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スクールエコノミスト2024 WEB【麻布中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は麻布中学校を紹介します。

探究心に遊び心を加えて楽しむ生徒たち。「最終学歴は麻布」という誇りの教育

<注目ポイント>

①手作りの実験道具で好奇心と探究心を引き出す物理教育

②先入観に縛られない自由な発想力、創造性を培う美術教育

③受け継がれてきた自由な校風が、未来志向の自立した人間を育む

手作りの実験道具で知力を養う物理教育

 「日常生活で目に入るあらゆる現象には理由がある。何気ないことにも疑問をもって、自分なりに仮説を立ててみてほしい。なんでもすぐ調べられる時代だが、考える過程を大切にしてほしい」と語る加藤義道教諭に案内された物理実験室には、歴代の教員が制作した数々の手作り実験道具が置かれていた。高価な装置を1台購入して教員が実演して見せるより、生徒全員が実験に参加できるよう、手作りしているのだ。知識習得に偏りがちな受験教育を受けてきた生徒たちに、「理科の答え」とは、手を動かして考える過程で発見するものだと体得させる狙いもある。「アレっと思い、疑問を持つことが、特に中学時代は大事。習ったからではなく、自分なりに説明する訓練を重ねることで、未知のものを見出し、その規則性を発見できるようになるのでは」と加藤教諭は力を込める。

 手作りの実験道具は、生徒の好奇心を刺激する効果もある。レールを使った実験を行ったときのこと、実験終了後、生徒たちは各班のレールを繋げて1本の長いレールを作り、台車同士を衝突させて楽しんでいたという。実験室を遊び心のある探究の場に変えてしまう生徒たちの発想力は、ときに教員の想像を軽く超えてしまうようだ。

 理科教育のカリキュラムもまた、実験に重点をおいて組まれている。中1では物理・化学・生物の3分野を学ぶが、週4時間のうち2時間は実験に当てられる。中2では物理と地学、中3では物理以外の3科目を履修し、実験に加えて論理的な考察力も身に付ける。もともと学力の高い生徒の多い同校では、教員も物理教育研究会に参加するなど、研鑽を積むことに余念がない。麻布の教室は、生徒と教員の真剣勝負の場でもあるのだ。

手作り実験器具は研究マインドを育む

自由な創意を大切にする美術教育

 生徒の個性、感性を尊重する同校は、各々の創造性を広げる美術教育を行うのに理想的な環境だ。生徒の多様な興味に応えられるよう、教員構成も限られた専門分野に偏らないよう配慮されている。美術は中学の必修科目であり、まず中1では、校内の風景画やデザインから石による立体造形まで制作し、基礎を身に付けることから始める。中2からは、教員が提示する課題内容に合わせて各自テーマを設定して制作する。「ひとつの作例や秀作を挙げてしまうと、そこに寄せようと考える生徒もいる。生徒のアクションを大切に、ミスリードしないよう心がけている」と尾崎真悟教諭は教える側の心構えを示した。

 精神的に大きな成長を遂げる中3時に求められるのは、構想をアウトプットするための柔軟な発想だ。例えば世界の名画からその後のストーリーを考えるという授業では、パロディや構図に変化を加えたものなど様々な視点が生徒から生まれた。印象深いエピソードとして「木材を使った造形」という課題に対してある生徒が制作した「豆腐」は、少ない造形要素の中から対象物と向き合った真摯な観察眼が表れており、「素材に命を吹きこむ」という美術表現の原点に立ち返らせる作品だった。

 「物事の答えはひとつではない。多様な視点をもち、アプローチする過程を大切にしてほしい。学校の学びを通して得た発想力を、社会で開花させてほしい」と、尾崎教諭は美術教育の成果に期待を寄せる。