寝る子は育つ睡眠学【月刊Newsがわかる1月号】

血液型によって性格の違いはある?   <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

むかしの学会も否定した……コーノさん

 はっきり答えよう。血液型と性格には関連性がない。大人の人でも、「あの人はB型だから、こういう性格をしてる」とか、「あなたはO型だから、こういう性格のはずだよ」とか言う人いるよね。でもそれは、全部間違い。血液型と性格の間に関連があると信じている人がいるのは、実は日本と日本に影響を受けた二、三の国の人だけなんだ。

 むかし日本のある学者がABO血液型と性格の間に関連があるのではないかと思って仮説を立てたんだ。むかしは軍隊に入るときにはみんな血液型を調べていたのだけど、それと性格とが関係しているのじゃないかと考えた心理学者がいたんだ。でも、あまりにも当てはまらないので、自分でもその説を撤回したし、その当時の学会も否定した。これまで何度も調査が行われたのだけど、関係が認められないという結論に達している。血液型の分類は、ABOだけで分けるわけではなくて、Rh式という分類もある。でも、「あの人はRh何型だから、こういう性格なんだ」とか聞いたことないでしょ。

 それに、日本ではA型、B型、O型、AB型が比較的バランスよく分かれているけど、アメリカのアフリカ系の人たちは8割がA型だし、ほとんどの人がB型の島もある。だとすると、その人たちはみんな同じような性格をしているのかな。そんなことはないよね。それから、性格って変わることもあるけど、そうなると血液型も変わっちゃうの? そんなことないでしょ。だからこの話はウソなんだ。

心のどこかで信じている?……ゴードさん

 そう、コーノさんの言う通り、血液型と性格には何の関係もない。それなのに不思議なのは、日本では未だに多くの人が、この間違った考えを信じているってこと。「○○ちゃんは几帳面だからA型でしょ」とか「私はO型だからおおざっぱ」とか、しょっちゅう冗談の種にして面白がっている。

 そんなの冗談だから、本気では信じていないんじゃないかって? うーん、でも、まったく信じていなかったら、そんな話をしてもちっとも面白くないと思うんだよね。血液型の話で盛り上がれるってことは、やっぱり心のどこかで、少しは、このウソの話を信じているってことだ。

 そして、もっと不思議なのは、「血液型と性格は関係ないんだよ」と本当のことを言うと、「冗談のわからない、つまらないやつだな」「当たっているからそういうことを言うんだろう」なんて、悪口を言われてしまうこと。本当のことを言っただけなのに、どうして責められてしまうんだろう? おかしいよね!

知識を伝える側の工夫も必要……ツチヤさん

 ゴードさんが言っているようなことが起こるのは、本当のことを言う人の側にも問題があるからなんじゃないかな。たしかに、「血液型と性格は関係ない」というのは正しい科学的な知識なんだけど、そういう知識をもっている人って、自分の知識をひけらかしたり、教えるときに相手をバカにしたりすることがよくあるんだ。「君たちそんなことも知らないの? バカだなあ。そんなのウソなんだって!」。こう言われたら、ついムッとして、「だから頭のいい人は嫌いだよ!」「科学だって間違っているかもしれないのに、なんでそんなふうに決めつけるの!」って言い返したくなっちゃうよね。

 でも、これは不幸なことだ。たしかに科学も間違うことはあるけれど、長いあいだ繰り返し観察や実験を行った上で出された結論(仮説)は、単なる迷信よりもずっと信頼できる。だからこそ、そういう知識は、できるだけ多くの人に正しく伝えていかなければならない。でも、そのためには、科学者や学校の先生も、正しいことをただ言って終わりにするのではなくて、知識をもたない人に対して「上から目線」で一方的に教えるのはやめるとか、さまざまな伝え方の工夫をしていかなければならないって思うんだ。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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