エリザベス女王(95)が2月6日、イギリスの君主(国家元首)として在位70周年を迎えました。この記録は、イギリス史上で最も長く、現在世界にいる君主の中でも最長の在位記録です。今年96歳になるエリザベス女王はどんな人なのでしょう? イギリスの王室や政治外交史に詳しく、『エリザベス女王』の著者でもある関東学院大学教授の君塚直隆さんに話を聞きました。【木谷朋子】
◇どんな人なの?
1926年生まれのエリザベス女王は、正式にはエリザベス2世と呼ばれます。本名は「エリザベス・アレキサンドラ・メアリ・オブ・ウィンザー」。お母さんのエリザベス、ひいおばあさんのアレキサンドラ、おばあさんのメアリの名前をもらいました。
女王は10歳のとき、伯父さんの国王エドワード8世が国王をやめてしまったため、お父さんのヨーク公がジョージ6世として即位し、突然、王位継承順位1位になりました。
47年に、ビクトリア女王の血をひくギリシャ王室出身の海軍大尉、フィリップさん(のちのエディンバラ公)と結婚し、52年2月6日に25歳でイギリスの王位につきます。
イギリス(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の王は、カナダやオーストラリア、ニュージーランドなど、世界15か国の国家元首でもあります。これらはイギリスがかつて植民地支配していた国々です。また、イギリスの自治領や植民地だった国々と作る「コモンウェルス(イギリス連邦諸国)」の首長も務めています。現在その数は54か国もあります。
女王はまじめな責任感の強い性格といわれ、「ノブレス・オブリージュ(身分の高い者は、それに応じた社会的な責任と義務がある)」の精神で公務を行っています。
◇どんな仕事をしているの?
エリザベス女王は「君臨すれども統治はせず」の立憲君主制の女王です。国会の開会宣言や首相任命、議会で法律が施行される前に承認するなど、儀式的な仕事以外、政治には関わりませんが、「国の顔」としての責任を多く担っています。
ただ、政治に関与しないわけではありません。議会の開催中には、女王は毎週1度首相と会い、政治課題について話し合っています。女王の70年の在位期間中、今のボリス・ジョンソンさんまで、14人の首相が任についています。女王は「政治的な経験を保てる唯一の政治家」とも呼ばれています。
新型コロナウイルスの広がりで今は減っていますが、王室の公務(仕事)は年間3000件以上あります。中でも女王の公務は、外国の王や首相などをもてなす宮中晩さん会の主催、勲章の授与などさまざまです。子どもの支援、芸術や科学、環境保護活動など、約3000ある団体の会長や総裁を務め、他の王室メンバーたちと分担して活動を行っています。
女王や王室の役割は「国家に継続的な安定性を与えること」です。王室外交は、政治に関係なく、さまざまな国の人と会い続けることで、政治を行う政府を助ける存在だそうです。
◇イギリス王室いつからあるの?
イギリス王室は、1066年のウィリアム1世の即位でノルマン朝が始まったのが起源とされ、その歴史は1000年近くにおよびます。これまで、さまざまな王朝の国王が王冠をつないできました。エリザベス女王はウィンザー朝の第4代女王です。
イギリスの王朝の呼び名は国王の爵位名か家名からとられるのが一般的です。王朝名が変わるのは新国王が即位するときに限られていましたが、エリザベス女王のおじいさんの国王ジョージ5世は、1917年、王朝名を「サクス・コバーク・ゴータ朝」から王宮がある場所の名前をとって、「ウィンザー朝」に変えています。
歴史的に有名な王は、イギリス繁栄の基礎を築いたヘンリー8世(1491~1547年)と、大英帝国の最盛期を築いたビクトリア女王(1819~1901年)です。
◇王位継承どうなっているの?
イギリス王室の王位継承権は、1701年の王位継承法という法律が元になっています。しかし近年大きく改められました。
現在、エリザベス女王の王位は第1王子のチャールズ皇太子(73)が継ぐことになっています。王位継承順位の2位は、チャールズ皇太子の息子、ウィリアム王子(39)、3位はウィリアム王子の息子、ジョージ王子(8)です。
2011年のオーストラリアで開かれたイギリス連邦加盟国の首脳会議では、カトリック(キリスト教の教派の一つ)教徒と結婚しても王位継承権がなくなることはないことと、男女関係なく、最初に生まれた子どもが王位を継承することになり、13年に新しい王位継承法が定められました。
また、イギリス連邦加盟国の首脳は18年4月、54か国の連合体の次期首長について、チャールズ皇太子がエリザベス女王の地位を継ぐと決めました。
◇王室にはどんな人がいるの?
エリザベス女王の孫、ウィリアム王子は2011年、中流家庭出身のキャサリンさんと結婚し、注目を集めました。また、18年、ウィリアム王子の弟、ヘンリー王子(37)はアメリカの俳優、メーガンさんと結婚しました。メーガン妃のお母さんはアフリカ系のアメリカ人で、伝統を大切にしてきたイギリス王室おも、多様性を受け入れる形となりました。
しかし、ヘンリー王子夫妻は20年3月で王室を離脱し、公務から引退しました。この70年間の女王一家の歩みは、穏やかなものばかりではありませんでした。特に女王が「今年はひどい年」とこぼした1992年は、居城のウィンザー城が火災に見舞われたほか、女王の息子、チャールズ皇太子とダイアナ元妃が別居を発表(のちに離婚)するなど、さまざまなできごとがありました。
これらのできごとを通じて、女王は「王室は特別」という意識が国民になくなってきていると感じたといいます。時代に合った王室を築こうと努力し、SNS(ネット交流サービス)なども積極的に活用しています。女王自身が、20~21世紀の王室の歴史の生き証人といえます。
(2022年02月09日掲載毎日小学生新聞より)
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エリザベス女王
史上最長・最強のイギリス君主
著者:君塚直隆 出版社:中央公論新社 定価:990円