アニマルウェルフェアを学ぶ【月刊ニュースがわかる6月号】

スクールエコノミスト2025 WEB【恵泉女学園中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は恵泉女学園中学校を紹介します。

聖書で学ぶ人間尊重と多様性理解が、人間心理に踏み込んだ歴史教育を生む

<注目ポイント>

①キリスト教教育と礼拝中の感話が生徒の生き方の軸をつくる。

②世界に目を向け、平和を実現する女性を育てる教育。

③写真や資料を通じて時代背景や大衆心理を理解する歴史総合。

「一人ひとり違っていい」を知る聖書教育

 『武士道』の著者として有名な新渡戸稲造の愛弟子であり、敬虔なキリスト教徒だった河井道が創立した恵泉女学園。聖書・国際・園芸を教育の柱に据え、主体性・多様性・協働性を育んでいる。毎日の礼拝や聖書の授業、キリスト教の様々な行事を通じた人間教育を基盤とする。キリスト教教育では、人間は一人ひとりがかけがえのない存在であり、神に平等に愛されていること、それぞれが自らの存在の意味を発見し、違いを認め、協力して生きていくことを学んでいく。

 「平和を作り出す女性の育成」のために河井によって設けられた聖書科は、中学においては「道徳」に代わる役割も担っているという。中1の聖書の授業では、様々な登場人物の人生を疑似体験し、行動の裏に隠れた人間心理への想像と異なる考えへの理解の大切さを学んでいく。「聖書という3世紀の物語は私たちに何を伝えようとしているのかを考えてもらっています」と語る非常勤講師の森恵教諭は続けて、「『私たちは神様から一人ひとり与えられた命であり、隣にいる友人は誰かのコピーではない。私たちは一人ひとり違っていい、かけがえのない命である』という話に、ハッと驚いた顔をする生徒も少なくありません。当たり前のことなのですが、しっかり伝えなければならないメッセージだと思います」と語る。

社会科授業の様子

 同校が大切にしている活動のひとつに、礼拝での「感話」がある。感話とは、日頃感じたり、考えたりしたことを文章にまとめたものである。書くことで、生徒は自己を見つめ、内面を掘り下げる経験を積んでいく。そして、どんな話をしても静かに受け容れられる礼拝の場で、感話を読み上げ、他者の感話を聞く。先生や仲間の考えや心に秘めた思いを知ることは、他者を尊重する姿勢や共感力を育む。感話が友人との信頼関係を築き、自己の内面的成長につながったと振り返る生徒もいるそうだ。

人間・河井道の生き方から学ぶ歴史総合

 17世紀以降の世界と日本の歴史上の出来事が生じた背景やその影響を考え学ぶ高1の歴史総合。資料に親しみ、問いを立て答えを導く探究活動を通して現代の課題解決に向かう姿勢を培うことを教科目標としている。

 特徴的なのは、対象とする時代に作成された一次資料を用いて、河井道の学園創立の思いと様々な苦労を知ることからスタートする点だろう。「第一世界大戦後の世界について」というオリエンテーションでは、「河井先生が恵泉を設立しようと思ったのはなぜだろうか?」という問いを投げかける。生徒募集の新聞広告や新女学校創立予算などの資料、当時の講演内容記事、そのほか第一次世界大戦開戦から恵泉女学園創立までの世界と日本の出来事に、河井の行動を加えた年表などを提示し、当時の国際情勢や日本の状況を読み取りながら、自分の考えをまとめていく。

 河井が学園を創設したのは奇しくも世界恐慌が起きた1929年。その後、日本は昭和恐慌に陥り、軍国主義化が進み、世界は戦争へ向かっていった。そのような時代背景のなかで、平和を追求し作り出す女性の育成のための学校設立の意義とともに、河合の当時の社会・時代との向き合い方、生き方について学んでいく。