電気を運ぶ送電線の建設や保守を手掛ける技術者のことをラインマンといいます。武田征彦さんは電線を張る工事などを担い、くらしに欠かせない電気の安定供給を支えています。(「Newsがわかる2024年2月号」より)
東北地方にある送電線の保守が私の仕事です。送電鉄塔に登って設備を点検したり、古くなった電線を張り替えたり、新設された鉄塔に電線を張る工事をしたりしています。
鉄塔は高いものだと100メートル以上あります。山の上に建つ鉄塔で作業した時は、眼下に雲海が広がっていたこともありました。災害時には停電の復旧も担います。強風で電線が切れて停電した地域の復旧を担当した時は、暗闇の中、ヘッドライトをつけて塔上で電線をつなぎました。慣れない夜間の工事でしたが、学んだことは多く、心に残っています。
高所作業が多い仕事ですから、何よりも大事なことは安全です。墜落や感電、工具の落下などの事故が起きないように、作業前のミーティングでは必ずチーム全員で危険なポイントを確認し、安全対策を徹底しています。
電線のたるみを規定値に調整する作業を終え、工具を取り外す武田さん
鉄塔と電線をつなぎとめる
高所作業では仲間との信頼関係、チームワークが大事(右が武田さん)
この仕事を選んだきっかけは、中学3年生の時に起きた東日本大震災です。岩手で被災し、津波の影響による停電で、2週間電気の使えない生活を送りました。この経験から電気の大切さを知り、電気に携わる仕事に就きたいと思ったのです。
ライフラインである電気を守る仕事にやりがいを感じています。送電線は何十年も先の未来まで残っていくものです。新しい鉄塔が完成し、電線が張られ、無事に送電できた時には大きな達成感があります。
近年は、工具や電線上での移動に使う「宙乗器」などの電動化が進み、作業がしやすくなりました。それでも、最後に電気をつなぐのは人の手であり、ロボットにできる作業ではありません。一人一人の技術力や経験、そして何よりチームワークが重要な仕事です。ゆくゆくはチームを率いる立場になれるように、さらに技術を磨いていきたいです。
送電鉄塔の上で機材の荷揚げをしている様子(左が武田さん)
取材・文:川久保美紀 写真:ETSホールディングス提供