大阪・関西万博まるわかりガイド【月刊ニュースがわかる7月号】

スクールエコノミスト2025 WEB【海城中学校編】

スクール・エコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は海城中学校を紹介します。

社会的な背景を踏まえた音楽の学びは、豊かな感性と人間力を育む大切な時間

<注目ポイント>

①音楽での活動性や感性教育はバランスのよい精神状態を生む。

②社会的、文化的背景を踏まえた鑑賞授業で社会的存在意義を認識。

③新しい紳士像を体現する海外トップ大学進学者たち。

感性教育としての音楽を楽しむ

 始業ベルの音とともに、生徒たちが合唱パートのテノールとバリトンに分かれて着席する。昨年夏にリニューアルした海城中学校の音楽室は「歌いたくなる空間」をコンセプトに校内コンペに勝ち抜いた生徒チームがプロデュース。教壇側の前方へ行くほど天井が高くなることで、声を出させる心理的効果があるという。

 この日は音楽を選択した高3生の最後の授業ということで、ピアノ伴奏者として芸術科音楽の齋藤亮次教諭の大学の友人であり、同校オリジナルの合唱曲の作曲者でもある河谷萌奈美氏も参加。河谷氏の紹介時には「うおお〜!」と男子高校生らしい歓声が湧き上がる。まずは全員での身体のストレッチを行い、次に裏声で、低音で、少しずつ音量を上げて……など様々な発声練習で喉をリラックスさせた後に、いよいよ合唱のスタートだ。

 まずは校歌を斉唱後、河谷氏のピアノ伴奏付きで歌い始めた。驚いたのは男子校にありがちなおふざけや、歌わない生徒はほとんど見られないこと。皆、譜面を目で追いながら、齋藤教諭の「ここから大きくなるよ〜!」といった歌唱中の指導に従い、4曲ほど滔々と歌い上げていった。

 海城の合唱の授業は、昔ながらの授業の流れともいえる。しかし、受験とは関係しない感性教育として位置づけられる音楽の授業を生徒たちは、想像以上に楽しみ、没頭している様子が見てとれた。進学校である海城では高2、3年生ともなると受験勉強が本格化し忙しくなるが、音楽での活動性や感性教育はバランスのとれた精神状態を生み出すといい、「音楽だけでなく美術や体育の授業も人気があります」と齋藤教諭は教えてくれた。

マイナスイメージから出発する音楽教育

 音楽は中学受験科目にないだけでなく、小学校の音楽教員との関係がうまく取れなかった経験から、音楽嫌いの新入生も多いという。このため、齋藤教諭は「中学3年間でマイナスイメージからゼロまで引き上げるのが目標。歌唱試験で重要な評価ポイントは大きな声で歌えること」と語る。

 海城では中1~3年生と、高2~3年生の選択者に対して音楽の授業を実施している。中学では歌唱、アルトリコーダー、鑑賞(座学)をバランスに配慮しながら授業を行う。高校では斉唱、合唱が中心となり、これまでにミュージカルの名曲『Seasons of Love』や『Another Day of Sun』、また、あいみょん作曲、石若雅弥編曲『愛の花』なども扱ってきた。実は教科書に掲載されている合唱曲は共学校向きのものが多い。そのため、男子生徒の心に響くような詩や内容が盛り込まれた海城オリジナルの教材も作成し使用するようになった。今はその価値がわからなくても、大人になっていい曲だったと思えるような詩、そしてその内容にしっかりと関連づけて構成されている曲を選んでいるという。保護者から『子どもが音楽を好きになった』という声が寄せられるのは嬉しいと齋藤教諭は語る。