少子化が進む一方、中学受験率は右肩上がりだ。特に首都圏では都心部の受験生が増えており、2024年も厳しい入試が続きそうだ。その結果、志望校選びで安全志向が高まっているという。そこで、安田教育研究所代表の安田理さん、サピックス教育情報センター本部長の広野雅明さん、市進学院学校情報室の野澤勝彦さん、四谷大塚情報本部長の岩崎隆義さん、日能研本部ディレクター・『進学レーダー』編集長の井上修さん――の5人の専門家に話を聞いた。(「サンデー毎日12月31日-1月7日号」より)
―24年中学入試はどのような状況になりそうですか。
岩崎 1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の23年の小6生数は22年より5373人減っていますが、中学入試の受験生数は前年並みになるとみています。22、23年は2年連続で中学受験率が過去最高になりましたが、24年はさらに更新しそうです。広野 サピックスも、中学受験生数は23年とほとんど変わらないとみていますが、地域によって増減が目立ちます。中でも文京区や千代田区、港区などの都心部の受験生が大きく増えています。小6生の約半数が中学受験をします。これらの地域の受験生が通いやすい学校は、志望者が増加傾向です。
井上 日能研の公開模試の受験者数も、前年と変わりません。24年も厳しい入試になるのは間違いなさそうです。
岩崎 コロナ下では、学校の魅力が伝わるように広報活動を見直した学校が多く、それが中学受験の裾野を広げて、私学の人気を高めるきっかけになりました。また、私学が今の時代に求められている教育に力を注いでいることも、中学受験ブームの根底にあります。今の子どもたちが社会で活躍する時代は、人生の設計図を転職や起業などで何度も書き換えていくことになるでしょう。そんな将来に備えて、一生の財産となる「学ぶ力」を身につけてほしいと考える保護者を中心に、私学の人気が高まっています。
―1月入試の動向は。
野澤 埼玉・千葉の1月入試は、東京や神奈川の受験生にとって前哨戦になります。1月入試を押さえとして受験する人が多く、確実に合格できる学校を慎重に選ぶ傾向が強まっています。栄東や大宮開成、市川、東邦大付東邦、昭和学院秀英などの上位校の志望者が減り、埼玉栄や昭和学院などの中堅校の志望者が増えています。
岩崎 志望順位が低い学校ほど、模試で合格の可能性が50%以下になったら志望をやめるなど、安全志向が強まっています。また、淑徳与野では新たに医進コースを新設し、11日に算数と理科で判定する午後入試を実施します。11日午後は上位の志望者が集中して厳しい入試になりそうです。志望順位が高ければ、既存の13日の入試も併願することをお勧めします。
野澤 24年4月に埼玉・所沢市に開智所沢中教が開校します。全ての入試が同法人の開智と同じ試験なので併願しやすく、過去問で対策が立てやすいため人気が上がっています。周りに私立校が少ないエリアに開校するので、その地域の中学受験層の掘り起こしにもなっています。埼玉にはスクールバスを利用する学校が多い中、駅から徒歩10分の立地も魅力です。
広野 寮がある地方の学校の首都圏入試では、早稲田佐賀や北嶺が24年も人気を集めそうです。志望者が増えている佐久長聖の東京入試の会場の一つが慶應義塾大三田キャンパスです。佐久長聖を目指す受験生はもちろん、慶應義塾中等部を受ける人にも本番の試験場を体験できる機会になります。
岩崎 海陽中教の特別給費生入試は毎年厳しい入試になりますが、通常の入試Ⅰ、Ⅱは特別給費生入試より合格しやすく、成績上位者は特待生に認定してもらえます。特別給費生でなくても東大に現役で合格できる学力を養える環境があります。片山学園や盛岡白百合学園などもそうですが、地方の学校は比較的入りやすく大学合格実績が良い学校が多いので人気が高まっていますね。
安田 共働きで忙しい保護者が増えているので、全寮制の学校に6年間預けることも、中学受験の選択肢の一つになってきました。地方の寮がある学校を選択する家庭は今後も増えそうです。
