2011年3月11日、東日本大震災が起きました。宮城県栗原市で最大震度7の激しい揺れを記録し、北海道、東北地方から関東地方までの太平洋沿岸を巨大な津波が襲いました。死者1万5900人、行方不明者2523人(22年2月末、警察庁まとめ)の大惨事でした。さらに、地震や津波では助かったのに、その後の避難生活で体調を崩して亡くなるなど「震災関連死」と認定された人が他に3789人もいます。震災関連死とは何で、どうすれば防げるのでしょうか。【真田祐里】
◇震災関連死って?
地震による建物の倒壊や津波など、直接の被害で亡くなるのではなく、避難生活による体調の悪化などで亡くなることです。持病が悪くなったり、ストレスが影響したりする場合もあります。
国の役所の復興庁によると、東日本大震災では2022年3月末までに、10都県で3789人が認定されました。年齢別でみると、約9割が66歳以上のお年寄りでした。認定された人の亡くなった時期は、地震発生から1週間以内が472人▽1週間後から1か月以内が746人▽1か月後から3か月以内が685人。7割以上の人が1年以内に亡くなりましたが、3割近い人は1年以上たってから亡くなっています。
◇何が原因なの?
東日本大震災では、約47万人が避難所に身を寄せました。避難所は人であふれ、プライバシーを保つ仕切りもなく、床に段ボールを敷いて寝るところもありました。朝晩の冷え込みは厳しく、眠れない夜を過ごしながら、日中は家族の捜索や壊れた家の片付けに心をくだく人も多く、そうした生活を半年以上続けた人もいます。
復興庁の検討会が12年、東日本大震災の関連死1263人について行った調査では、最も多かった原因が「避難所などでの生活による身体的、精神的な疲労」でした。ほかに、人手不足や停電などで適切な治療や介護を受けられなかった▽救助活動や復旧作業による過労▽断水でトイレを心配して水分を控えるうちに体調を崩した--といった人もいました。
16年4月の熊本地震では、直接の被害で亡くなった人の4倍もの震災関連死がありました。この時は最大震度7の地震が2度あり、避難所が壊れ、余震を恐れてたくさんの人がマイカーの中で寝起きする「車中泊」をしました。狭い場所に長く同じ姿勢でいたため、血行が悪くなって血液の中に血の塊ができ、血管が詰まる病気「エコノミークラス症候群」が起き、それで亡くなる人が相次ぎました。
◇東日本大震災の関連死は今もあるの?
震災関連死は遺族からの申請を受け、医師や弁護士らが審査して自治体が認定します。認められると遺族に最大500万円が支給されます。復興庁によると、東日本大震災では21年度、新たに15人が認定されました。うち14人が福島県民でした。同県では、東京電力福島第1原子力発電所の事故で避難生活が長くなるなどして、1年以上たって関連死した人が多く、新たな申請が今も続いています。同県民の関連死は2333人と、全体の6割以上を占めます。避難先を求めて何度も引っ越したり、家族が離ればなれになったり、いつまで故郷に帰れないのか分からず苦しんだりする生活が長く続くことで、心身を損ねたとみられます。
ある福島県の男性は、原発事故の後、何時間もかけて親戚の避難先へ通ったり、各地に散らばった仕事相手を訪ねたりと、生活が一変しました。そしてローンで建てた自宅の補修を始めた直後、道路の工事で立ち退きを求められました。ショックでたばこの量が増え、14年9月に55歳で急性心筋梗塞のため亡くなりました。関連死と認定され、妻は「夫は頑張り屋で、疲れた様子は見せなかったけれど、ストレスがたまっていたと思う」と話しました。
年月がたつにつれ、震災との関係がはっきりしにくくなり、関連死の認定率は下がっています。病院のカルテなど必要な資料を集めることが難しく、申請を諦める遺族もいるといいます。
◇どうやって防ぐの?
医師らでつくる「一般社団法人避難所・避難生活学会」は、避難所の環境改善を呼びかけ、特にトイレ、キッチン、ベッドの改善を求めています。トイレが汚かったり、数が少なかったりすると、水分を控えて脱水症状になるなど体調を崩す人が出てきます。また、避難所で配られる食事はおにぎりやパンなど炭水化物が中心で、栄養バランスが偏っていたり、冷たい食事が続いたりします。床に直接寝ると体が冷え、人の出入りも気になってゆっくり眠れません。血の塊ができやすく、エコノミークラス症候群の危険性も高まります。そのため、清潔で誰もが使える水洗トイレッチンカーなどによる温かい料理、簡易ベッドの充実が必要だといいます。
車中泊はできるだけしないよう呼びかけています。どうしても避けられない場合はエコノミークラス症候群などを防ぐため、次のようなことが大事だといいます。
▽トイレを我慢しない
▽水分をこまめに取る
▽定期的に運動する
▽ふくらはぎと足首を適度に圧迫する「着圧ソックス」をはく
▽息苦しさや胸の痛みなどを感じたら医者にかかる
◇海外の避難所は?
東日本大震災を教訓に、13年に災害対策基本法という法律が改正され、市町村は避難所の生活環境を良くする努力を義務づけられました。しかし、海外に比べ日本の避難所は劣っているといいます。
避難所・避難生活学会によると、日本のように地震が多いイタリアでは、災害から48時間以内に、避難所に空調や簡易ベッドのあるテント、トイレ、浴場、食堂、子どもの遊び場などを設けます。避難所には警察が常駐し、臨床心理士が被災者の心のケアをします。食事も充実しています。政府が災害用キッチンカーを持ち、調理師のボランティアが派遣され、パスタや肉料理などの炊き出しをします。時にはワインやビールなども出るそうです。専門家は「避難所はできる限り快適であるべきで、震災関連死はあってはならないという意識が徹底している」と話します。(2023年03月08日毎日小学生新聞より)