誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、哲学者が、子どもたちとともに考えていくという形で書かれた「子どもの哲学」シリーズの第2弾『この世界のしくみ 子どもの哲学2』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。
人にバカにされないため……ムラセさん
たしかに、不思議だよね。おしゃれをどのくらい重要なものと考えるかは人によって違う。僕の場合は、服なら暖かさや着心地といった使い心地が重要で、あまりおしゃれには気を使っていない。だって、どんなおしゃれもそれなりにお金と労力がかかるからだ。おしゃれって直接的には「役に立たない」。だから、役に立つ、暖かさとか着心地とかで選んでしまうんだ。
といっても、使い心地が同じで、値段も同じなら、おしゃれなものを選んで着ると思う。なぜなんだろう?
僕の場合は、周りによく思われたいからだ。「おしゃれだな」とか「カッコいいな」とかって思われたいわけじゃない。もちろん、そう思われたらうれしいけど、それよりも重要なのは「場違いだな」とか「変な格好をしているな」とか思われないことだ。つまり、周りにバカにされないためにおしゃれをしているんだ。
おしゃれは自分の外側を飾ることだ。だから、おしゃれに着飾るときには、周りからどう見えるかが一番重要なものだと僕は思う。仮に周りから人がいなくなったり、鏡がなくなって自分の姿が見えなくなったりしたら、おしゃれをする人はいなくなるんじゃないかな。
自分を楽しませるため……ゴードさん
うーん、ムラセさんの言うことはもっともだ。でも、私は誰にも会わずに一人でいるときも、できたら、すてきな格好をしていたいと感じる。どうしてかな。
もしかしたら、自分の近くには自分が気に入っているものを置いておきたいのかもしれない。たとえば、お布団のカバーとか、家でふだん使う食器とか、誰かに見せるわけじゃないものでも、自分の好きな色や柄のものにするとうれしい気分になる。それと同じで、自分が着る服も、自分自身を楽しませるために、気に入ったものを選ぶんじゃないかな。あまり好きじゃないものに囲まれていると、暗い気持ちになってしまうから。
それから、悲しい気分のときには暗い色の服を、思いっきり遊ぶときは明るい色の服を、自然に選んでいるような気もする。おしゃれはたしかに、自分の外側の見た目を飾ることなんだけど、それは自分の心の中とも強く結びついていると思うな。
おしゃれ=服なのかな……ツチヤさん
ムラセさんは、おしゃれをするのは「周りからどう見えるか」が気になるからだと言う。そう考えると、なんでみんな流行を気にするのかの説明もつくね。みんながはやりの服を着ているのに、一人だけ流行遅れの服を着ていたら、周りの目が気になる。だからみんな流行に乗り遅れないように必死なんだ。このことの根っこには、人と違った格好をしていると周りから変に思われるっていうことがあるけど、それって人を見た目だけで判断しているということなんじゃないかな? それに、そうやって周りから浮かないように、周りに合わせるためだけにするおしゃれって、そもそも楽しいのかな?
これに対して、ゴードさんは、おしゃれをするのは「自分自身を楽しませるため」でもあると言う。この気持ち、よくわかるけど、それなら服よりも、カバンとかペンとか、自分からもよく見えて手に取れるものを自分のお気に入りでそろえた方が楽しくない? 実際に僕は服よりも、毎日使って自分からもよく見ることができる日用品の方に、選ぶ時間をかけている(僕がいま気に入って毎日使っているコーヒータンブラーは、ちょっと自慢の一品だ!)。だから、なんでおしゃれというと、みんなまず「服」のことを考えるのかが疑問なんだ。
★「てつがくカフェ」は毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中
<5人の哲学者をご紹介>
河野哲也(こうの・てつや)
立教大学文学部教育学科教授。専門は哲学、倫理学、教育哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」副代表理事。著書に『道徳を問いなおす』、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』、共著に『子どもの哲学』ほか。
土屋陽介(つちや・ようすけ)
開智日本橋学園中学高等学校教諭、開智国際大学教育学部非常勤講師。専門は哲学教育、教育哲学現代哲学。NPO法人「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」理事。共著に『子どもの哲学』、『こころのナゾとき』シリーズほか。
村瀬智之(むらせ・ともゆき)
東京工業高等専門学校一般教育科准教授。専門は現代哲学・哲学教育。共著に『子どもの哲学』、『哲学トレーニング』(1・2巻)、監訳に『教えて!哲学者たち』(上・下巻)ほか。
神戸和佳子(ごうど・わかこ)
東洋大学京北中学高等学校非常勤講師、東京大学大学院教育学研究科博士課程在学。フリーランスで哲学講座、哲学相談を行う。共著に『子どもの哲学』ほか。
松川絵里(まつかわ・えり)
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任研究員を経て、フリーランスで公民館、福祉施設、カフェ、本屋、学校などで哲学対話を企画・進行。「カフェフィロ」副代表。共著に『哲学カフェのつくりかた』ほか。
画像をクリックするとAmazonの『この世界のしくみ 子どもの哲学2』のページにジャンプします