広野 寮では、自室でスマホの使用を認めていない学校が多く、スマホ漬けの生活を避けられますし、しっかり勉強させる体制があります。行事も多く、ほかでは得られない経験をして人間的にも大きく成長できます。地方なので地元の国公立大医学部の地域枠入試を受けられるのもいいですね。
井上 首都圏の私学は、生徒が自立して学べる環境づくりに力を注いでいる学校が多いのですが、地方でも寮の施設・設備を改築し、自習やグループワークがしやすいラーニングコモンズを設置するなど、生徒が過ごしやすい環境を整備する学校が増えています。北嶺もそうですし、愛光もデザイン性が高く、全面ラーニングコモンズの雰囲気がある円形の新校舎が完成しました。また、長崎日本大の中学生は、同じ建物にある高校デザイン美術科の生徒と交流でき、刺激を受けながら過ごせるのが魅力で、東京からの進学者もいます。
安田 学校教育の最大の課題が、生徒の主体性を養うことです。ラーニングコモンズで自律した学びを推進していくことは、時間をどのように使って学ぶべきかを、生徒自身に考えさせる良いきっかけになると思います。
―東京・神奈川の2月入試はいかがでしょうか。
広野 開成や麻布、武蔵などの最難関校は微減です。無理をせずに合格の可能性が高い志望校を選択する傾向が強まっています。一方、駒場東邦は志望者が増えています。校舎はあまり新しくはありませんが、九つある理科室には貴重な標本や化石なども多く、男子に魅力的な教育環境が人気を集めています。
井上 最近、食堂を改築しましたし、多くの3Dプリンターを設置するなど、校内のインフラは最新のものになっています。24年入試は大人気になりそうですね。
野澤 早稲田も志望者が増えています。ただ、チャレンジ層が増えているようなので、実際の難度に大きな変化はないと思います。
広野 巣鴨や城北、世田谷学園、攻玉社、桐朋などの伝統男子校も志望者が増えています。これらの学校は、守るべき伝統を受け継ぎながら、若い先生を中心にICTを積極的に活用するなど、新旧のバランスがとれた教育に変わってきています。
岩崎 過ごしやすい環境がある芝や東京都市大付も志願者が増えそうです。
広野 逗子開成も海に近い絶好の環境があり、海洋教育などの特色ある教育を行っているため人気が上がっています。
安田 獨協医科大への推薦枠がある獨協や、大学合格実績が向上している桐蔭学園中教も人気がアップしています。
広野 女子は学習院女子や東洋英和女学院、普連土学園、頌栄女子学院、大妻、香蘭女学校などの人気が高まっています。また、横浜雙葉は24年入試から2回入試になります。新設の2日は多くの志願者を集めそうです。
安田 大学の学部の新設・再編が進み理工系や農学系の進路が広がる中、保護者の意識が理系にシフトしてきました。中学受験でも鷗友学園女子や富士見、田園調布学園、普連土学園、カリタス女子など理系進学者の比率が高い学校は人気が上がっています。
野澤 和洋国府台女子は、系列大学の学部構成から文系のイメージが強い学校ですが、実は中学3年間で理科の実験を100回行うなど理系にも力を入れています。サイエンスに興味がある小学生対象の実験講座「放課後サイエンスチーム」を実施するなど、早い時期から理系に目を向けた取り組みを行っています。
井上 ここ数年、女子校では理系進学率が上昇し続けていましたが、23年は初めて3割を超えました。数学ⅡBまで必修にするなど、理数教育に力を入れている学校が増えていることも一因です。大学入試でも東京工業大と東京理科大が総合型選抜で女子枠を新設するなど、女子の理系進学に追い風になっています。一方、高大連携に積極的な私立校が増えていますが、その取り組みが中学入試の志望動向にも影響するようになってきています。
安田 23年は法政大と連携している三輪田学園が人気でした。国際基督教大と連携した佼成学園も人気が上がっています。大学側も高大連携の提携校を広げる動きが活発化しており、上智大が今秋、提携校を大きく増やしました。不二聖心女子学院や聖ヨゼフ学園、東星学園などから既に学校推薦型選抜の合格者が出ています。
