Woodを使ってGoodな未来へ【月刊Newsがわかる5月号】

スクールエコノミスト2026 WEB【海城中学校編】

スクール・エコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は海城中学校を紹介します。

コミュニケーション力を重視した学びが 自由な発想と多様性溢れた校風を創る

<注目ポイント>
①言葉の世界を広げる学びが、真の多様性を認め合う力を育む。
②身体と心に結びついた体験が、自己形成と他者理解を深める。
③段階的に深化する国語教育が、未知の課題に向き合う力を培う。

建学の精神に根ざすユニークな国語教育

「国家・社会に有為な人材の育成」を建学の精神に掲げる海城中学校。時代とともに進化する現代において、「有為な人材」とは「新しい学力」と「新しい人間力」をバランスよく兼ね備えた人材であると海城は考える。「新しい学力」とは、課題を自ら設定し解決する能力を指す。一方、「新しい人間力」は、他者との対話を通じて相互に学び、協働する能力のことである。

 こうした理念を実現するために、海城では、様々な教育実践に取り組んでいる。代表的なものとして、2つの体験学習プログラムの導入が挙げられる。一つがPA(プロジェクトアドベンチャー)で、身体を動かしながら課題解決に取り組むものだ。個々の異なる強みを最大限に活用する創発の体験と、挑戦には仲間の支援が不可欠であることを体験的に学ぶ。もう一つがDE(ドラマエデュケーション)で、演劇ワークショップを通じて「価値観の異なる他者と協働して問題を解決するコラボレーション能力」や「対話的なコミュニケーション能力」を育成するものだ。これらのプログラムは、後述する国語教育と同じ理念に基づいている。

 国語教育で特筆すべきは、グループワークや相互評価・添削を通じ、多様な他者と協働する力の育成を目指している点だ。一般的な受験対策国語が論理的読解力と記述力に重きを置くのに対し、海城の国語では、これに加えて対話的・協働的な学習を重視し、将来にわたって役立つ「新しい人間力」を育む。

 例えば、中1では夏休みの宿題として、「Picture」(写真)と「Dictionary」(辞書)を組み合わせて「Pictionary」と名づけたアルバムを完成させる。「Pictionary」には1ページに1つの言葉(「憧れる」「芸術」「潤い」など)が記されており、その下には写真を貼り付けるスペースがある。生徒たちは言葉の意味を辞書で調べて書き込み、その言葉にあわせた写真を貼る。同じ「憧れる」でも、自分が憧れの対象の写真を貼る生徒もいれば、憧れている対象を見つめる人の姿を撮影する生徒もいる。同じ「芸術」でも、何を芸術とするかは様々だ。夏休み明けには、それぞれが作ってきた「Pictionary」を鑑賞し合う。多様な解釈を共有する中で、同じ言葉でも、それが喚起するイメージが人によって異なること、見え方が変わることに気づくことになる。

 国語科主任・中村陽一教諭は、「言葉を学ぶことは世界を認識することに直結している。様々な言葉とその意味を知ることで、世界がより細やかに見え、世界の彩りがより豊かになる」と述べている。中村教諭は、言葉は頭だけで理解するのではなく、体や心を通じて習得されるべきものであり、こうした体や心と結び付いている言葉を自分のものにすることが自分の世界を広げ、自己形成につながると強調する。また、「異なる価値観を持つ人が集まるからこそ、新しい問題を解決できる。これが真の多様性を生かすこと」と、多様性と「新しい学力」たる課題解決能力との関係を指摘する。

協働しながら多様な解釈に触れる

 中2が読み進める教材の一つである太宰治の「走れメロス」では、「スティルイメージ」という学習活動を導入する。各班(6~7人)が小説から異なる5つの場面を選択し、それを教室外で演じ、写真に収めるというものだ。生徒たちは皆楽しそうに取り組み、積極的に参加している。

 例えば、王様の表情一つ、メロスの手の位置一つをめぐって、班内で議論が繰り広げられる。「この場面の王様は威圧的な表情を見せるべきか、余裕を持った顔であるべきか」といった意見が出ると、小説の細部を何度も読み返すことになる。その過程で、文章を読む力が磨かれ、他者の解釈を聞くことで自分の読みの幅が広がる。別班が同じシーンを選んでも、撮影される写真は全く異なったものになる。その違いを認め合い、相互に学び合う経験が、多様性を尊重する姿勢へとつながっていく。

 国語科副主任・鈴木仁義教諭は、「楽しみながら取り組むことを通じて、活発なコミュニケーションが生まれ、普段授業では発言しない生徒も積極的に表現するようになる。重要なのは活動後に振り返りの時間を必ず設けて、自分たちの学びを整理すること。こうした活動を通じ、中学受験の経験から国語に苦手意識があった生徒もそれが払拭され、その後の学びの吸収は大きく違ってくる」とその意義を語る。

撮影中も話し合いを重ねながら、「走れメロス」の場面を表現する

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