2025年 重大ニュース【月刊ニュースがわかる12月号】

心って何だろう?   <この世界のしくみ>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

「心」と言えば通じるのはなぜ?……ゴードさん

 「心」という言葉は、何か物の名前のように使われているね。

 たとえば、「心が痛む」「心に響く」などというと、胃や心臓と同じように「心」という部分が体の中にあって、外で起きた出来事に、その部分が反応しているかのようだね。また、「心配り」や「心を込める」という表現から考えてみると、心を体の外に取り出して、他の物や人のところに届けられると言っているようにも思える。

 でも、本当は、心という物は存在しない。臓器でもないし、体から取り出して見たり触ったりすることもできないよね。

 私が不思議に感じるのは、誰も「心」を見たことがないし、そんな物が存在しないこともわかっているのに、「心が痛い」や「心を込める」といった表現の意味はちゃんと理解できて、話が通じるということ。どうしてみんな、こんなわけのわからないものについて、たくさん考えたり話したりするのだろう。

物しかないのに、物では置き換えられない?……ツチヤさん

 たしかに、「心」なんていう「物」は存在しない。病院でレントゲンやCT(コンピューター断層撮影)を撮っても、そこに写るのは脳や心臓といった「物(体の一部)」だけだ。

 だったら、いっそ「心」なんて言葉を使うのはやめて、全部「物」の表現で置き換えてみたらどうだろう。たとえば、僕の場合、つらいことがあって心が痛むときには、みぞおちのちょっと上のあたりがキュッと痛くなるから、これからは「心が痛い」とは言わずに、「みぞおちの上のあたりが痛い」って言ってみることにするとか……。

 うーん、なんか変だ! それだと「転んで足が痛い」って言っているのと同じだもの。でも僕が言いたいのは、「体の一部が痛い」って話じゃなくて、「僕はいまつらい思いをしている」ってことなんだ!

 あれ? じゃあその「つらい思い」ってなんだ? それが「心」なのかな? だとすると「心」は、「物」と違って見ることも触ることもできないけど、それでもやっぱり存在しているってことになるのかな?

人に隠している自分……コーノさん

 心って、目には見えないものだって言われるよね。でも、犬の場合はどうだろう。心がないかな。犬にも怒ったり悲しんだり、寂しがったり感情はあるし、頭も結構いい。だから、心は犬にもあるよね。でも犬は、人間と違って、振る舞いに表と裏がなくて、いつも本気で、いつも思いのままに行動するよね。うれしいとしっぽを振って大喜び。怒るといつまでもワンワンとほえてる。怒られるとしょげて、しっぽも垂れちゃって、「クーン」とかいっている。犬にも心はあると思うけど、外から丸見えで、心と行動にずれがないよね。人間みたいに、自分の感情を隠したり、ウソをついて本心とは別のことを言ったりしない。

 赤ちゃんもそうだよね。思いと振る舞いにずれがない。おなかが空けば泣くし、怒っても泣く。自分の気持ちを隠したりしない。でも、ある程度の年齢になった人間の心と行動にはズレができてくる。というよりも、自分の心を他人に隠したり、欺いたりする。

 だから、他人が考えていることは、自分には本当はよくわからない。口で言っていることと違うことを考えているかもしれない。ウソを言っているかもしれない。友達の性格もよくわからない部分がある。いつも自分に見せている側面とは別の側面を友達は持っている。あなたの見えないところで、友達はぜんぜん違った感じの人になっているかもしれない。

 だから、「心」って呼ばれているものって、人に隠している自分の側面のことじゃないかなって思うんだ。人からも見えていて、わかりやすい行動、たとえば、プレゼントをもらって喜んだとかは、わざわざその人の「心」って呼ばないと思うんだ。
「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中

<5人の哲学者をご紹介>

河野哲也(こうの・てつや)

立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。

土屋陽介(つちや・ようすけ)

開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。

村瀬智之(むらせ・ともゆき)

東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。

神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。

松川絵里(まつかわ・えり)

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。

 

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