広野 立教大は付属校の推薦枠を増やす動きがあります。立教女学院は24年の高3生から推薦枠が151人から201人になります。
野澤 同じく香蘭女学校も立教大の推薦枠が97人から160人になり、ほぼ全入になります。これにより、中学入試の人気がさらに高まっていく可能性があります。
―大学付属校の人気が落ち着いてきました。
井上 以前は併設大への内部進学率が高い大学付属校は高人気でしたが、最近は早稲田のように他大学にも門戸を開いている付属校の人気が高まっています。中央大付横浜をはじめ、内部進学率が下がり他大学の合格実績が上がる傾向の付属校が目立ちます。
広野 学習院女子も、他大学進学者が増えています。一方、法政大は8割以上が併設大に進学していますが、内部進学の権利を保持しながら他大学を受験できます。このような制度があるのは、大学付属校のメリットです。
安田 大学付属校は施設・設備が充実していることが魅力です。また、日本女子大付や立教女学院、学習院女子のように、学際的な素養を身につけられる独自の教育をしている学校も多い。そういった教育内容にも注目してください。
野澤 学習指導要領で重視されている探究学習は、大学付属校の特色の一つです。和洋国府台女子の和洋コースは、高大連携で探究型の教育を実践しています。併設大進学を目指すコースですが、学校推薦型選抜で筑波大に進学した生徒もおり、他大学の合格実績も出ています。
井上 東京農業大第一は25年から高校募集をやめ、完全中高一貫校になります。現在は付属校というより他大学を目指す進学校ですが、今後は東京農業大の充実した施設・設備を積極的に活用しながら探究学習などに力を注いでいく体制が強まりそうです。
安田 大学付属校に限らず、生徒が主体的に学ぶ姿勢を養う教育を取り入れる進学校も多く、城北の「0時限」や、かえつ有明の「サイエンス」の授業では、生徒が自由に学んだり、学び方を学べる取り組みがあります。
―注目校や狙い目校は。
広野 日本工業大駒場の人気が高まっています。進学校ですが、併設大の充実した施設も利用できますし、工業高時代から受け継ぐ伝統的な理系教育に定評があります。また、23年に目黒星美学園から共学化・校名変更したサレジアン国際学園世田谷も人気があり、志願者が増えそうです。
岩崎 関東学院は、神奈川のトップ県立高の横浜翠嵐で数学を教えていた先生が中心になり、数学の教育プログラムを改革しています。今後、大学合格実績が伸びる可能性があり、注目しています。
安田 実践女子学園はIT企業が多い渋谷の立地をいかしたプログラミング授業を取り入れるなど、時代に合わせて柔軟に対応している学校です。ここ数年人気が上昇しており、24年も多くの志願者を集めそうです。
野澤 淑徳SCが校名変更し、24年4月から小石川淑徳学園になります。募集人員を増やして入試科目も変更します。若い先生が増えて勢いがありますし、中央大理工学部と連携した理科教育にも力を注いでいます。また、24年から蒲田女子高が共学化し、羽田国際に校名変更します。25年には中学も開校します。
井上 鎌倉女子大が26年から共学化、東京女子学院は高校が25年から、中学は26年から共学になります。改革によりどう変わっていくのか、注目しています。
岩崎 東京都市大等々力は、校舎の隣にあった併設大の等々力キャンパスが移転し、その土地を活用できるようになります。施設・設備がさらに充実していくので、ますます人気が上がりそうです。
安田 京華と京華女子、京華商業高が24年から合同キャンパスになります。一人ひとりを手厚く指導する体制があり、男女とも大幅に志望者が増加。受験人口増の文京区にあることも一因で、近隣の郁文館、駒込も増えています。
井上 京華の人気は駒込が難化した影響もありそうです。同じ沿線の文京学院大女子も人気が上がっています。また、中村は清澄庭園が隣接するなど、過ごしやすい環境が魅力です。
―メッセージやアドバイスをお願いします。
