科学コミュニケーターの本田隆行さんと相棒のボットンが、日常のあちこちに潜む科学を探っていきます。今回は見えない流れが動きを決める!? 野球の「変化球」をナゾ解き!(「Newsがわかる2023年9月号」より)

野球選手が投げたボールは空気の中をかき分けながら進んでいく。この時、ボールって空気からいろんな力を受けてるんだよ
そうなの? 空気ってこんなにスカスカでサラサラなのに?
スカスカなように見えて、空気から得る力をあなどっちゃいけない。しかも、野球選手は投げる球に回転をかけるけど、これがボールの動きには特に関わるんだ
ピッチャーって、ボールの握り方や投げ方を変えて、いろんな変化球を投げるもんね
例えば、ストレート(まっすぐ)はボールの進行方向に対して強い逆回転をかけて投げる。すると、ボールの上側と下側で、それぞれ空気とボールはどんなふうに接する?
ボールの下側は、前からくる空気にぶつかるように接するし、上側はその逆だ!
すると、空気から受ける力のバランスが崩れて、ボールには上向きの力が生まれるんだ

ストレートの球を横から見た図。ボールの上側は空気の流れとボールの回転が同じ向きなので空気の流れが速く(低圧力)、下側はその逆で空気の流れが遅くなる(高圧力)
上向きに力がかかるってことは、落ちにくくなるからまっすぐ進む球になるってこと?
イエス! では、ボールを横に回転させてみたらどうなるでしょう?
同じように考えると、上から見て反時計回りに回転させたら左向きにボールが動いて、時計回りだと右向きに動くってこと?……あ! 右ピッチャーだとカーブとシュートのことだ! なるほど、回転や投げる速さをコントロールすることで、球にいろんな変化をさせるわけだな。すごい!
変化球は昔から投げられてるけど、ボールと空気の関係を精密にシミュレーションするのは、とっても難しいんだ。例えば、フォークボールが落ちる理由をコンピューター解析した研究は、2021年に発表されているよ
つい最近じゃん! でもでも……回転しない球を投げたらどうなるの?
いいところに気づいたね。実は、ナックルボールって呼ばれる変化球は、回転させないようにボールを投げるんだ。するとボールの後ろ側に、とても乱れた空気の流れや渦が生まれるんだ。この影響で、ボールはグラグラと不規則な動きをしてしまう。投げた本人もどう動くかわからないそうだよ
ま、魔球だ! あ、サッカーの本田圭佑選手が蹴る無回転シュートを「ブレ球」って呼ぶのも、同じこと?
そのとおり! サッカーやバレーボールでも使われる「乱れた空気の流れ」は、身近なところにもあるんだよ。例えば、細長い電線が横風に吹かれてピューッてうなるのを聞いたことない? あの音も、電線の風下側にできる空気の渦のせいなんだ
へー!
風の強いところに建つビルや煙突、橋などには、空気の流れから受ける力の影響を抑える工夫がされているんだよ
変化球の話からまさかこんな話につながるとは……びっくりだね。空気から受ける力をあなどっちゃいけないんだなあ
身の回りで風を受けているものはたくさんある。見えない空気の流れを想像しながら、じーっと眺めてみると、今まで気づかなかったような新しい発見をするかもね
イラスト:こばやし あさみ
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