世界では今も、戦争が続いています。お互いを敵とみなして殺し合う戦争は避けなければなりませんが、起きてしまったとしても、けが人を助けなければならないなどの国際ルールがあります。そのルールを広め、少しでも尊い命を守ろうとする国際赤十字の取り組みを、知りたいんジャーと考えてみましょう。
戦場でけがしたら助からないの?
戦争は残酷です。国の軍隊や武装集団が対立する相手を襲い、土地や民族、宗教などを巡る争いで自分の主張を有利に実現しようとします。兵士だけではなく一般市民も巻き込まれ、多くの人が亡くなったり傷ついたりしています。
戦場でけがをして動けなくなったら、命を落とすしかないのでしょうか。実は、世界のほとんどの国は「敵味方を問わず傷病者を助け守らなければならない」「一般市民を攻撃してはいけない」などの考え方で一致し、国際人道法と呼ばれる国際条約をいくつも結んでいます。
基本となる四つのジュネーブ条約を結んだ国は、国際連合に加盟する193より多い196か国・地域もあり、戦争だからといって何をしてもよいわけではない、という考えが世界共通のルールになっています。国際人道法が守られれば、尊い人命の犠牲を減らせるのです。
どうして戦争にルールができたの?
スイス人の実業家、アンリー・デュナンが1859年、フランス軍とオーストリア軍との激戦地となったイタリア北部ソルフェリーノを訪れた時のことです。4万人の死傷者を出した戦闘の数時間後、デュナンは多くのけが人がうめき、苦しむ姿を目の当たりにしました。そして1862年に「ソルフェリーノの思い出」という本を出版し、傷病兵の救護組織を設け、国際的な取り決めを結ぶことを提案しました。
デュナンは1863年、この本の提案に賛同した法学者、軍人、医師らと5人で負傷兵を救うための委員会を結成し、後に赤十字国際委員会(ICRC)と名称を改めました。スイスのジュネーブに本部を置くICRCが「国際人道法の守護者」と呼ばれる役割を担い、日本赤十字社を含む世界中の赤十字運動の起源となったのです。
デュナンは1901年に第1回ノーベル平和賞を受賞しました。
マークにはどんな意味があるの?
ICRCや日本赤十字社など各国・地域の赤十字が使う白地に赤い十字のマークは、赤十字の救護員、軍や武装組織の医療部隊だと識別してもらい、攻撃されないようにするためのものです。使い方は国際法などで定められ、一般の医薬品や病院などに使うことは禁じられています。
このデザインは、デュナンの祖国に敬意を払い、赤地に白い十字を描いたスイス国旗の色を反転させて作りました。一方、十字のデザインがキリスト教を連想させると考えたイスラム教の多くの国では、赤い三日月のマークと赤新月社の名称を用いるようになりました。2005年からは、ひし形の「赤いクリスタル」が新しいマークとして追加されました。
紛争地で活動するICRCとは別に、191の赤十字社、赤新月社などが国際赤十字・赤新月社連盟をつくり、自然災害時の被災者支援などに取り組んでいます。
紛争地でどんな活動をしているの?
ヨーロッパのウクライナではロシアとの戦争が、中東パレスチナのガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が続いています。ICRCは、こうした紛争地でその国・地域や周辺の赤十字・赤新月社と連携し、さまざまな活動をしています。
1月時点でウクライナではスタッフ943人が、イスラエルとパレスチナでは718人が、負傷者の救護や水・食料などの人道物資の援助に加え、破壊されたインフラを直したり、離ればなれになった家族をつないだりしています。事業全体を見ると、医療分野以外の援助、保護活動が大半を占めています。
世界約90か国にいる約1万8000人のICRCスタッフは、どの勢力にも味方しない中立の立場を守っています。しかし、近年の紛争では赤十字の車両が攻撃されたり、赤十字マークを偽装した車両が軍事目的で使用されたりするなど、現場の活動が困難に直面するケースが増えてきました。
日本の赤十字は何をしているの?
日本
では1877年
に起
きた内戦
の西南戦争
で、敵味方
を問
わず傷病
兵
を救護
する博愛社
が活動
を始
めました。明治政府
がジュネーブ条約
に加盟
したことを受
け、1887年
に名前
を変
えて日本赤十字
社
となりました。
献血事業で知られているほか、国内や海外で自然災害の被災地を支援したり、ICRCの呼びかけに応《こた》え紛争地での人道支援活動に取り組んだりしています。ウクライナでは現地の赤十字社と協力し、巡回診療を支援したり物資を届けたりしています。パレスチナのガザ地区では2024年5月、現地の赤新月社と連携し、ICRCが赤十字野外病院を開設。日本のほか、他国の赤十字13社が参加して運営しています。
また、赤十字の精神に基づき世界平和に貢献できるよう、各地の学校や幼稚園で青少年赤十字(ジュニア・レッドクロス=JRC)の結成を呼びかけ、国際交流や防災教育、地域のボランティア活動などを進めています。
(2025年11月4日毎日小学生新聞より)
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戦場での人命救助 国際赤十字って何?【ニュース知りたいんジャー】
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