井上 中学受験で何より大切なのが、保護者と受験生がともにポジティブでいることです。今日学んだことが明日につながると信じて、前向きな気持ちで入試本番を迎えてください。
安田 受験生活では子どもの意見に耳を傾け、意思を確認しながら過ごしてください。自主性を尊重することで、自分の意見が言える大人に成長していくと思います。
岩崎 2月入試は実受験率や歩留まり率がアップしています。24年も厳しい入試になりそうなので、1月入試で合格の可能性が高く、通学してもよい学校を併願し、そこで合格してから2月入試を迎えてください。
広野 「WEB出願で入力したデータが時間制限オーバーで無効になる」「受験料の支払いを忘れる」「合格発表の期限が過ぎて結果が見られない」「入学手続き締め切り日を過ぎて入学の権利を失う」など、毎年さまざまなトラブルが起こっています。事務手続きに漏れがないように、注意してください。
野澤 第1志望校が複数回試験を実施しているのであれば、入試を2~3回受けることをお勧めします。中には、2回目の入試の合格者の半数が、1回目の不合格者だったという学校もあるからです。また、本番の試験が始まっても学力は伸び続けますから、最後まで諦めず、第1志望校を目指して頑張ってください。
――23年首都圏中学入試はどのような状況でしたか。
岩崎 22年の1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小6生数は29万4574人で21年より減りましたが、中学入試の受験生数は増加しました。四谷大塚の集計では、前年比約1200人増の約5万4700人。受験率も0.5ポイントアップの18.6%で、受験生数・受験率ともに、過去最高記録を更新しました。
井上 日能研では、公立中高一貫校を含めた受験生数を約6万6500人とみています。受験率は過去最高の22.6%。主に私立校の受験生が増えました。
岩崎 受験生が増えたのは、低学年から塾に通う人が増えていることも理由の一つです。また、コロナ禍での公立校の対応への不安から私立校が注目を集め、その期待感が続いていることも、私学人気につながっています。
安田 今はSTEAM(Science Technology Engineering Art Mathematics)教育やグローバル教育、探究学習、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなど、多くの保護者が公立校にはない教育を求めて私立校を選んでいます。ただ、同じように塾通いをしていても、早くから大手受験塾に通って難関校を目指す人もいれば、習い事を小6まで続けた上で、無理せずに合格できる学校を選択する人もいます。受験スタイルが多様化してきましたね。
野澤 市進教育グループには集団指導と個別指導の両方があり、中学を受験する児童の多くが集団指導部門に所属しています。ところが、23年入試では個別指導部門でも中学受験する児童が増えました。彼らは、一般的な併願スケジュールを組まず、自分に合ったスタイルで受験する傾向がみられます。例えば12月1日から始まる千葉の第1志望入試を目指して勉強し、1月以降の一般入試は受けない人もいます。
広野 比較的合格しやすい第1志望入試しか受験しない子どもも増えていますね。なかでも、二松学舎大付柏や西武台千葉などのようにキャンパスが広く、雰囲気が良い学校は一定の人気があります。
安田 受験スタイルが多様化する中、大手塾の模試を受けない子どもも増えています。そのため学校の中身をよく知らないまま志望校として選択するケースもあるようです。話題校ばかり受け、残念な結果で終わる子どももいます。
広野 今回は、午後入試の受験率がさらに高まりました。数年前までは女子校や共学校で実施校が多く、女子の受験率が高かったのですが、男子校でも実施校が増えて男女差がなくなってきました。最近は、2月前半日程入試で合格者の歩留まりが良く、後半日程では合格者数が絞られて厳しい入試になる傾向が顕著です。早く合格を得るために午後入試を併願する人が増えています。
――1月入試の状況は?
