国の宝と書く国宝。絵画や仏像、刀剣、お寺などさまざまなものが指定されています。今年の秋には、89点の国宝が公開される展覧会も開かれます。国宝とは何で、どうやって選ばれるのでしょうか? 国の役所である文化庁の綿田稔さんに聞きました。【田嶋夏希】
◇教えてくれた人 文化庁 主任文化財調査官 綿田稔さん
◇国宝って何?
日本に昔からある絵や建物などの文化財を守るための法律「文化財保護法」で、「重要文化財(形のある文化財の中で重要なもの)のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」と定められています。綿田さんは「日本文化を代表するものとして、世界のどこに持って行っても恥ずかしくないもの」と説明します。 今年9月1日時点で、1131件が指定されています。このうち美術工芸品が902件(絵画166件、彫刻140件、工芸品254件、書跡・典籍=筆で書かれた字や書物=229件、古文書62件、考古資料48件、歴史資料3件)、建造物が229件です。 文化財保護法は1950年に制定されました。きっかけとなったのが、前の年に起きた法隆寺の金堂の火災で、7世紀末ごろの貴重な壁画の大半が焼けてしまったことでした。
◇どうやって選ばれるの?
国宝は、重要文化財に指定されたものから、特に価値が高いものが選ばれます。文化庁には大学院などで専門的に学んだ調査官(現在は23人)がいます。担当の分野ごとに、対象とする文化財そのものの調査はもちろん、その分野の最新の研究を追ったり、展覧会などでどのように紹介されているのかなどを調べたりもします。 調査官が選んだ候補について、文部科学大臣は、研究者などを集めて開く「文化審議会文化財分科会」に意見を求めます。分科会は「専門調査会」に調査を依頼し、調査結果をもとに、国宝にふさわしいかどうかを話し合います。メンバー全員が国宝にふさわしいと判断すれば、国宝に指定されます。一人でも反対者がいれば、保留とされます。この話し合いの結果が文部科学大臣に報告され、大臣が国宝に指定します。分科会は毎年、定期的に開かれますが、一件も指定されない年もあります。
◇選ばれる基準は?
調査官が良いと思ったものや、人気があるからといって、国宝になるわけではありません。その基準について、綿田さんは「日本美術のある時代のある特徴を説明する時に、外すことができない、どの教科書にも載るレベル、どんな研究者も異論を唱えることがないもの」と説明します。国宝に指定したら、簡単には取り消せないので、研究者によって意見が分かれるなどして、評価が定まっていないものは選ばれづらいそうです。特に作者が生きている作品は、あとで作風が大きく変わることなどもあり、そもそも国宝の前の段階の重要文化財に指定されることが難しいそうです。近代や現代の美術品の場合、作られてから50年くらいたってやっと、重要文化財に指定するかを検討できるかどうか、というほど慎重に検討されます。
◇選ばれるとどうなる?
国宝や重要文化財の保護のために、所有者にはいろいろな制限がかかることがあります。例えば、海外の展覧会に出品するような場合を除き、国内から持ち出すことはできません。また、売ったり買ったりするときや修理をするときなどには、文化庁長官に届け出る必要があります。さらに、貴重な国宝を守るため、展覧会への出品などで移動させるのは、基本的に年に2回以内、公開日数は60日以内とするルールがあります。石や金属などの劣化のしにくい素材でできたものは公開日数が延長されるなどの例外もあります。制限がかかる一方で、管理や修理のための補助金が国から交付されます。
◇国宝が一番多いのは?
国宝に指定された作品の一番多い作家は、室町時代の水墨画家・雪舟です。全長約16㍍の巻物「四季山水図(いわゆる山水長巻)」(山口県・毛利博物館蔵)や「秋冬山水図」(東京都・東京国立博物館蔵、写真左)など、6点が国宝です。 国宝の美術工芸品902件のうち、およそ1割にあたる最多の89件を所蔵しているのが、東京国立博物館です。ちなみに文化財保護法で指定された国宝には、整理のために指定番号がつきますが、絵画の国宝第1号は平安時代・12世紀の「普賢菩薩像」で、これも同館にあります。同館の89件の国宝全てが展示される特別展が10月18日~12月11日に行われます。東京国立博物館150年の歴史で初めての貴重な機会です。 ※全て東京国立博物館蔵。最後のかっこ内は特別展での展示期間
◇東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」 会期:10月18日~12月11日 会場:東京国立博物館平成館(東京都台東区)
※事前予約制。会期中、展示替えあり(2022年09月07日掲載毎日小学生新聞より)