アメリカの大リーグ(MLB)や日本のプロ野球などのスター選手を集めた代表チームが世界一を競う「第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」が、3月8日に開幕します。新型コロナウイルスなどの影響で6年ぶりの開催です。日本代表「侍ジャパン」は、3大会ぶりの王座奪還を果たすでしょうか。【上鵜瀬浄】
◇どうして始まったの?
昨年、中東のカタールで開かれたサッカーのワールドカップは、世界中の人々が応援に駆けつけたり、視聴したりして盛り上がりました。一方、野球は人気のある地域が、アメリカ文化の影響を大きく受けた国などに偏っています。歴史があり、技術力の高い選手が集まるMLBでは1990年代後半から、松井秀喜選手や野茂英雄選手、イチロー選手が活躍しました。野球を広くアジアやヨーロッパなどに、さらに普及させたいとの目的から、2006年に第1回大会が開かれました。
ただ、MLB開幕直前の3月開催だったため、当初はMLBの有力選手は出場を見送り、松井選手も出ませんでした。日本代表メンバーでMLBの選手は、第3回がゼロ、第4回が1人と少ない時があり、いずれも優勝を逃しました。その反省から、今大会の日本代表・栗山英樹監督は時間をかけてMLB選手と交渉を重ね、代表30選手のうち、第2回と並んで最多の5人のMLB選手を選びました。
◇どんな国が出場するの?
日本のトップレベルの選手の多くが、活躍するようになるとMLBを目指すように、野球はアメリカを頂点にした競技です。歴史的にもアメリカと縁の深い国や地域で盛んになりました。アジアでは日本、韓国、台湾です。また、アメリカに近い中央・南アメリカの国々でも盛んです。この地域からは多くの大リーガーが誕生しています。第3回大会で優勝したドミニカ共和国や準優勝のプエルトリコ、オリンピックで金メダルが最も多いキューバや、メキシコなどです。
ユニークなのは、ヨーロッパのオランダです。ヤクルトでプロ野球最多の60本塁打を記録したバレンティン選手は、オランダの自治領、カリブ海のキュラソー島出身で、第3、4回大会でオランダ代表に加わりました。今回はこれらを含む20か国・地域が出場します。
◇日本の投手陣は?
栗山さんは、日本ハムの監督時代、現在MLBの大谷翔平選手(エンゼルス)を中心にしたチームで日本一になった経験があります。その栗山さんは、「投手中心に、点を与えず、しっかり守る」という考えを発表しました。真っ先に挙がるのは、MLBのトップ選手です。昨年、右腕として15勝、打者で34本塁打を記録した大谷選手や、大谷選手を上回る16勝を挙げ、プレーオフ(優勝決定戦)にも進んだダルビッシュ有選手(パドレス)が中心です。日本のプロ選手では、史上最年少の20歳で完全試合を達成した佐々木朗希選手(ロッテ)や、セ・パ両リーグで最も優れた投手に与えられる沢村賞など5冠に、史上初めて2年連続で輝いた山本由伸選手(オリックス)ら、各チームのエースが入りました。代表30人の半分、15人を投手が占めます。
◇打者の注目選手は?
昨年日本一になったオリックスの主力として活躍し、今季からMLBでプレーする吉田正尚選手(レッドソックス)をはじめ、国内では、王貞治さんの本塁打記録(55本)を上回る56本塁打を放ち、3冠王に輝いてファンに「村神様」と呼ばれる村上宗隆選手(ヤクルト)、本塁打王を3回獲得している山川穂高選手(西武)、走攻守そろった山田哲人選手(ヤクルト)、岡本和真選手(巨人)らが名を連ねました。栗山さんは「一番結果を残して勝利に貢献している選手」と代表メンバーを評価しています。
そして今回、初めて日系アメリカ人のラーズ・ヌートバー選手(カージナルス)が、日本代表で出場します。お母さんが日本人で、WBCの出場資格があります。栗山さんは「世界がグローバル化し、同じ思いや目的を持った人が結びついていく時代になった」と多様性を重視した考えを明かしました。
◇試合はどこでやるの?
MLBを中心に開く大会なので、決勝戦はアメリカで行われます。出場国や試合方式は各回で異なっています。今回は20か国・地域が出場し、5チームずつ4組に分かれて1次リーグをします。これはアメリカと日本、台湾で行われます。日本は野球人気が高く、今回を含む全大会で試合が行われています。各組の上位2チームは日本とアメリカで戦います。そしてアメリカ・マイアミで17~20日に準々決勝と準決勝、21日に決勝があります。
日本は第1、2回にイチロー選手を中心に2連覇しました。しかしその後はベスト4止まりです。今回は、2連覇を狙うアメリカも大物選手をそろえています。大谷選手のチームメートで、7試合連続本塁打を放った強打者、トラウト選手や、ナショナル・リーグMVP(最優秀選手)のゴールドシュミット選手(カージナルス)がエントリーされています。前々回優勝のドミニカ共和国からは、投手最高の栄誉とされるサイ・ヤング賞を獲得したアルカンタラ選手(マーリンズ)も参加します。大谷選手との競演が楽しみです。(2023年03月01日毎日小学生新聞より)