく、我々が作ったルールに則って価値判断をしているということになります。世の中はこのようなもので満ち溢れています。すべてに、有るor無い、白or黒をつけられれば良いのですが、実際ふたを開けるとそうではないグレイゾーンばかり。その中でも社会人になれば、ある程度自らの信念にのっとって分別(ふんべつ)をつけて行動し、自らを納得させているのではないでしょうか。つまり、実体を伴うものは永遠ではなく、変化するもの(諸行(しょぎょう)無常(むじょう))であり、実体を伴わなくなったからといって消滅するものではない。これを「色即是空(しきそくぜくう) 空即是色(くうそくぜしき)」といいます。

 話が逸れてしまいました。まとめると、「おばけや幽霊がいるか?」そう、つまりはその答えを持っているのは、自分自身の心なのです。実体を伴う世界、伴わない世界、どちらにでも開かれた心持ちで目の前の出来事をみつめられたら、多くのことに気づき、感じられる感性が磨かれて心の余裕が持てるのではないか、と思います。仮に不思議な出来事に遭遇しても大らかにな態度できっと自分らしく前向きにふるまえるのではないでしょうか。

 

【話を聞いたひと】日吉円順(ひよし・えんじゅん)さん

 天台宗業平山南蔵院副住職。臨床心理士・公認心理師。教誨師。大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院緩和ケア科をはじめ都内近郊の総合病院にて臨床勤務した経験を活かし、がん患者さんの心のケア、認知症高齢者のケア、瞑想法の研究実践、受刑者への教誨活動、葬儀、グリーフケアなど多様な臨床活動を行っている。 近年は、地域社会の人々がお寺をとおして繋がりや絆を再発見できる、専門家による相談サロン「まどかプロジェクト-madocaproject-」を立ち上げ、地域活動の場を広げている。

円順さんが勤めている南蔵院について詳しく知りたい人はhttp://shibararejizo.or.jp/index.htmlまで