領土って何だろう【月刊Newsがわかる6月号】

スクールエコノミスト2026 WEB【桐朋中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は桐朋中学校を紹介します。

クリエイティブな数学力をめざせ! 未知の領域に果敢に挑む生徒たち

<注目ポイント>
①入試問題から定期試験まで、『見たことのない問題』への挑戦。
②中1から高3まで『論理を積み重ねる』系統的な数学教育。
③中学生が自分たちで定理を発見できる、創造的な教育の場。

数学入試問題に込められたメッセージ

 時代を切り拓く「自律的な学習者」の育成をめざす桐朋中学校。時代におもねらず常に時代を貫く気概と校風が脈々と受け継がれている。外部入学者を受け入れ、高校での成績別・文理分けクラス編成を行わない校風は、多様な思考や背景を持つ生徒たちが共に学ぶ環境の重要性を示している。

 その歴史は、民主主義に基づく社会形成に役立つ人間育成を掲げて1947年に教育基本法原案作成者の一人である務台理作が校長に就任したことに始まる。その理想は、閉塞感に苛まれる現代においても継承され、その状況を切り拓く上で必要とされる「自らの意志で学び続ける姿勢」「自主性」「協調性に富む人格」の育成に力を入れる。

 論理を積み重ねて思考することは社会生活でも大いに役立つという信念のもと、中学から高校まで系統的な数学教育を実践。複雑な問題に論理的にアプローチできる人物の育成を目的としている。例えば『円に無作為の弦を引いたとき、その弦の長さが円に内接する正三角形の辺の長さより長くなる確率を求めよ』というベルトランのパラドックスがある。「無作為」に対する規定がないため、前提の置き方次第で正解は無数に出てしまう。このような論理的思考は、人の意見・主張や新聞・テレビ報道を精査し、正しく理解するためにも重要だ。

 数学で育まれる論理的思考の入口となるのが入試問題だ。桐朋の算数入試では、難易度を段階的に配置しながらも、50分で見直すことができる設計を心がけている。

 数学科の栗原忍教諭は「平均点を6~7割に想定し、段階的な成績分布によって選抜機能を果たす問題。また、最後の10分で解ける最終問題は、意図的に見たことのない問題を配置しているが、解くためには中高の数学知識は必要ない」と説明する。最終問題には、習った知識を応用して初めて見る問題に挑戦させる意図と、受験生に向けた『創造的に考えてみよう』というメッセージが込められた設計になっているのだ。

中1で学ぶ系統的ユークリッド幾何学

 桐朋では、論理的思考の基礎として中1から「ユークリッド幾何学」に取り組む。ここで用いられるのが、演繹による論証にこだわった独自教科書で、そのスタイルは専門書にも負けないという。生徒は、古代ギリシャから続く幾何学の伝統の中で、論理の厳密性とその美しさに触れることができる。「『錯角は等しい』『平行線の性質』などの基本的な公理から出発し、ここを起点に中1から体系的に学ぶ」と栗原教諭。

 証明問題では、丁寧な答え合わせが重視される。自分の間違いは、答えの書き方なのか、論理破綻なのかの判断は中1では難しい。授業では生徒の解答を一文一文検証し、論理が飛んでいる箇所を丹念に指摘する。この丁寧な指導の中で培われた「論理を積み重ねる思考」により、生徒は正解に至る思考の道筋を自分のものにしていく。高校数学は公式などを丸暗記する勉強法での対応は難しい。そこでつまずかないためにも、こうした思考訓練は重要なのだ。

 同時に、問題をじっくり考える習慣も重視する。わかりやすいことがトレンド化する昨今だが、わからない事に挑む力をつけることは論理的思考の基礎になる。解けなくても答えを見ずに、5分、10分はしっかり考え、絵や図を描いて試す習慣をつけることが実は大切なのだ。社会には正解のないものや論理が不完全なものが多い。例えば死刑制度の是非などは大人でも判断が難しいが、互いの主張、論理を徹底的にじっくり話し合い理解する姿勢を持つことで問題解決への何らかの方向性は見出せる。

数学の授業は、生徒が自分の解法を板書し、教員が添削する形式が多い

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