ロシアが昨年2月にウクライナに攻め入って、間もなく1年になります。戦いの背景や、これまでの流れなどについて、知りたいんジャーが調べました。【長岡平助】
◇ウクライナってどんな国?
ウクライナは東ヨーロッパに位置し、面積は60万3700平方㌔㍍で日本の1・6倍ほどの大きさです。人口は約4346万人です。世界有数の小麦の生産国として知られます。
1917年に起こった「ロシア革命」で、今のロシアを中心にソ連という国が生まれると、ウクライナはソ連の一員になりました。ソ連は土地や工場などモノを作る手段を国が管理する「社会主義」という考え方を掲げていました。そして第二次世界大戦(39~45年)後、自由な経済を推し進めるアメリカなどと激しく対立する「冷戦」を世界規模で繰り広げました。
91年にソ連が国として立ちゆかなくなって崩壊すると、ソ連を形作っていた国々は独立し、ロシアやウクライナなどになりました。
◇両国はもともと仲が悪いの?
多くのロシア人にとって、ウクライナやその首都「キーウ(キエフ)」は、自分たちの出発点という意識が強いといわれます。今から1200年ほど前に、キーウを中心に生まれた「キエフ大公国」が、ロシアやウクライナなどのルーツとされるためです。800年ほど前にキエフ大公国がモンゴルに倒され、やがて今のロシアにつながるモスクワ公国が勢力を広げました。
一方で、ウクライナ人のロシアへの思いはさまざまです。ウクライナは、ソ連の前にあった「ロシア帝国」だけでなく、西隣のポーランドにも支配されたことがあります。ロシアに親しみを抱く人と、ヨーロッパ寄りの人がいます。また1930年代にソ連の下、食料を奪われて多くのウクライナ人が亡くなった「ホロドモール」というできごとを背景に、ロシアをよく思わない人もいます。ウクライナは歴史的に、ロシアとヨーロッパの間で難しいかじ取りをしてきたといえます。
◇戦いのきっかけは?
2014年2月に、ウクライナでロシア寄りの政権が崩壊し、アメリカやヨーロッパに近い政権ができたことです。危機感を持ったロシアは翌3月に武力を使って、ウクライナのクリミア半島を一方的に自分のものにしました。クリミア半島は、アジアとヨーロッパにまたがる「黒海」を支配する拠点です。ロシア帝国時代から「黒海艦隊」が置かれ、ソ連時代にウクライナ領になりました。ソ連崩壊後も、ロシアは黒海艦隊をクリミア半島に置けるという約束をウクライナと結んでいました。
クリミア半島がロシアに併合されたころ、ロシア人やロシア寄りの人が比較的多く住むウクライナ東部でも、ウクライナから離れることを求める勢力と、ウクライナ政府軍との戦いが起きました。
こうした中、ウクライナは国を守るため、北大西洋条約機構(NATO(ナトー))に加盟する動きを見せました。NATOはアメリカや西ヨーロッパの国々が、ソ連や東ヨーロッパの国々に対抗するために作った軍事組織です。一加盟国に対する攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、みんなで守る「集団的自衛権」を用います。ウクライナが加盟するとNATOとの対決になるので、ロシアは反発しました。
ソ連崩壊の直後は、ロシアはとても混乱し、かつて影響下にあった東ヨーロッパの国々のNATO加盟を認めざるをえませんでした。しかし、近年は経済が発展して力を取り戻し、これがウクライナへの強い態度の一因ともいわれます。
◇ロシアが苦戦しているの?
ロシアは22年2月24日以降、キーウがある北部、ロシア人やロシア寄りの人が比較的多い東部、クリミア半島がある南部の3方向からウクライナに攻め入りました。ロシアはソ連から核兵器をはじめ多くの兵器を引き継ぎ、世界有数の軍事大国です。当初は、キーウはすぐに奪われ、ウクライナのゼレンスキー大統領は国外に脱出するという見方がありました。
しかし、ウクライナの抵抗は根強く、大統領は国内にとどまりました。また、アメリカなどが武器を与えるなどして、ロシアは苦戦を強いられました。4月には黒海艦隊の旗艦(司令官が乗る船)が沈められました。そこでロシアは9月、職業が軍人ではない「予備役」の国民を参加させるとし、約30万人が動員されました。しかし戦いへの意欲に乏しく、装備や訓練も満足でないといわれます。23年2月現在、戦いは主に東部で行われています。
とはいえ、ウクライナが優勢とも言えません。ヨーロッパ最大級のザポロジエ原子力発電所は昨年3月、ロシアに占拠されました。東部と南部の4州は、9月にロシアの支配下で「住民投票」が行われ、ロシアに併合されました。ロシアが占領した地域で虐殺が行われたとも指摘されます。占領地域以外へもミサイルなどの攻撃が続き、人々を不安に陥れています。
ウクライナによると、ウクライナ軍の死者は最大1万3000人ほどで、ロシア軍は10万人を超えるそうです。国連は、ウクライナの市民の犠牲者は約7000人と発表しています。戦いを逃れて国を出た人はのべ1700万人を超え、国内でも600万人以上が故郷を追われたといいます(いずれも22年12月時点)。
◇国際社会は何をしているの?
アメリカや西ヨーロッパの国々、日本などはロシアを批判し、ロシアとの輸出入に強い制限をかけています。「経済制裁」といいます。石油や天然ガスなど豊富な資源に頼るロシア経済は、打撃を受けています。またロシアの近くに位置し、伝統的に中立を貫いてきたフィンランドとスウェーデンがNATOへの加盟申請しました。ロシアから国を守るのがねらいです。
しかし、国際社会全体がロシアに批判的なわけではなく、ロシア寄りや中立の国もあります。またロシアは国連の重要な組織、安全保障理事会の「常任理事国」の座をソ連から引き継いでいます。常任理事国には「拒否権」があり、これを使えば、他の国々が全て賛成していることも止められます。
加えてロシアは大量の核兵器を持っていて、力ずくで解決しようとすると核戦争につながるおそれがあります。ロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用をほのめかしています。アメリカなどがウクライナに武器を与えることで、この危険が大きくなるとして、たびたび議論になっています。
また経済制裁は、ロシアだけでなく、全世界に影響を広げています。ロシアから資源を得にくくなって、エネルギーの値段が上がったほか、ロシアはウクライナ同様に小麦の一大生産地なので、食料の値段も上がりました。これらがモノの値段全体を押し上げ、必要なモノを買えずに苦しむ国や人々が国際社会の課題になっています。
(2023年02月22日毎日小学生新聞より)