野澤 コロナ禍で東京や神奈川からの受験生が減っていましたが、人気校を中心に戻りつつあります。埼玉の栄東は前年比約1650人増の約1万3800人の志願者を集めました。また、ここ数年東京と神奈川が中心の2月入試で厳しさが増していますので、1月入試では確実に合格できる学校を選択する安全志向が強まりました。開智では、1月10日の先端1入試の志願者は増えましたが、上位学力生が受ける同11日の先端特待入試は減少しました。浦和実業学園などの中堅校も人気を集めました。
岩崎 埼玉栄も志願者が増えて難化しました。栄東や大宮開成、千葉の専修大松戸などは東京からの通学生が増えています。上位校に限らず、東京から通いやすい地域の学校は人気が高まっています。
安田 立教新座や淑徳与野、武南、西武台新座もそうですね。
野澤 コロナ禍で減少傾向が強かった千葉の学校は、全体的に志願者が増えています。市川の人気が復活しました。
安田 市川はグラウンドや体育館などの施設が充実しています。進学校でありながら、哲学など教養を深めるセミナーを行っており、教育の総合力が高い学校です。
井上 麗澤も人気を集め難化しました。先進的な取り組みをしているSDGs研究会など、バランスの良い教育が評価されています。
野澤 光英ヴェリタスは21年に共学化した学校改革以降、志願者が増加していましたが、今年は減少しました。ただ、特待生狙いの受験生が減っただけで、変わらずに高い人気があります。
広野 キャンパスが広く、部活動もしやすいですし、礼法など伝統的に受け継がれてきた良質の教育も受けられる。そういう環境を求めている家庭にとって、志望順位が高い学校ですね。
野澤 今年4月に中学校を開校した流通経済大付柏は、827人の志願者を集めました。さらに周辺地域でも、志願者が増えた学校が多くありました。中学受験率が高くないエリアに開校しましたが、中学受験への意識を高める効果があったようです。
井上 流通経済大付柏の校舎はラーニング・コモンズや生徒同士が学び合う図書館など、千葉ではあまり見られなかった最先端の施設が充実しています。周辺には東大や千葉大、東京理科大のキャンパスがあるアカデミックタウンにあります。人口が増えているつくばエクスプレス沿線の柏の葉キャンパス駅からもスクールバスで通いやすい立地なので、今後も人気が続きそうです。
岩崎 地方にあり、寮を持つ学校の首都圏入試では、盛岡市の盛岡白百合学園の志願者が増え、難化しました。
井上 寮のある学校を進学先として選ぶ家庭も増えていますね。不二聖心女子学院(静岡県裾野市)や静岡聖光学院(静岡市)、北嶺(札幌市)も安定した人気があります。
――東京や神奈川で伸びた学校はどこでしょうか。
広野 男子は開成や海城、早稲田の志願者が増えました。これらの学校の共通点は新校舎です。最新の設備がある理科室や生徒が自由に使えるスペースなどを備えた新校舎は、今の保護者にとって注目度が高い。予測不可能な時代でも活躍できる力を身につけられると期待を寄せています。
安田 コロナ禍では安全志向が強かったですが、今年は東京・神奈川とも、より上位の学校を目指す傾向が見られました。神奈川では聖光学院、栄光学園、逗子開成の志願者が増えました。
広野 逗子開成は海が目の前にあり、遠泳実習などの独自の海洋教育を行っています。校内は開放的な雰囲気があります。コロナ禍で閉塞(へいそく)していた状況を経験し、そういう環境に魅力を感じる人が多かったのでしょう。また、本郷や巣鴨、城北など、堅実な教育を行う学校の人気も続いています。
岩崎 難関女子校では、桜蔭の志願者が増えました。女子学院はやや減少。渋谷教育学園渋谷などの共学校を選択した受験生が多かったのだと思います。
井上 豊島岡女子学園も微減でしたが、チャレンジ層が減っただけで、難度はむしろ上昇傾向です。
