数々のスターを誕生させてきた宝塚歌劇団(本拠地・兵庫県宝塚市)。その花組と月組が誕生して、2021年で100周年を迎えました。東京宝塚劇場では現在、花組誕生100周年を記念した「The Fascination!」を上演中です(27日まで休演中。公演期間は2月6日まで。今後のスケジュールはホームページで確認してください)。すべての役を独身の女性だけで演じる世界でも珍しい宝塚歌劇団について、宝塚歌劇評論家の薮下哲司さんに詳しく教えてもらったんジャー!【長尾真希子】
◇宝塚歌劇団の成り立ちを教えて
宝塚歌劇団の基礎をつくったのは、阪急電鉄や東宝を作った実業家、小林一三さん(1873~1957年)です。電車の乗客を増やす目的で1913年に「宝塚唱歌隊」を小学校を卒業したばかりの少女16人で結成。第1回公演が1914年に行われました。当時の観客席は水を抜いたプール、舞台は脱衣場でした。
「なぜ女性だけの劇団を作ったのかというと、小林さんのライバル意識だと言えます。当時、三越百貨店が少年音楽隊を編成して大人気だったことから、『うちは少女でいこう』といった鶴の一声で少女だけの唱歌隊が結成されたのだとか。それが元祖で今に至っているなんて、面白いですよね」と薮下さんは話します。
◇組制度って何?
花・月・雪・星・宙の5組と専科がありますが、1914年の初公演の時は組がありませんでした。初舞台を踏んだのは17人だけで、組を分ける必要がなかったのです。今では団員が400人以上います。
組制度ができたのは、劇場を増やしたことがきっかけです。1921年3月に生徒を2部に分けて二つの劇場で公演を始め、その年の秋に1部を「花組」、2部を「月組」と改称しました。「当時の花組はベテラン、月組は新人で構成されていました。『モン・パリ』などの王道作品があり、えんび服によるダンスが美しい花組は『ダンスの花組』、大地真央さんや天海祐希さんらを早くにトップスターに抜てきし、『ベルサイユのばら』などの大作の初演を成功させた月組は、『若さと芝居の月組』とも言われています」と薮下さん。
ちなみに雪組は24年、星組は33年にそれぞれ、宝塚大劇場と東京宝塚劇場のオープンに備えてできました。宙組は東京でも年間通して公演できるよう、98年に発足しました。「80人以上が一堂に会し歌い踊る舞台を毎日上演しているのは、世界中どこを探しても宝塚歌劇しかありません。華やかな生の舞台を小学生のみなさんも一度体験してみてください」
◇トップスターって?
宝塚歌劇団の団員は全員女性なので、男性の役も女性が演じています。男性の役を演じる人は「男役」、女性役を演じる人は「娘役」と呼ばれています。団員の愛称は「パリジェンヌ」と宝塚をもじって作られた「タカラジェンヌ」です。
各組の頂点に立つのが、男役のリーダーで、公演では主役を演じるトップスターです。「『男役10年』と言われるように、トップスターになるには入団してから10~15年かかります。男性のしぐさや声の出し方などを習得するには、それぐらいの訓練が必要なのです」と薮下さんは話します。
みなさんも舞台のフィナーレで大階段から誰よりも大きな羽根飾りを背負って下りてくるトップスターの姿をテレビなどで見たことがあるかもしれません。400人以上いる団員の中で5人しかなることができないトップスター。「トップスターは、歌、ダンス、芝居、スター性、そして何よりも運がないとなれません」
◇タカラジェンヌになるには?
宝塚歌劇団へ入団するには、宝塚音楽学校(兵庫県宝塚市)へ入学しないといけません。宝塚音楽学校とは、「清く正しく美しく」がモットーの2年制の宝塚歌劇団団員養成所です。
入学するには、20倍前後の高い倍率を勝ち抜かねばなりません。「1994年に最高倍率の48・25倍を記録しました。その入学の難しさから『東の東京大、西の宝塚』と言われます」と薮下さんは話します。
受験資格は中学卒業の年から高校卒業の春までで、最大4回受験することができます。定員は約40人。3次試験まであり、実技より面接を重視しています。
入学すると、週約40時間の厳しいレッスンが待っています。1年生は予科生、2年生は本科生と呼ばれ、バレエや演劇、声楽、ピアノ、日本舞踊などのほか、礼儀作法などもみっちりたたき込まれます。卒業すると、晴れて宝塚歌劇団に入団できますが、入団後は研究科1年生という位置づけで、その後も学校と同じようにレッスンや試験があるため、さらなる苦難の道のりが待っています。なお、希望者は追加で特別授業を受ければ、高校卒業の資格ももらえます。
◇宝塚歌劇団の歴史を学ぶ施設はあるの?
2014年に宝塚大劇場内にオープンした「宝塚歌劇の殿堂」で学ぶことができます。三つのゾーンで構成され、「殿堂ゾーン」では、宝塚歌劇の発展に大きな貢献をした宝塚歌劇団の卒業生ら105人の功績を写真などで紹介するとともに、ゆかりの品も数多く展示しています。また、「現在の宝塚歌劇ゾーン」では、最近の公演で実際に使用した舞台衣装や小道具なども間近に見ることができます。
「企画展ゾーン」では、現在、「花組月組100周年展」を開催しています(1月31日まで)。花組・月組誕生から現在に至るまでの歩みを年表形式で紹介するほか、花組・月組の歴代公演ポスター(レプリカ=複製品)約450枚や舞台衣装なども展示しています。歌劇事業部の施設担当者は、「宝塚歌劇の歴史と今を楽しく勉強できる施設なので、ぜひ、足を運んでほしい」と話しています。
開館時間は、1回公演の場合は午前10時~午後5時、2回公演なら午前9時半~午後5時。宝塚大劇場の休演日は休館。入館料500円。(2022年01月26日掲載毎日小学生新聞より)