岩崎 共学校では、広尾学園小石川は22年より志願者が減ったものの、依然として人気があり、難度もアップしています。
――注目を集めた学校は。
広野 東京都市大付が入試日程を変更し、2月1日の午前入試を新設しました。トータルの志願者数は減りましたが、レベルの高い受験生が集まりました。また、東京都市大付が抜けた同2日は多くの男子校で志願者が増えました。
野澤 足立学園が入試回数を増やし、志願者が大きく増えました。実際に学校に行くと雰囲気の良さが伝わりますし、最寄りの北千住駅から徒歩1分と駅から近いのも魅力です。
安田 佼成学園も人気がアップしています。グローバルコースの生徒が校外のさまざまなコンテストで入賞するなど、生徒の活躍も目覚ましいものがあります。
岩崎 山脇学園や三輪田学園、実践女子学園などの伝統女子校はイメージが刷新され、今の時代に合わせた教育を工夫しながら行っていることが伝わり始め、人気が続いています。
安田 光塩女子学院や晃華学園、湘南白百合学園、カリタス女子など、多くのカトリック系の女子校の志願者が増えたのも、教育内容が変わってきたことが知られてきたからだと思います。説明会に参加し、他校では聞けないような校長先生の話が心に響くこともあるようです。
井上 校内に生徒が自由に使える学びの場がある学校や、広報活動にSNSを活用し、さまざまな内容を発信している女子校は人気を集めています。
岩崎 共学校では、駒込や日本工業大駒場、横浜創英などの人気が上がっています。
広野 今年4月に共学化して東京女子学園から校名変更した芝国際は志願者が殺到しました。
井上 同様に目黒星美学園から校名変更し、女子校から共学校に移行したサレジアン国際学園世田谷も多くの志願者を集めました。
岩崎 26年に明治大の付属校となり、共学化して明治大付世田谷に校名変更する予定の日本学園は、23年の入学者から明治大への内部進学の対象になるため、志願者が大幅に増えました。
野澤 十文字も志願者が増えました。地道な広報活動の効果が出てきましたね。女子サッカーの強豪校でもあり、元気がある校風も魅力です。また、京華女子も全部の入試回で志願者が増えました。24年から京華、京華商業との3校合同キャンパスがスタート。注目が集まりそうです。
広野 コース制を廃止した安田学園も志願者が増えました。コース改革も、人気アップのキーワードのひとつになっています。
野澤 安田学園は下町情緒が残る場所にあり、旧安田庭園や両国国技館など、緑と文化施設に囲まれています。周辺環境がいいことも人気に結びついています。
岩崎 安田学園に隣接している日本大第一も人気でした。人口が増えているエリアが近いので、その影響があります。
井上 かえつ有明は帰国生が多く、教育プログラム全体がアクティブラーニング形式で生徒同士が自由に勉強する環境が整っています。学校全体がラーニングコモンズのような雰囲気があります。
広野 海城や東京都市大付などもそのような雰囲気があります。一般的に帰国生が多い学校は、学校全体が活性化している印象です。
――理系に強い学校や、高大連携に積極的な学校が人気です。
安田 日本はデジタル化が遅れており、理系に強い人材が求められています。我が子を理系に進ませたいと考える保護者が増えているのも、そういう時代状況を肌で感じているからだと思います。
井上 東京都市大や芝浦工業大、東京電機大、工学院大といった理工系の大学は施設が充実していますし、就職実績も好調です。これらの大学の付属校は、軒並み人気が高まっています。
岩崎 今のところ、入試の難度が高すぎず受けやすいことも、選ばれている理由のひとつです。
広野 理系の進学先として、医学部だけでなく、理学や工学を選択する女子が増えています。文系・理系の男女差がどんどんなくなってきています。
安田 理工系に進学する女子は、以前は桜蔭や豊島岡女子学園、鷗友学園女子など難関校の生徒が多かったのですが、最近は普連土学園、田園調布学園、山脇学園など多くの女子校で増えています。
野澤 女子は、算数は苦手でも理科が好きなら、理系に進む傾向がありますね。
広野 算数はひらめきの要素も強いので向き不向きが分かれますが、数学は日々の勉強の積み重ねが重要です。中学になると、こつこつ勉強する女子は男子に比べて数学が得意になる生徒が多い。
井上 三輪田学園は数学の先取り学習を重視するのではなく、じっくり時間をかけて数学に取り組むことを大事にしています。これからの世の中では、数学嫌いにならないように指導することはすごく大切です。
安田 三輪田学園は法政大との連携を見直し、大学のデータサイエンスの授業を生徒がオンライン聴講できる制度をつくりました。
野澤 法政大への推薦枠が30人あることも人気を後押ししています。
安田 他にも高大連携に力を入れている進学校が増えています。大学付属校でなくても大学の授業を受けたり、実験室を見学できるようになると、進学先が併設大に限られる大学付属校より、選択肢の幅が広い進学校のほうがいいと考える家庭は多いかもしれません。難関大付属校の人気も、落ち着いてきました。
井上 現在も高大連携を進めている学校がありますので、今後の発表に注目したいと思います。
――大学入試では、一般選抜の募集人員が減り、推薦等の年内入試が増加するなど変わってきています。これからの中高一貫校の進路指導はどうなりますか。
岩崎 私立校ではキャリア教育を重視し、大学で何が学べるのかを理解した上で、進学先を選択するように指導しています。これまでのような東大を頂点とした序列で大学を選ぶことは減るのではないか、と思います。中学受験では学校選択の多様化が進んでいますが、大学選択でも同様の状況になっていくのではないでしょうか。
広野 何も考えずに偏差値上位の大学を目指す人は減るでしょうね。海外大学に進学する人もいれば、自分が研究したい内容に合った大学を選ぶ人もいるというように、大学の選び方は多様化していくと思います。
井上 中高一貫校では高校受験がない分、時間をかけて自分に合う大学を探すことができることは大きなメリットです。今後、さらに人気が高まりそうです。
安田 年内入試で大学に入学する生徒が増えています。入学後に自分が困らないために、進学先が決まった後も勉強を続け、基礎学力をしっかり身につけた上で進学してほしいです。
――24年入試の変更点や注目校、志望校の選び方について教えてください。
岩崎 24年4月、埼玉に開智所沢中教(仮称)が開校します。私立校が少ないエリアに開校する上、最寄り駅から徒歩で通える立地も魅力的で、注目が集まりそうです。
広野 横浜雙葉が2月2日の入試を新設し、1日と2日の2回入試になります。受験チャンスが増えて志望者が増えそうです。今後も、入試変更の情報が出てきますから、しっかり調べて志望校を決めてください。
野澤 今春、相鉄と東急の新横浜線が開通しました。乗換回数が減って通いづらかった地域から通いやすくなるなど通学範囲が拡大し、志望校選択の幅が広がります。
井上 変化の多い時代を生きる今の子どもたちにとって大切なのは、将来自分が何をしたいのか考えながら学ぶことです。中学入試、大学入試に限らず、志望校選択をする際は、先を見通して子どもに合う進路を選んでほしいです。
安田 最近は1回分の受験料で何回でも受験できる学校が多いため、とりあえず出願しておくというケースが増えています。そのため安易な志望校選びが行われている場合もあります。事前にきちんと学校を調べ、親子で十分に検討した上で志望校を選んで、周りに左右されずに落ち着いた受験をしてほしいと思います。